表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/82

1ー5 本当の来客②

「アリアナお嬢様、早く着替えますよ。あの男爵令嬢に負けないくらい、着飾りましょう」

 押しかけたシャロンのせいで、相当に気が立っているようだ。

 エリーはシャロンと、無駄な張り合いを始める。


「何を言っているのよ。そんな必要はないでしょう。体も痛いし、ドレスは無理よ。どこへ行くわけでもないから、適当な部屋着で過ごすわ」


「あっ、そうですよね忘れていました、では、このチュニックで良いですね」

 私を妙に急かす侍女の手を借り、まるで身重の妊婦が着るような、くびれのない、くつろぎモード全開の服装へ身支度を終えた。

 そして、寝室から居室へ移り、ソファーに腰掛けた私は、やっと一息ついた。


「ご当主様から伺いました。ゲルマン侯爵令息様とは、婚約を解消なさったと……。さっきの感じの悪い男爵令嬢様と、いつも三人で仲が良かったのに、何て言っていいか……」


「いいのよ、婚約の解消なんてよくあることよ、気にしないで」

「ですが……」

「……何を考えているのか分からない煌びやかな世界は、もう懲り懲りだわ。そうだ! こうなったら、町で食堂でも開こうかしら」


「ふふっ。お嬢様が何を作れると言うんですか」


 エリーは、くすくすと笑って馬鹿にするが、私は至って真面目だ。


 他の社交場ならともかく、昨夜は、ロードナイト王国で一番盛大な夜会である。

 王族へ忠義を示すため、ほとんどの貴族が参加している建国祝いの場での大失態。

 大勢の目にさらされたのは明らかだもの。

 悪評付きの十八歳の身。今更新しい婚約者など、到底見つかるわけがない。

 だから一人で暮らすと決めたんだし。


 それに、アリアナの人生だけなら、何も出来ないただのお嬢様。だけど今の私は違う。


 それよりも、一番の問題……。

 嫌だ、嫌だ。あれを考えただけで鳥肌が立つ。


 ゲームの中のアリアナは、隣国の好色おやじと結婚させられる末路にあるんだ。


 傲慢な女の鼻をへし折るのが趣味の、変態成金。

 その変態から、豪奢なドレスを身に纏う私は、どこかの夜会で興味を持たれてしまうのだから。

 プライドの高いお母様が、私のために仕立てたドレスは、どれもこれも豪華過ぎる。

 のんきに夜会へ参加しては、鴨がネギを背負って行くも同然のこと。

 口に出すのもおぞましい、好色おやじとのエンディング映像。それが、現実のものに成るのだけは、御免だ。


 今にして思えば。そんな歩くのもやっとなドレスを着て、階段から落ちそうなルーカス様を引っ張るのは、無理があり過ぎた。

 無鉄砲な自分が滑稽に思え、エリーの笑い声に釣られるように、私は笑い声を上げた。


「ふふっ。何だかおかしいわね」


「元気になってきたようなので、もう大丈夫ですね。お嬢様の目が覚める前から来客がお見えになっています」

「えっ、いつから?」

「男性なので、お嬢様の用意が整い次第お会いする約束で、かれこれ一時間近くサロンでお待ちいただいております。あまりお待たせするのは失礼なので、そろそろご案内しますね」


 ……男性。

 どうせルーカス様が、婚約指輪でも返せと言ってきたのだろう。

 よくもまあ、一時間も待てるものだと感心する。


「分かったわ。案内してもいいけど、その前に、そこの机の上にある婚約指輪を取ってくれる」

「指輪は要らないと思いますけど……」

「いや、きっとそうだもの」

 倹約家のルーカス様から貰った指輪は、小さな石が付いただけの簡素なもの。

 それでも彼なら、シャロンと海へ行く前に、私へ贈った唯一の品を回収したいはずだ。


 ご機嫌なエリーは、私から遠く離れたテーブルの端に指輪を置いた。

「では、目障りでしょうから、余り見えない、ここに置いておきますね。それでは、クロフォード公爵様をご案内して参ります」


「えっ! ルーカス様ではないの? ま、ま、待って。私、クロフォード公爵様とは面識もないのよ。それなのに、どうして⁉」


「あーそうでした。お嬢様は意識がなかったから、ご存じないのですね」

「ちょっと、何を!」

「昨日、お嬢様を屋敷へ送り届けてくれたのが、クロフォード公爵様です。うちの貧弱な家令を見て、ご自分で部屋まで運ぶ方が早いとおっしゃって、連れてきてくださったんです」

「そっ、そうなの!」

「あ~、あの姿を思い出すと興奮してしまうわ。横抱きにしているアリアナお嬢様を、それはそれは、慈しむように運ばれて、……しばらく滞在されていたんですよ」

 突然目を輝かせ、活き活きと語り出すエリー。


 この侍女は、直前に何を言い出すのかと、苦々しく見つめたものの、予想だにしない事実を知らされ、激しく動揺した私の頭の中は、真っ白になった。


「それでは、何かお礼をしなくては。……どうしましょう、そんな準備もないじゃない。それどころか心の準備も出来ていないわ」


「公爵様は、余計な気遣いは要らないから、目が覚めたお嬢様の顔を見たいとおっしゃっています。ご主人様も昨日のご恩があるので、部屋への入室を許可されていますので、お気になさらず。では~」


 にこっと笑いながら、手を振って出ていったエリー。

 いやいやいや。「お気になさらず」じゃないわ。


 「……待ってよエリー」

 だって昨日の私って、シャロンの話では、とんでもない醜態を晒していたのよ。

 それを知った上で、クロフォード公爵様と、どんな顔で会えばいいの!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。.:✽·゜+.。
■2024年10月24日・31日の2週連続で、パルプライド エンジェライト文庫さまから本作の電子書籍が発売となりました!
 この作品が新たな形になるために応援をいただいた全ての皆様へ、心より御礼申し上げます。

■書籍タイトル
『後悔してる』って、ご勝手にどうぞ!素敵な公爵様から、とっくに溺愛されています

■超絶美麗な表装は、楠なわて先生です!
 見てくださいませ!!
 うっとりするほど美しいイラストですよね。

y0t85ocio9ie5mwb7le2t2dej91_cga_z7_1dr_1fnr9.jpg"


e3op3rn6iqd1kbvz3pr1k0b47nrx_y6f_14v_1r5_pw1a.jpg

 ■Kindleでの購入はこちらから■

よろしくお願いします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ