1-28花の祭典③~additional~
本日2話目の投稿です。
はぁ! ちょっと!
念押ししてくれと、誰も頼んでいないでしょう。
余計なことを言わなくていいから、私に追い打ちをかけるな。返答に困る。
彼をじろりと見れば、申し訳なさげに話を付け足した。
「歩きながら、私の愛を伝えてしまったが、軽い気持ちで申し出たわけではないからね。デートにこだわりがあると言ったアリアナには、演出が足りなかったと、後から反省したよ」
恋人……。
彼が嬉しそうなのは、私が拒絶せずに放置したせいか。
今更否定すれば、激ヤバ案件でしょう。
……私の断罪に向け、ブライアン様の準備が完了しているのは確定で間違いなかった。
そして、最後のピース。
ヒロインのシャロンとブライアン様が絡めば、話が進むとみた。
異常とも言えるルーカス様が、ヒロインのシャロンと関係を切ろうとしていた。
その状況が、私にはどうやっても理解できないのだ。
……あくまでも推測の域を越えないが。
ブライアン様が私と絡んでいるのが関係して、シャロンの婚約が揺らいだと読む。
だって、私を嫌うルーカス様が、本気で私を好きなわけがないし。
関係者全員の謎な進展に、打つてなし。
この際。ブライアン様の告白は、一度目も無視しているし、同じ手法で文句はないだろう。
困惑しきりな私は、泣きそうになりながらも調査を続ける。
「ブライアン様……。私の質問に一つも答えていないですよ」
「それは……、アリアナの嫌いな所は見つからないからさ。私に釣れない態度も、我が儘を言うのも可愛いからね。早く私の元に、落ちてきてくれないかと望んでいるが、一筋縄にいかないのも、また愛らしく思えるよ」
嫌いなところを教えてもらうはずが、彼の回答が私の想像の斜め上をいくおかげで、「嫌われフラグへし折り作戦」は、いともあっさりと潰えた。
どうしてくれるのよ!
挙句に、彼からうっとりと見つめられ、頭の中が真っ白になった私は、ぷいっと顔を背ける。
そして、「何も話しかけるなよ」という空気を全面に押し出し、馬車はそのまま目的地へ到着した。
「さあ着いたよ。今日はここから少し歩くけど、大丈夫かな」
楽し気なブライアン様の手を借り馬車を降りれば、祭りの気配を感じる。
ここがメイン会場より少し外れているためだろう、人の姿はまばらである。それでも、行き交う人々が、浮かれているのが見て取れる。
「アリアナ、あそこに花売りがいるけど」
ほらね。
私の真横にも、浮かれている貴公子様がいるもの。
彼が指を指す先を追えば、黒い修道服を着た女性の姿がある。
おそらくこれから会場へ向かうのだろう、手に持つ籐の籠から、あふれるように赤い色がのぞく。
修道女が持つ籠に巻かれた七色のリボン。それに王室公認のジェムガーデンの蝋印が施されている。
会場で売られる花に偽物が混ざらないために、あの籠以外で花は売れないし、祭りが終われば王室へ籠を返却する。
まあ、間違って盗まれてしまえば一大事って話で、横に、ぴったりと騎士が付き添う徹底ぶりだしね。
でもねぇ。
ジェムガーデンの花と他の花は、輝きが全然違う。
私からすると、そこまでしなくても、「偽物の花を売っていれば直ぐに分かるでしょう」と、言いたい。
籠を持つ修道女の姿を追っていると、ブライアン様から気合いの入った声が聞こえる。
「よし、アリアナを赤い花で飾るとするか」
「結構です! 嫌ですよ」
「なんだ、照れているのかい?」
「違います。花を着ける気分じゃないですから」
「……そうか」
彼が弱々しく告げた言葉に胸が痛む。
私が投げやりに発した言葉のせいで、彼は隠す素振りもなく、肩を落としたのだ。
……気まずい微妙な空気の中、双方に話す話題を失い、黙々と歩みを進める。
二人の間にしばらく沈黙が続けば、遠くから軽快な音が届く。
周囲には食欲をそそる肉を焼いた匂いや、甘ったるい屋台の香りが漂う。
祭りの人だかりに近づくにつれ、感じる賑やな空気。
あー、そう、そう。この感じ。
きゃっきゃっと響く笑い声に、大歓声。
雑多で飾らない雰囲気に、自然と気分が昂ってくる。
喜びで目がらんらんとしてきたら、少し前までの自分の態度が恥ずかしく思えてしまう。
チラリと横目で彼を見ると、悲しげに相当へこんでいる。
謝ろうかと思った矢先、横から強烈な気配が迫ってきた。それと同時。私は、グイッとブライアン様に引き寄せられる。
「おや、ブライアン。今年も来てくれたのか。良かった助かるよ」
と、上機嫌な声が響き渡る。随分と気軽に。
……はぁっと、ため息が漏れる。
流石騎士団長様だわ。
私の前では偉ぶることもないから、つい油断してしまうが、しがない私とは、生きている世界が違う。
ルーカス様と二人で花の祭典に来ても、一度も関わることのない身分の人物。
王太子殿下の登場である。






