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1-39花の祭典⑭~rewriting~

「ブライアン様。私、少しおかしなことを言いますが信じてくれますか?」

「話によるな。悪いが何でも信じる性格ではない」


「直ぐに領地の小麦を収穫してください」

 少し低い緊張を含む声で、そう伝えた。

 すると彼は瞬時に、笑顔から一変、真顔へ変わる。


「あの辺で疫病でも流行っているのか? 全く耳に入ってこないな。疫病なら現地で情報を掴んでいるだろう。わざわざ私が指示を出す話ではない」


「……いえ、間違いなく小麦が被害に遭います」

「私の領地は、前期の収穫は全て備蓄に回し、多少の収穫減は問題にならない仕組みだ。アリアナの頼みでも、私は領民に、不確かな指示を出す気はない」

 気を張り詰めたのか、彼の声が、僅かに低くなる。

 

 だが、私は彼の話を聞き、なるほどなと小さく頷く。

 今期の小麦が壊滅する被害に遭っても、ブライアン様のルートは平穏な理由が見えた気がする。となれば、間違いない。


「来年、弓馬の褒美は災害復興にかこつけて元に戻ります」

「ははっ。真面目な顔で何を言い出すかと思えば。ジェイデンだって、ありありな嘘はつかない。もっとましな言い訳を考える。一体、どうしたんだ?」

 目をパチクリさせる彼が、至って真面目な私の話を、悪い冗談だと思い疑っていない。


 あの乙女ゲーム。

 悪役令嬢のアリアナの話なんて、シナリオで詳細に語られない。

 だから、詳しいことは分からない。


 でも、今の我が家の財政状況は潤沢だ。周囲の貴族から妬まれるほどに。

 例え婚約者が見つからなくても、私を隣国の好色おやじに差し出す理由が見当たらない。


 ……だけど、この国の弱みに付け入れば、貿易でのし上がった変態成金に私を、積極的に嫁がせてもおかしくないのだ。


 この国が台風の被害で小麦を失えば、この先、優雅な夜会を開催するわけがない。


 それなら私は、既に変態おやじの御眼鏡に適った高飛車令嬢だろう。

 心当たりはある。あの日感じた好奇に満ちた、妙な視線。

 紫の豪奢なドレスを着た私が階段から落ちた日。あのときもうロックオンされたはずだ。


 どうして今日まで気が付かなかったのか。時間の感覚を完全に失念していた。

 甘いマスクの覇者。

 この乙女ゲームは既に、第一幕のエンディングの段階だ。


 ルーカス様の最後のイベント「古城を見渡せる海岸」の話が出た時点で気付くべきだった。


 私が必死に足掻いていた、ブライアン・クロフォードのルートだけが始まったばかり。

 それも、湊でさえ見たことのない話の先へ。


 ついつい攻略対象の一人とブライアン様を同時に見ていたけど、他の五人とは時間軸が違う。


 攻略対象その二。

 王太子に薬のような毒が仕込まれるのは、間もなくの話。

 王太子の権力を削ぎたい人物の仕業であることは間違いない。でも、詳細は、一幕しか知らない私には分かり兼ねる。

 でもその薬を盛られた王太子は、きっちり三か月眠りから覚めない。

 その間に、この国にとって重大なことが起こり、政から離れていた王太子は、徐々に立場を失い自暴自棄になっていく。


 最後の恋愛イベントは、お忍びで町を歩く王太子が、紙袋を持ったシャロンと衝突するアクシデントだ。

 でもそれは、王太子が婚約したところをみると、何もなかったのだろう。

 もう過ぎた話で、彼を攻略するルートは終わりを迎えたとみえる。


 その次は、攻略対象その三のお兄様……。

 台風が来る直前、領地で失踪する。


 台風が過ぎ去り戻ってきた時には、屋敷の中が一変しているのを知り、人格が変わる。


 いつも私のことを気にかけてくれた、お兄様が廃人のように変貌する……。そんなの絶対に許せない。

 どうしてこんな大事なことを、今日まで思い出せなかったのか、自分が嫌になる。

 でも、でも、でも。

 ルーカス様が危機を回避しているんだから策を講じれば、難を逃れる。それは間違いない。


「十日後、大きな台風がこの国の東側を通ります。東には我が家の領地もありますが、ブライアン様の領地もありますよね」

「ああ、アリアナの元婚約者のゲルマン侯爵領と、さっきの令嬢のハロック男爵領に挟まれている」


 海に面して、我が家の領地はある。

 そしてその東、我が家の領地に入り組むように面して、北から侯爵領、公爵領、男爵領と連なる。


 この国の公爵家と、二つの侯爵家が有する領地は、どれも広大な面積を誇る。

 その三家の領地と、おまけのような男爵家の領地を合せた一帯が、唯一、小麦が収穫できる地域だ。


 その上、植物学者のようなお兄様の手腕がものをいい、我が家の収穫量は、増加の一途を辿る。兄が周囲から恨まれる理由は十分にある。


「お願い。花の祭典の二週間後に収穫を始めるのが慣習だけど、それでは間に合わない。この国の小麦が、台風で全滅します。今から知らせを送れば間に合うし、二週間早めても収穫に大きな問題はないはずです」


「この話はどこから知ったと言うんだ?」

「上手くお伝え出来ません。……言うなら勘」


 この十日のうちに何とかするか、駄目なら逃げる。その二択。


 ……口を固く結び、渋い顔をするブライアン様は、私の話を信じる素振りは見えない、か……。


「……勘? 申し訳ない。私は、自分の見たものしか信じない」


「お願いだから信じてよ。じゃないと手遅れになる。私のこと最愛の人だって言ってくれたでしょう。我儘を聞いてくれないブライアン様なんて、知らない。嫌いになるから」


「領民へ、私の私情は関係ない!」


 頑なに取り入ってくれないブライアン様の姿に、私の中に、得も言われぬ焦りが募る。

 お兄様に危険が迫っている。このまま放っておけば、お兄様は領地へ向かってしまう。


 もっと早く思い出せていれば……。

 こんな直前に思い出しても、我が家に危害を与える首謀者の見当がつかない。

  


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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