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1ー34花の祭典⑨~rewriting ~

よろしくお願いします。

 ルーカス様の時は、嫌われないように我慢ばかりだった。だけど、もう自分の好きにしよう。


「ブライアン様は、もしかして本気で私のことが好きなんですか?」

「当然だ。ずっとそれを伝えているが、中々、アリアナには届かないだけで」

 即座に肯定するが、隠しているつもりの悲しげな表情。それがチラリと見える。


「そんなに私のことを好きだって言うなら、今年も参加してください」


「そう言われても、駄目だ」

「嫌よ。私、ブライアン様の弓馬が楽しみだったのに……。こんなに期待させておいて、どうしてくれるんですか?」


「アリアナを一人にできないから無理だ」

 真面目な顔で言い募るブライアン様。なんだそんな、ちっぽけな理由か。

 彼の問題が、それならなんてことはない。


「大丈夫ですよ。この屋上、管理人が部外者は入れませんから、毎年ここは私の貸し切りです。ブライアン様が出場してくれないなら、もう帰りますよ」

 そう言い終わると。私の視線。それを弓馬会場の大通りから、屋上の入り口へと、ゆっくりと移す。

 私の仕草を追うブライアン様も、同じく動く。


「まいったな……。偽名も考えていないし」

 頑なな姿勢が少し解けてきたブライアン様が、困り顔を見せる。よし。あと一押し。


「……ミナト」

 自分の名前を呼んで欲しい湊の感情が、ぼそりと呟く。


「ミナトか……。でもな、どうせ出場しても、私には褒美はないし、それならアリアナと二人で過ごしたい」


「しょうがないですね。次は一緒に赤豆を買いに行きましょう。護衛のお礼は、私の作る手料理で、手を打ってくれるならいいですよ」

 それを聞き、無言になった彼は、悩むように頭を抱えている。

 彼から、なかなか返答がないため、更に続ける。


「私の作るパン。美味しいのに、一緒に食べられなくて残念だわ。では、私はこれで帰りますね」

「待て。今、来たばかりだろう」

「だって、これ以上祭りにいる必要もないですから。去年までは楽しかったのに、今年の祭りはなんだか残念だったな」

 その言葉で青くなる彼。あなたの横は詰まらない。そう受け取ったのだろう。狼狽える彼を見て、ちょっと罪悪感を抱く。

 後で今までのことも、素直に謝ろう。そう思えてしまう。


「あぁ〜。仕方ない、そこまで言うなら出てくるよ。アリアナの手料理が食べられるとなれば、手を抜く理由もないからね。ミナトが優勝して、褒美を受け取れず嘆く者がいれば、アリアナも共犯だからな」


「ふふっ。まあ私は悪役ですし、問題はありません。早く行かないと、受付が終わってしまいますよ」

「アリアナのパン。約束だからね」

 そう言い残し。ブライアン様は、笑顔で立ち去った。


 こうなれば、ミナトと紹介されるブライアン様が、早く登場しないかと待ち遠しくてたまらない。


 彼の結果は見なくても分かる。馬に乗りながら射る三つの的。毎年、全てがど真ん中に当たるのだ。他の出場者とは、まるでレベルが違う。


 あれ……でも、王太子ルートで湊がプレイしていたときに、確か褒美の馬は、退任した騎士が受け取ったはず……。

 それは今年の話なのか、それとも来年? そうなると、あれはいつ起こるの?


 まずい。

 凄く大事な話だ。どうして、こんな大事なことを忘れていたんだろう。

 あまりやり込んでいない王太子ルートの話と合わせて考えると……。


 ……もしかして!


「アリアナ、……やっぱり一人だったね。屋敷を訪ねても当主が出てきて、会わせてもらえないから、今日を期待していたんだよ」

 突然、背後から声が聞こえて振り返ると、ルーカス様が私に近づくように歩いていた。

「どうして?」

「ここに来れば会えると思ったから。毎年、アリアナは目を輝かせて見ていたから、君のことなら何でも分かるさ」


 ……そうか。

 ここの管理人には情報が届いていないのか。

 屋敷の従者が全員知っていると聞き、当然、ここにも知れ渡っている気でいた。


 管理人は、毎年この屋上に来ていたルーカス様を顔パスで通したわけか……。油断した。


「立ち入りを許可しないから、出ていって」

「やっぱりクロフォード公爵様と来ると言ったのは、あの場を誤魔化すためだったんだね。嘘は良くないな」


「いいえ、違う。彼は、ちょっとした用事で」

 私の言葉を聞いたルーカス様から、はぁ〜っと、あからさまなため息が返ってくる。

 そして、呆れたように首を横に振った。


「一緒に来ている女性を一人で置いていなくなる。一体どんな用事? そんな見え透いた嘘はこれ以上必要ないから。それに今日、花の着いていない、アリアナの髪を見れば分かるよ」


 そう言われ、思わず耳の上に手を当てる。髪に触れるだけで何もない。

 あー、なんなのよ。

 こんなことなら、さっき素直にブライアン様に着けてもらえば良かった。

 どうして、要らない意地を張っちゃったんだろう。


 迫るルーカス様が、怖いくらいに真面目な顔をする。


「僕が一緒に過ごしたいのも、大切にすべきなのもアリアナだと、あの日、腕を引かれたときに気が付いた。アリアナのことが好きなんだ。今なら問題はない、あの婚約破棄は取り消せる。ねっ」


 もしやと思う。

 彼の真剣な表情も、差し出す手も、私を本気で好きだと言っている気がする。

 いや、どう考えてもそうだ。今の状況。ゲームの展開では、決してない。

 だが、一方的に婚約破棄を告げ。今更私を好きになっても遅い。全て自業自得でしょう。


「無理よ。そんな都合の良い話に私が乗ると思っているの? もう私に関わらないで」


 それを伝えた途端、ルーカス様の表情が険しくなった。

 向けられる視線が脅威に思え、体に悪寒が走る。彼から逃げるように、私の足はじわりと一歩後退した。


「本当に強情だね。僕があの日、アリアナのために、恥ずかしいのを我慢して、あんな小さな豆を拾わされたんだ。全部拾ったのは、アリアナのためだ。それも分からないの? これだけ想っているのは僕だけだよ」

「違うでしょう。ブライアン様に連行されたくなくて。全部自分のためでしょう。私、あなたの気持ちに応える気はないから。どこか行ってよ」


「まだ言うの? あの日、アリアナが公爵様へ事情を伝えてくれれば問題もなかったんだ。町のやつらに石を投げられる屈辱は、生まれて始めてだった。あのことを僕は相当怒っているからね。前回は、偶然公爵様が通りかかったけど、ここは二人きりだ。二度目はないよ。アリアナが素直にならないなら、僕だって少々強引にするしかない」


 じりじりと迫ってくるルーカス様。やだ……怖い。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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