2-22作戦会議①
1話にするには長くなったため、切りました。
前話のブライアン視点直後のアリアナ視点です。
何故か分からないが、全て順調にことが運ぶ。
こうなれば、エセ聖女万歳だ。
相当な博打に出たが、人並み外れた身体能力と知力を持った人物が私の計画に賛同してくれている。
まあ些細な問題は、知性派のお兄様が余計な話に食いつかないかと、取るに足らない冷や冷やくらいか。
ブライアン様が、「異次元」だの「手料理」だのと余計なことを口走るから、気が気ではないものの、それは、だんまりに徹する。
兎に角。説明が難しい話に広がらないように、ひたすらに口を慎み帰路に就く。
兄が一度興味を抱き追及を始めれば、転生だのゲームだのと白状させられるのがオチ。そうなれば、頭のおかしな人物認定は避けられない。ただでさえ、妄想が酷いお嬢様と思われているのに、これ以上、痛い看板を掲げられるのは勘弁願う。
あとは、歯の浮くような甘い台詞を言い続けていたブライアン様が、何故か弱気なのは気になるところ。
いつもであれば、一つ断っても手品のように、違う手札を切ってくるのに。
うーん。まあ兄の手前だし、遠慮をしているのだろう。そういうことにしておく。
それにしてもだ。兄が淑女について説教するものだから、ブライアン様へ自分の気持ちを伝えそびれてしまった。
彼を叱りつける前に、伝えるべきだったかなぁ。
いや、焦る必要はない。既に彼は、恋人だと思って私を迎えに来てくれたわけだし。
目下に迫る、すべきことを考える方が優先だ。
「ふふっ。王都に帰ったら、アルバート殿下から受け取ったバーベナでサミュエル殿下を追及しましょう」
「いいや、アリアナ。……それは無理だ」と、ブライアン様が言いにくそうに話の腰を折る。
「ええっ、どうして? ちゃんと証拠もあるし、アルバート殿下は持ち主が分かっていたのよ。帝国の第二皇子も味方になれば、なんの問題もないではありませんか」
「ああ……。それがもし本当に、王室が事件性を認めたものであれば、簡単に追及できただろうな」
「ん? だって、ブライアン様は王太子殿下にダリアをお使いになったんですよね」
「もちろんだ。私の目には、深く眠るジェイデンが、そのダリアを口にしてから直ぐに目が覚めた」
「それでしたらブライアン様も何かがおかしいと思ったから、部屋を訪ねたということでしょう。だったらどうして?」
「目が覚めたジェイデンは、自分が前日に酒を煽り、『酔いつぶれて寝坊した』と思い込んでいる。あれから、各方々にそう言いながら、すっぽかした公務の言い訳に回っていた。飲み過ぎの本当の理由は失恋だが、『祭りで浮かれた』って話にすり替えているけどね」
それはまずい。
私が何も知らず。良かれと思ったお節介が、サミュエル殿下を追及する歴然たる証拠をもみ消した気がしてならない。そうではありませんようにと願い、問いかける。
「それって、サミュエル殿下はこのバーベナを間違いなく王太子に使い、陥れようとしたけど、それ自体がなかったことになっているのですか」
「そういうことだ。正直、あの二人をよく知っているが、サミュエル殿下がジェイデンに何かを企てるとは、思えなかった。見かけ上は、権力争いも全くない、気の合う仲の良い兄弟だ」
静かに話を聞いていた兄も、ブライアン様に同感だと話に加わる。
「サミュエル殿下の裏の顔を暴くのは、難航しそうですね。私もジェムガーデンでサミュエル殿下とお話しする機会は多かったですが、穏やかそのものの殿下でいらっしゃいますから。まあ、聖女の呪文が読めないのであれば、急ぐ必要もないでしょう」
「ああ、そのとおり。策をゆっくり考えても問題はないだろうさ。こちらも台風の襲来があるとなれば、軽々に身動きが取れないからな」
二人の言いたいことは分かる。でも駄目だ。おそらく第二王子は転生者。そうでなければ、私を「悪役令嬢」と呼んだ説明ができない。
「……だけど。サミュエル殿下は聖女の呪文は読めると思います」
「アリアナ、それはちょっと大げさじゃないかな。バーベナは長年、サミュエル殿下が専有していたからね。さっきアリアナが口にした『しばしの眠りを』が、バーベナの呪文であれば、私でも聖女の鍵は開けられた。ただ、殿下が口にするものだから、一度も試したことはなかっただけだ。呪文が分かったのは偶然だと思うけど」
兄の言いたいこともしかり。私の推測もそうだ。ただ、「悪役令嬢」と私を呼んだ、ザカリーに会うまでは、だけど。
「う~ん、うまく言えない。そう……これは私の勘にすぎませんが、殿下は呪文が分かると思います。だけど、聖女の実を授けるパートナーが必要になるみたいだから。結果的には、急ぐ必要はないと思うけど」
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次話は、このシーンの続きです。
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