1-27花の祭典②~rewriting~
花の祭典に向かうため、ブライアン様がバーンズ侯爵家の我が家へ迎えにきた。
今日の彼は、祭りに溶け込めるように、飾り気のないシャツ一枚と黒いスラックス、といったラフな服装だ。
「アリアナ。今日のあなたは一段と美しいね。もしかして、私とのデートを心待ちにしていたと期待してもいいだろうか」
流石、乙女ゲームの世界。
私の顔を見た瞬間、ブライアン様はキラキラと輝く笑顔を向けて、私を口説き始めた。
「一段と美しい」と言われて少し照れた私は、僅かに口角が上がったのは間違いない。
……この直前まで、エリーと繰り広げたワンピースの色問題。
一歩も引かないエリーとの真っ向勝負を諦めた私は、恋の駆け引きについて熱く語ってみることにした。経験値ゼロのくせに。
「彼の色に、染まり切らないもどかしさが、恋を熱くする」と、全く知りもしない御託を並べ、諭すこと三十分。
エリーとの戦いに勝利し、ブライアン様の瞳を連想させる、深い青のワンピースを退けるのに見事成功した。
だが、おかげでますます熱くなるエリー。
謎の恋愛談義を重ねた私は、鼻歌混じりに私の髪を結う侍女から、逃げる術はなく……。
その結果、自分で言うのはおかしいが、元から人目を引く美女の私は、エリーの手に掛かり、私自身が鏡の前で呆けるほど、美しく仕上がった認識はある。
暴走する侍女のエリーが、緑のワンピースだけでは味気ないと、私の金髪を丹念に編み込んでくれたのだ。
エリーが編み込みにした理由は、花がいくつも挿せるからという単純な話。
「お褒めいただき光栄ですが、残念ながら違います。私の侍女が勝手に張り切っただけで、ブライアン様のためではありませんから」
罪悪感はありつつも、彼にそっけなく返した。
一点の曇りも感じない彼からの言葉は、素直に言えば嬉しいに決まっている。
だけど、そんなことは絶対に言うものかと、ふいっと顔を横へ向けた。
あれ。
……もしかして、努力の方向を変えたらいいんじゃないかしら。
うん、そうだわ。
悪役令嬢だけど、私が嫌われないために、嫌われフラグをへし折れば、「ざまぁ」を回避できるかもしれない。どうして今まで思いつかなかったんだろう。
「何か考えごと? 随分と上の空だけど」
気遣わし気なブライアン様が、私の顔を覗き込む。
「あの~、一つ聞いても良いですか?」
「もちろん何でも聞いて。アリアナが私に興味を持ってくれるとは、嬉しいな」
「私の、どこが嫌いですか?」
この答えに私の人生がかかっている。嫌いなところは是正する。
もったいぶらずに教えてよと、至って真剣に調査を始めた。
ブレない視線を向けて問えば、目をパチパチするブライアン様が、のけ反った。
「えっ? 私は『愛してる』とは言ったが、嫌いと言った覚えはないけど」
ええ、知っていますとも。こちらも聞いた覚えはない。
私だって、自分のことを、やればできる女だと思っている。
そもそも悪役令嬢だし、性格に難ありなのは否めない。そのため、あなたの嫌いな所は、改善する姿勢。ただそれだけ。元婚約者へ無駄に尽くした私には、容易いことだ。
だがしかし。答えが一つにまとまらない様子のブライアン様は、目を見開き、ぽかんと固まっている。
「一つじゃなくていいですよ。私の嫌いなところを全部教えてください」
「嫌いなところなど、一つもない。アリアナの我が儘であれば、何でも叶えてあげたいしね。次のデートは、『演劇を観たい』と言えば、貸し切りにするし、それで満足できないのであれば、団員を私の城へ招き、二人きりで観ることもできるけど」
それでは、ちっとも答えになっていないから!
その回答では、嫌われフラグのへし折り方が、さっぱり見当がつかない。
私にヒントをくれと、藁にもすがる私は、請るような顔で彼を見つめる。
「恋人でもあるまいブライアン様と、観劇はいたしませんよ」
「やはりアリアナには、愛の告白が足りなかったようだね。渾身の言葉に、そっけない反応だけだったから、薄々そんな気がしていたんだ」
「えっ。申し訳ありません。よく分かっていませんでした」
まずい。
前回会った時に、彼との会話で重要なところを根こそぎ聞き漏らしたんだ。
だからかっ⁉
突然「ブライアン様呼び」を命じられたのは!
あの日。謀らずとも無言の承認をした何かに、危険がはらんでいませんようにと、願うしかない。
「聖女のようなアリアナの、勇敢なところも、真っ直ぐなところも、美し過ぎるところも、存在の全てが愛おしいから、恋人と名乗る権利を与えて欲しいと申し出たんだけど」
お読みいただきありがとうございます。
長くなり過ぎたので、一度切りました。
本日中に、もう一話をとうこうしたいなと、思っております。
★、ブックマーク登録、いいねで反応をいただき、大変嬉しいです。
引き続き、よろしくおねがいします。






