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1ー3 思い出した前世。ここは乙女ゲームの世界②


 ……突如として、色々なことが降り掛かり、感情が追いつかない。

 茫然自失の私は、握ったままになっていた鏡を、そっと布団の上に置いた。


 すると、上質な肌掛けの上に、雫がぽとりと小さな音を立てて落ちた。

 ただ静かに込み上げる悲しみ。

 そのせいで、自分が泣いていることに、今まで気付きもしなかった。


 泣いているのは湊なのか、アリアナなのか、……ちょっと分からない。


 でも、どちらにしても悔し涙が混ざっているのは確か。


 鼻につく観察力がある癖に、ざまぁを仕掛けられる時まで何も気付かなかったのが、悔しくてたまらない。

 ゲームでは、悪い噂を垂れ流すアリアナをとっちめて、社交界の表舞台から消すつもりだったはず。

 そんなつもりでルーカス様は、あの日、私と一緒にいたのだから。


 ルーカス様が私に向けた笑顔は偽りだった。

 それに気付かないとは、……悪役令嬢のバイアスに、末恐ろしいものを感じる。


「お嬢様……。そんなに泣いては、お客様に会う前に目が腫れてしまいますよ。もう、泣き止んでください」

 そう言う彼女に、私は強引に涙を拭かれていた。


 そのときだ。

 ゴンゴンっと、私の部屋へ入室を求める大きな音が響き渡る。

 二間続きの私の部屋。

 居室を抜けて寝室に、さも当然のように入ってきたのは、水色のデイドレスを着たシャロンだ。

 客人とは彼女のことだろうか……。


 過去の自分が彼女に向けて、「気兼ねは要らないから、いつでも屋敷に遊びに来ていいわ」なんて言ってしまったことに、後悔しかない。


 シャロンとは会いたくなかったのに、平然と入ってくるんだもの。

 少しくらい、空気を読めと、呆れた視線を向けた。


 にもかかわらず、嬉しそうに笑っているシャロン。真新しいドレスも嫌味な程に眩しい。

 そんなシャロンへ掛けるべき言葉は、どうやっても見つからない。だけど、何も言わない私へ、彼女が誇らし気に話し始めた。


「これから、ルーカス様と海へ行くのよ。道中の話の種になると思って、見舞いに来てあげたわよ。そうしておけば、あんたを心配する優しい女に見えるでしょう」


「シャ、シャロンどうしたの? 何かあったの……」


「別に。とっても清々しいから教えに来てあげたのよ。あー、せいせいした。ずっと、あんたのことが大嫌いだったの」


「そう」

 今となっては、冷たい返答しか出来ない。

 ルーカス様フィルターが無くなったせいなのかな?

 シャロンが性格の歪んだ存在にしか見えないんだけど。これって、気のせい?


 どうして私は、シャロンを一生懸命守っていたのか、分からなくなってきた。


 あっ、そうだ。

 ヒロインであるシャロンのスキル、魅了のせいか。

 彼女の人生も、とんでもないバイアスがかかっているのを痛感する。


「侯爵家で何不自由なく暮らして、優しい美人。その上、優しくてカッコいい婚約者まで手に入れて、あたしを馬鹿にするように、自慢するんだもん」


「そんなつもりではなかったけど、……もう、出て行ってくれないかしら」

「ふん、さんざん見下していた、あたしなんかに婚約者を取られて悔しいでしょう。うふふ、ざまみろってのよ。あんたなんて、このまま行き遅れ決定ね、あははっ」


「そんな言い方は良くないわよ、はしたないわ」


「あたしのことを『はしたない』って説教ばっかりして、本当に腹が立つわ。知ってる? あんたが無様に階段から落ちた時、ドレスのスカートが捲れて下着を見せて倒れていたのよ。大勢の人の前で醜態を晒して、大笑いだったわ。いい気味。これでこの先ずっと、あんたは社交界の笑い者よ、キャハハッ」


 そう言われてもなぁ。今更、どうしろと。

 シャロンの文句は、彼女がルーカス様に必要以上に触れるから、私がそれを注意したこと。ずっと根に持っているようだ。

 言い返したい気持ちは山々だけど、わざわざルーカス様の話を蒸し返すのもどうかと思う。


「男爵令嬢。アリアナお嬢様はまだ体調がすぐれないので、この辺でお引き取りを!」

 やっぱりこうなったか。


 私より先に真っ赤な顔で怒り出した侍女が、シャロンの背中をぐいぐいと押して、遂には私の視界から消えた。


「いや、ちょっとまだ話は終わってないわよ!」

「アリアナお嬢様は、男爵令嬢とお話することはありませんから!」


 バッシン――と、部屋中に、扉が外れるような大爆音が響く。


 あの侍女の剣幕。

 付き合いの長い私には、彼女が力任せに扉を閉めるのが分かり、咄嗟に自分の耳を塞いだけれど、大正解だった。



 昨夜の夜会。

 私はどんな格好で意識を失ったのだろうか……。

 あのときは、ルーカス様を助けるのに無我夢中だったし、最後は全く覚えていない。


 それに結局のところ、湊はクロフォード公爵様のルートを出せなかったんだもの。


 ゲームの中のシャロンがどんな格好で落ちるのか、知るわけもない。


 もし、階段から落ちたのが、シャロンだったらな……。

 彼女はブライアン・クロフォード公爵様と過ごす未来に、なっていたのだろうか。


 あれ……。隠しキャラルートが出現したということは、シャロンはルーカス様を完全に堕としていないのか?


 ……うーん。

 まあ、どちらにしても婚約破棄を告げられた悪役令嬢の私には、何も関係のない話だし、私の身の振りをどうするか考える方が大事よね。


 決めた。

 私は嫌われ者の悪役令嬢だもんね。

 こうなったら、まったりと一人で暮らす、平穏な生活を目指すわ。


お読みいただきありがとうございます。

読者様のおかげで、なんと 異世界転生3位にランクインしていました(*´∇`*)。応援に感謝申し上げます。

引き続きよろしくお願いしますm(_ _)m

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