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2-29奮闘した悪役令嬢の集大成②

 エリーがご機嫌伺いで持ってきた赤いバラに、ザカリーが反応した。

 すまし顔でエリーが置いたバラは、お母様自慢の残念な庭園から失敬してきたのだろう。ジェムガーデンの花とは違う。


「ザカリーその毒は、い、い、いつ見せられたのよ」


「聖女ちゃんと初めて会った後、直ぐに。聖女ちゃんの騎士と帝国の皇子を殺すのに使えって。でも断ったじゃん」


「どうしてそんな大事な話を、今日まで言わないのよッ」


「だって、花なんて知らないからな。それに、聖女ちゃんの騎士には事前に忠告したし。昨日、聖女ちゃんの騎士の所へセドリックと会いに行ったけど、元気だったじゃん」


「ふ~ん。三人で随分と仲がいいわね。どういう関係よ」

「俺は御者として、セドリックの足に使われただけだよ。セドリックが騎士と二人きりで話していたからな」


「お兄様はブライアン様と会っていたの? どうして私は何も聞いていないのよ」

「さあな」


 ザカリーの赤い瞳が僅かに揺らぐ。何かある。私に何かを隠している。

 考えろ。どうせ兄に買収されているはずだ。ザカリーに吐けと言ったところで、素直に吐くまい。


「あぁ~そうだった。以前ザカリーに渡した聖女の薬。あれ、そろそろ効果が切れるんじゃないかしら。その証拠に今、あなたは筋力も体力も格段に上がっているでしょうが、予言してあげる。その効果、今日の午後で切れるわッ!」


 顎をつんと上げて言い放つ。

 よし、決まった。

 この男を騙すには、胡散臭い方がより効果的だと、近頃、攻略したばかり。

 病気を治すノースポールは、時限魔法ではない。でも。これはこの先も利用できる。悪いがこの嘘はどこまでも貫かせてもらう。

 私もがっかり庭園からノースポールを失敬すれば、万事問題はないもの。


「あっ、だからか。今朝から少しだけ、動きが鈍くなってきたのは。なあなあ、聖女ちゃんの薬、妹に持っていくから、新しいのをくれよ」

「じゃあ、交換条件を出すわ。昨日、ブライアン様から何を聞いたの。全て白状なさい。私はあなたの嘘を見破れる、聖女なのよ。隠し立ては許さないからね!」


 それを聞いたザカリーは、床にドカンと胡坐をかくように座り、頭を抱えている。

 ――彼がそうしてから十五分以上経過した。

 あまりにも動かないから寝ているのかと思い顔を覗き込むが、表情は真剣そのもので、唇を固く結び何かを悩んでいる。

 それほどまでに言えない事なのか……。こうなれば、悩む彼が可哀想に思えてきた。


「ザカリー。もういいわよ。私、ブライアン様に直接聞きに行くわ」

「聖女ちゃんの騎士は、会ってくれないと思う」


「そう。じゃあ、お兄様に聞くわ」


「セドリックは昨日から、王城の庭に籠もっているから会えないじゃん」

「嘘でしょう。……酷い。皆、私をのけ者にして」


「いや、俺には分からないけど、聖女ちゃんを心配しているからだと思う。だから、喋っていいのか判断が付かない。聖女ちゃんのために黙っておきたいし、知りたがっているから教えてあげたいし」


「そう。分かったわ。残念だけど色々と諦めてちょうだい。妹さんの新しい薬をあげたいのは山々だけど、私の聖女の力が、第二王子の婚約者に奪われそうなのよね。もう、妹さんの病気は治らないわね」


「何だって! そんな大事な話をどうして教えてくれないんだよ。明日、二人目の聖女が誕生するわけじゃないのか? 聖女ちゃんが聖女ちゃんでいてくれないと俺だって困るじゃん」


「二人目の聖女? どういうことよ! 知っている話を全部教えなさい。いや、全部吐け!」

「お、怒んないで、言うから……」


「早く聞かせてなさいってのッ!」

「大聖堂の前で聖女を決める式典をするらしい」

「第二王子の婚約発表じゃないの⁉」


「う~ん。そっちはよく分からないけど、その婚約者は、あれだろう。シルバーのくるくる頭で、紫色の瞳の胡散臭い女」


 待ってくれ。その特徴に心当たりのある人物が、強烈に一人だけイメージできる。


「……シャロン? だけど彼女なら、以前、ブライアン様が王太子殿下から聞いた男爵令嬢の特徴と合致しないわよ!」


「名前は知らないじゃん」


「シャロンのどこが、可憐で、優しくて気遣いのできる慈悲深い令嬢なのよ。そんな要素がどこにあるの? 微塵もないでしょう。…………あっ」

 ……そうだった。私もシャロンに魅了されていた時は、庇護すべき令嬢と、そんな風に思っていた。だけどなぜ、シャロンが婚約者に?


「シャロンって誰だよ。俺が見たのは、王子にパクパク口を動かして、陰で指示を出してた気味の悪い女だし」


「パクパクって……それは、第二王子の癖じゃないの……」

「それは二人共やってるじゃん。何かを警戒しているんだろうさ、俺に話す内容は碌な事じゃないからな」


「二人共? どうなっているのよ」


 もしかして、ヒロインのシャロンに、何かのイベントが起きていたのか……。

 そうだ、確か王太子は失恋したはず。

 それはサミュエル殿下の婚約者、シャロンに恋して振られたんだ。


 ……乙女ゲームで王太子の最後のイベント。

 お忍びで町に出た王太子が、変装した姿で、紙袋を持ったシャロンとぶつかるアクシデント。

 シャロンはぶつかった相手に関係なく、素で、紙袋の中身が台無しになっても一切責めない。その慈悲深さに胸を打たれ、ヒロインに愛を深める話だ。確か。


 私が赤豆を買った日。このゲームの登場人物が、町に集まっていた。

 シャロンはルーカス様のためにミートパイを買おうとしていたのよ。ということは、あの日、イベントはしっかりと発生していたのか……。


 シャロンに魅了された、あの王太子であれば、その日のうちに寝所に誘ってもおかしくない。ブライアン様と一緒にいた私を適当に誘っていたくらい、その手の事に軽い王太子だもの。


 だけど、一人でいたシャロンは王太子を振ったのよね。……何の功績もない男爵家の娘が王太子を袖にする? 

 そのうえ、侯爵家嫡男のルーカス様とも喜んで婚約を解消していた。


 それはつまり、狙う人物がいたんだ。

 ――花の祭典で、シャロンはなぜかブライアン様を探していた。


「分かったわ。繋がった!」

 まずい。転生者はシャロンだ。第二王子じゃない。前世の記憶を取り戻したのが、私より後になった。それだけだ。


「あんな性悪女に聖女の力が渡れば、この国は破滅でしかないわ」

「あの婚約者が聖女候補なのか?」


「そうよ! 真面な思考があれば、第二王子と手を組まないわ。ザカリー。王城へ行くわよ。ブライアン様に会いに行く」

「それは、できないって」

「いいから。妹さんの薬、本当に手遅れになるわよ!」

「あー、それもまずい。急ぐじゃん」


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