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1ー41恋愛遊戯~additional~ ※ブライアン視点

視点がブライアンです。ご注意ください。

 今しがた、アリアナを降ろした馬車の中は、やけに広く感じる。


 馬車を走らせ、ふと心に浮かぶ彼女の怒った姿。

 このまま別れて良かったのか、迷いが生じる。


 ……いや。

 私の今の感情。

 結局このままでは、再び言い合いになるだけだろう。

 とはいえ、気に掛かり、ゆっくり後ろを振り返る。

 すると車窓から、肩を落とし、悲し気な背中を見せるアリアナが、扉の中に消えるのが見えた。

 まずかっただろうか……。


「はぁ~ッ」と、ため息がもれる。

 ……乙女心はつくづく難しい。

 アリアナは色恋に疎いと彼女の侍女から聞いたが、鈍いのは、私である気がしてならない。

 どうやっても、彼女の見せる全てが、私で遊んでいるように見える。


 夜会の翌日。

 目を覚ました彼女と対面すれば、自分の感情が熱く昂るのを自覚する。昨日、アリアナを見て湧き起こった衝動は、私の気のせいでも何でもなかった。

 そして、私を見た瞬間、目を輝かせ、うっすらと頬を赤らめ、そのまま固まるアリアナも私と同じだと。


 無難な社交界に誘ってみたが、ふんッと拗ねる彼女の反応に振り回された。


 ならばと、見舞いを提案した。

 私にとっては、次の約束を取り付けるのが目的である。理由は何でも構わない。

 逆に、アリアナと二人きりで会える見舞いの方が、私としては好都合である。

 だから「部屋へ見舞う」と言えば、真っ赤になるアリアナは何を想像したのだろう。

「私に照れるのが見えているよ」と、意地悪な声をかけたくなる自分がいた。


 すると、痛めた体を庇う素振りのアリアナが、「もう元気になった」と、見え透いた嘘で逃げる。

 楽しくなる私は、綻ぶ顔を必死に取り繕うのに苦労した。

 この私が、一度狙った獲物を易々と逃がす訳もない。捕まえる方法を変えるだけ。

 そうして侍女の話題を振れば、アリアナが頬を膨らませ怒ったり、急に青くなったり、素直に動揺するのだ。それがまた、かわいくて仕方ない。



 約束の見舞い。

 あらかじめ侍女から聞いた彼女の好きな花を持っていけば、興味はないといいつつも、じーっと見入って気を取られている。全くもって素直じゃない。

 それさえも、かわいく思えるのだから、私の病は重症だ。


 ことある度に、見せる姿がころころと変わるアリアナ。あなたは、私の恋路で遊んでいるのだと、迷うことなくそう感じた。ならばと、私もそれに便乗した。

 

 私を試す彼女から課せられた指令。

 並みのデートでは許さない。事前に、はっきり挑戦状を出され、どきりとした。

 その場は上手く誤魔化したつもりだが、内心、相当に焦ったのは間違いない。

 期待に応えるため、令嬢の心を惹く計画を相当勉強した。

 だが、聞く相手が悪い。

 私の周りにいる連中は、花の祭典といえば弓馬しか知らんのだ。それでは私と同じだろうと、少しも当てにならない。


 唯一もらった真っ当なアドバイス。

「会場に到着すれば、何よりも先に赤い花を贈る。それだけで令嬢は楽しく過ごせる」と教えられた。

 それは、恋多きジェイデンからだ。


 結局、仕入れた情報はそれだけだが、現地へ行けば何とかなるだろうと、流れに委ねる安易な計画に落ち着いた。


 花の祭典。

 アリアナから、一度、泣いて断られた場所である。それを知る私は、その彼女の気持ちを慮り、祭りで喜ばせたい一心だった。


 その会場の手前で見かけた、花売り。

 先ずは気持ちを上げようと、提案した。

 結果は惨敗。

 アリアナが、「私から赤い花を受け取るのは嫌だ」と、はっきりと拒む。おかげで、これ以上の策がない私は、立ち直るのに少々時間を要するほど、へこんだのは間違いない。


 だがしかし。

 何でもはっきり拒むアリアナが、「恋人と名乗る権利を与えて欲しい」との申し出には、拒絶しない。ならば、嫌ではないということだ。


 祭りの途中から、アリアナの警戒心が消え失せ、心が私に向いている。そんな気がした。

 屋上から見た弓馬。私と同じくアニーを気にする元大佐の姿が目に止まる。今年は彼に期待したいと思うのだが、アリアナが何としても出ろと譲らない。

 迷った挙句彼女と離れたが、屋上に立つ彼女は何故か後ろを向く。今も競技が続いているにもかかわらずだ。


 心配過剰な私は、気づいたときには引き返す失敗をやらかした。

 途中で言い訳に使えそうな花売りとすれ違う。

 だが、ざわつく感覚は間違っていなかった。アリアナに纏わり付くあの男の姿を見て、少しでも彼女から離れた自分を責めた。


 必死に謝る胸中で、アリアナを赤い花で飾る。だがそれを、笑顔で受け入れてくれた頃には、二人の心が完全に通じ合っている。そう確信した。


 花の祭典からの帰り際、馬車へ乗り込む少し前。

 アリアナが奇妙な話を始めた。

 さもさも本当の話のように告げる、具体的な台風の話だ。

「今すぐ小麦を刈れ」そう、彼女は言ってきた。


 正直なところ、自身の領地の管理に口を出され、カッと不愉快に思えたのは否めない。これでも領主だ。

 領民たちの暮らしを守るため、盤石な体制を築いていると自負する。

 私の称号、遠くても王位継承を有する私に、軽々に口を挟む者などこれまでいなかった。


 あれが、彼女の兄の話であれば、耳を貸したであろう。

 植物や自然界に関する彼の知識は、他の追随を許さない、一目置かれたセドリック殿の提案であれば。

 それが、この台風に関しては、令嬢の……ただの勘。


 そんなことで、無暗に領民へ命令を下せるわけもない。

 ……分かっている。

 私の態度が大人げなかったは。

 今、彼女の姿を見て痛感した。

 それまで全身で怒っていた彼女が、儚げだったのだから。


 流石に言い過ぎた……。

 次に会うまでに、目いっぱい彼女が喜ぶことを考えなくては。私の気を引きたかった彼女に悪いことをした。

 ……であれば、彼女が欲しいものを持って訪ねるか。

 豆……。くくっ。それはないな。彼女と一緒に買いに行く約束だ。

 

 ……それにしても、これは何なんだ?

 何度見ても、唯の花びらだが。

 私がジェイデンと二人でお茶を飲むって……。それも、令嬢のように花びらを入れて。

 どう考えても互いに落ち着かないだろう。

 アリアナは、私とジェイデンの関係を誤解していないか?

 だから私を独占するため、台風がくると言ったのか?


 闇雲にジェイデンに渡す訳にもいかないが、これは何を意味しているのだ。

 毒?

 いや。そんなものを、私に託すとは思えないし……。


 今日の喧嘩もこの花びらも、常に私の感情を弄ぶ、アリアナの悪戯心だとは思う。

 どうせ彼女が私で楽しんでいる、恋愛遊戯の一つだろうが、今回の遊びはさっぱり分からん。難易度が高すぎる。

 お手上げだ。

お読みいただきありがとうございます。

時系列で投稿すると、再びブライアンが出てくるのは少し先かと。

次話はアリアナへ戻ります。

引き続きよろしくお願いします。

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