表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/82

2-18聖女の式典① ※シャロン視点

視点はシャロンです。

……とき、戻ること三日前。アリアナが領地に到着した日の王城、つまり花の祭典から二日後。


「シャロン様。教養の時間は過ぎております。城の規則に従ってくださいませ。刺繍の教師が首を長くしてお待ちでございます」

「あたしは刺繍なんて必要ないもの、行かない」

「そう仰られても困ります。側室様でもお妃様と同様の教養は身に着けていただく必要がございますから」

「あたしは側室じゃなくて、彼の妃よ!」


 年頭のメイドはその言葉を信じていないのだろう。ふんと鼻で笑われた。従者のくせに生意気な態度は、この先ただじゃおかない。

 このメイド。会ってからというもの、あたしの体をジロジロと上から下まで見回し鬱陶しい。

 あたしが第二王子を誑し込んだ、夜伽の相手だと思って見下しているのだろう。何も知らないくせに。


 そのとき、ノックへ返事をする前に、気色ばむ第二王子が部屋へ入ってきた。

 すると、彼の姿に気付いたメイドが深々と頭を下げ、あたしの傍からさっと避け去り、彼にあたしの一番近くを譲る。


「城に来て早々どうしたのかな? シャロンは今日から僕が小麦の視察で城を空けることに、いら立っているのだろうか」


「ああ良かったわ。出発前に来てくれたのね。悪役令嬢のことで」


「イ・ウ・ナ」

 殿下は音にならない言葉を私へ伝えると、背後に立つメイドに顔を向け、安らぎに満ちた口調で話しかける。


「メイドの君は席を外してくれるかな」

 そうすれば、「かしこまりました」と、白髪交じりのメイドがいそいそと立ち去った。その途端に彼の口調も声量も変わった。


「何故、怒っているのか分からないが、与えられたことはやってくれ。兄に疑われるだろう」


「だって話が違うじゃない。ここは正妻の部屋じゃないでしょう。あたしに側室の部屋を与えるなんて、どういうことよ! 王太子殿下はどうせ眠っているんだし、問題はないじゃない」


「あぁー、そんなことか。この部屋だって十分に広いだろう。今はここで我慢してくれ。正式に婚約者の名前を周囲に知らせた後に部屋を変えるから。シャロンの要望通り宝石だって用意したし、文句はないはずだ」


「まっ、まあね」

 正直に言えば、床に敷かれた絨毯からして、毛足の良さが男爵家とは雲泥の差。

 部屋の調度品は、繊細な彫があしらわれた高級なもので揃えられ、部屋自体は非の打ちどころがないし、不満はそれではない。

 昨日の夜あたしが部屋を賜ってから、このあたしへ誰も、かしずいてこないのが気に入らない。


「陛下も言っていただろう。このまま直ぐに婚約の発表はできないって」

「納得できないわ。陛下の前で、聖女の鍵を開いたじゃない」


「ああ、そうだね。もちろん陛下も、僕とシャロンの結婚には賛成しているよ。だけど、王家の妃は伯爵家以上がしきたりだからね。男爵家の令嬢を妃に据えるのは、貴族たちから反発が起きて問題があるのは分かっているだろう。観衆の前で、シャロンでなければ駄目だと思わせる、盛大な演戯が必要なんだ」


「演戯?」

「シャロンとの婚約発表は、貴族たちの前であの光を見せてからだと、陛下に命じられた。理解してくれ」


「陛下が仰るなら、そうするしかないわね」


「花の祭典の日。陛下に見せたように同じ感じで問題はないから。バラを握ってバーベナを手元に隠せば、壇上以外の人間には、どうせ光しか見えない」


「それなら簡単だわ。集まった貴族たちは顎を外すでしょうね」

「そうだろうさ。陛下だって腰を抜かしたくらいだから」

 

 ……忌々しい記憶。花の祭典で、ゲームのヒロインのこのあたしが、見くびられた。アリアナとブライアンに。

 だけどその直後。サミュエル殿下があたしに近寄ってきた。思っていたとおりに。

 だってそうよ。あたしは湊と違って、最後のイベント以外、完全攻略している。

 サミュエル殿下が次の暗殺依頼をするために、ザカリーを呼び出していたのは、ブライアンルートで熟知済み。


 ゲームの展開では、ザカリーを確保したブライアン。彼が背後に隠すように守るヒロインを、大衆の中に突き飛ばすのが、変装したサミュエル殿下だ。

 ブライアンが、ヒロインに気をとられている間に、ザカリーを逃がすイベント。

 あの日、駒は全部揃っていたのに、アリアナがあたしの邪魔をした。悪役令嬢のくせに。


 全ての計算は狂ったが、サミュエル殿下と人目につかない所へ行き、バラの花を光らせた。

 ……思っていたとおり、彼は直ぐに目の色を変えた。

 あたしが、王太子の側室に願われていると言えば、分かりやすく焦り、正妻にすると言い出した。

 将来的に王太子を排除すれば、王妃になる日も遠くない。


 サミュエル殿下。いいえ。ゲームの悪役が、あたしの元へ真っ先に持ってきた花が、決して手を出してはいけない、永遠の憧れ「禁断の花」とはね。


 あたしが言うのもなんだけど、第二王子の性格は相当に歪んでいる。でも、あたしが聖女になれば力関係も逆転するもの。結局あたしに逆らえない。

 地位も名誉も優雅な暮らしも全て手に入る最高のルートがあるとはね。高笑いが止まらない。


一話の予定が長くなったので切ります。

次話は、このシーンの続きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2024年10月24日・31日の2週連続で、パルプライド エンジェライト文庫さまから本作の電子書籍が発売となりました!
 この作品が新たな形になるために応援をいただいた全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■書籍タイトル
『後悔してる』って、ご勝手にどうぞ!素敵な公爵様から、とっくに溺愛されています

■超絶美麗な表装は、楠なわて先生です!
 見てくださいませ!!
 うっとりするほど美しいイラストですよね。

y0t85ocio9ie5mwb7le2t2dej91_cga_z7_1dr_1fnr9.jpg"


e3op3rn6iqd1kbvz3pr1k0b47nrx_y6f_14v_1r5_pw1a.jpg

 ■Kindleでの購入はこちらから■

よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ