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2-15隠れキャラ登場

 ザカリーに掴まれてなるものかと、必死に手を払いのける。けれど突然、ザカリーの腕が自ら引っ込み、数歩後退した。

 さっきまでの余裕な表情とは、まるで別人のように自信が失せている。

 口をあわあわさせて驚く彼の全身を見ると。彼のズボンの裾は、一直線に切れており、その隙間からは、じわりと血がにじむのが見える。


 一体何が起きたのか?

 彼の腕しか見ていなかった私には、何がなんだか分からない。

 だが、それを作った原因は畑に突き刺さる一本の矢だろう。


 すると、続けざまに、もう一本飛んできて反対のズボンの裾が切れた。矢継ぎ早とは、まさにこんな感じだろう。


 そう思いながら、矢の飛んで来た方向を見やると、心臓がどくんと大きく跳ねる。

 彼だ……。彼がいる。

 その姿に釘付けになる。夢中になりすぎて呼吸をするのも忘れるくらいに。

 彼の美しい弓の構えは、芸術と言えるほど洗練され、少しの無駄もない身のこなしだ。彼には何の迷いもないのだろう。

 猛烈な速度で進行する馬の振動にも、風の抵抗にも動じず、微動だにしない体の線。「綺麗」と感嘆の言葉が口をついた。


 私が彼に魅入っていると、視界の端のザカリーが「うぅわッ」と声を上げ動きがある。

 三本目の矢がザカリーの脚をかすめると、ザカリーは、もう一歩後退したのだ。


 これは夢だろうか?

 私の視線の先には、馬に乗り矢を射るブライアン様がいる。もう見られない。そう思っていた彼の姿があるのだ。


 矢の飛んできた方向を見て、あんぐりするザカリーは、こうしてはいられないとばかりに踵を返し、走りながら捨て台詞を吐く。


「やっばぁ。悪役令嬢ちゃん、面倒なの連れてきてるじゃん。取りあえず、今日のところは、この薬を貰って撤収するしかないじゃん! 本当に薬だったら、話にのってやるよ」


 しめたと思う私は、彼の背中へ大声で叫ぶ。


「ザカリー。あなたの元に近々、帝国へ帰る皇子に関する依頼が入るわ。その依頼は、依頼主が、あなたを嵌めるための罠だから実行に移しちゃ駄目よ」

 返事はない。

 だがザカリーに気を取られているうちに、馬が駆ける音が直ぐそこにあった。


 ブライアン様が、走る馬から飛び降り、颯爽と地面へ足を着くと土煙りが舞う。そして、間髪入れずにそのまま私の元へ駆け寄ってきた。


「間に合って良かった」

 彼の麗しい顔を、間近でゆっくり見るよりも先。

 私の体はバフッと彼の力強い腕に抱きしめられ、彼の体に包み込まれた。彼の温かい胸に顔が触れる。


 さすが騎士団長。衣裳の中でも厚地の騎士服。それ越しでもしっかりとした筋肉が伝わる。それと同時に彼のどくどくとした心臓の音も。

 呼吸に全く乱れはない。けれど彼の幾分早い鼓動は、私を心配してくれたのだろうかと、自惚れた期待をする。


「あなたに会いたかった」

 くすぐったい。耳元でささやかないでと、少しだけ首をすくめた。

 彼の吐息が耳にかかってくすぐったいのか、「会いたかった」と言われて気持ちがくすぐったいのか。多分両方だ。

 そのうえ、彼の香水の爽やかな香りが、私の心をくすぐる。知っている彼の香りだ、間違いない。


 ブライアン様が……来てくれた。嘘じゃないし、夢じゃない。

 嬉しいのに照れくさい。

 彼が私に会いたい理由が、ダリアを追求する事ではありませんようにと、願う。


 しばらく彼の香りを堪能していたが、名残惜し気にゆっくりと抱擁が緩まる。

 そうすれば次第に、ブライアン様の顔が見えてくる。


「あっ、あの。ブライアン様……。私のことを嫌いになったのでは?」

 動揺しすぎて、気の利いた言葉が見つからない。必死に探した言葉がこれだった。もっといいのがあったかもしれない。

 でも、以前と変わらない優しい彼の姿。きっと否定してくれる。その期待感で声が震えた。


「嫌い? そんなことは断じてない。誰かと違って、ころころと変わる軽い愛情など、兼ね備えてはいないからね。運命の恋だと思う愛しいあなたを、嫌いになる日は一生ないと誓う。花の祭典でアリアナの気持ちに気付いてあげられず申し訳なかった」


「どうしてこちらにいらっしゃるの……。台風の話は信じていなかったのに……、なぜ急に」

 

「アリアナが、階段から落ちる元婚約者に気付いたことや、弓の扱いだけで同一人物だと見抜いた、その勘を放っておけなかった」


「それだけで、私の馬鹿げた話を信じてくれたんですか?」


「いや、半信半疑……。だから、セドリック殿から話を聞いた。あの、ダリアの話を」

 なるほどな。

 古代文字で書かれた文献から、ジェムガーデンのダリアの効果を知っていても、花びらだけで、ダリアと分からなかったのか。


「ジェイデンにとっても、親友を救って貰った私にとってもアリアナは恩人だ」

「……申し訳ありません、私、ブライアン様を騙すような真似をしてしまって」


「いいや。アリアナの言葉を信じなかった私が悪いんだ。直ぐに信じていれば、アリアナを一人にしなくて済んだのに。アリアナの指示どおり、領地の小麦の収穫を命じた。アリアナに、聞きたいことも伝えたいこともたくさんあるのだが、私がアリアナから叱られる方が先だ。一人にして申し訳なかった」


 叱られる? そう言われてしまえば遠慮はいらない。言わせてもらいたいことはある。この記憶が鮮明なうちに。

 助けてもらって嬉しい。だが、言いたいことも言えない関係なら、第二王子と戦えない。ここは一つきちんとさせておこうと、畑に刺さる矢を見ながら口を開く。


「ブライアン様。私に当たったらどうするつもりだったんですか?」

「当たる? いや、私がアリアナを救うのに、外すわけがないから心配しないで。自慢じゃないが、今まで的を外したことは一度もないから」


「え? 全部外れているじゃないですか?」


「いや。全て狙い通りだったけど」

「もう格好つけなくていいですよ。全部、当たっていないじゃない」


「ああ、それはアリアナの要望を汲んだだけだよ。目の前で弓が刺さるのが怖いと言っていたから。わざと脚をかすめたけど、あの男をアリアナから引きはがすには、それで十分だったろう」


 至極真面目に話し終えると、畑に刺さる矢を拾っている。

 えぇ⁉

 ザカリーを逃がしておいて、シレっとしているのは、そういうわけ!

 三本の矢。

 射るタイミングで、ドーピング済みのザカリーの動きを予測して、寸分の狂いもなく当てていたのか。


 ロードナイト王国一と言われる腕の立つ暗殺者。そのザカリーでさえブライアン様を見て、青くなって逃げた事実。

 ってことは、目の前で涼しい顔をしている彼は、相当チートなのだろう。人並み外れた身体能力。

 これまでも、やけに走るのが早かったのは、それだっ!


「アリアナ……。さっきの人物だが、夜会で見かけた後から追いかけている男だ。彼の靴が、どういうわけか革靴に似せた布の靴だったのが気になって、それから尻尾を出さないか追っている。私の見立てでは暗殺者だが、どういう事情があって、アリアナといたのだろうか」


「うーん」

 と、こめかみに指を当て、ひとしきり悩み抜く。全部を打ち明け、奇天烈な令嬢認定されるのは困る。

 そう考えた結果。転生や乙女ゲームの話は抜くべきだろうと、情報の取捨選択をした。


「私、少しおかしなことを言いますが、信じてくれますか?」

「ああ。アリアナの話であれば、明日彗星が落ちると言われても、私は信じるだろう」

 そう言った彼は、来た道を視線だけでチラリと見た。

 彼……。本当にブライアン様よね。

 なんだか少し離れただけで、妙にアリアナに傾倒しているけど、大丈夫かしら。


「……だが、話をするのはもう少しだけ待ってくれないかな。二人きりの時間を存分に味わいたい」

 私の長い髪に触れると後ろに流され、首筋に彼の唇が触れた。


お読みいただきありがとうございます。

やっとブライアンが来た。

引き続きよろしくお願いします。

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