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1-23ズレた歯車⑤~additional~

よろしくお願いします。

「これは、クロフォード公爵様。先日はアリアナがお世話になりました。今、アリアナが毎年楽しみにしている、花の祭典へ一緒に行こうと話していただけです」

 私の背後に視線を向けたルーカス様がそう言った。


 ……は。どういうことかしら? 

 お世話になりましたって、どうしてあなたに言われなきゃならないのよ。

 隠れキャラとの苦労。何も知らないくせに。

 ぬけぬけと話す態度にムッとした私は、殊更大きな声を上げながら、彼に掴まれた腕をブンブンと振り乱す。


「だから、花の祭典にも、あなたの屋敷にも行かないって言ってるでしょう。関係ないんだから離してよ」


 すると、言葉にならない声がルーカス様から聞こえる。

「い、い痛たた……」


 突然、何が起きたかと思えば。

 私とルーカス様。その二人の間に割り入ったクロフォード公爵様が、ルーカス様の手首を強く把持している。


 苦痛に歪むルーカス様の顔。いよいよ痛みに耐えられなくなった彼は、ゆっくりと私の手を離した。

 ……助かった。

 不安から解放された私は、安堵の息がほうっと、もれる。

 

 少しして、クロフォード様が掴み上げる手を緩めたのだろう。

 身じろぐルーカス様は、一歩後ろへ下がった。


 クロフォード公爵様が、ルーカス様へ向ける、冷酷な目つき。

 以前、私に見せていたのとは、比べものにならない。

 これを見てしまえば、あれは、ちょっとお茶目にふざけた顔に思えてしまう。


「ルーカス殿。アリアナは、君と花の祭典に行くわけがないだろう。その日の予定は、私が先に彼女へ申し込んでいるからな。それに、アリアナを送り届けたことを、君から礼を言われる筋合いはない」


「いや、そんなはずはありません。花の祭典は僕と行く約束ですから。アリアナ……着ていく服は水色のワンピースに決めていたでしょう。髪に花をたくさん着けて欲しいって話も、僕が願いを叶えてあげるから、ねっ。クロフォード公爵様と一緒に行くのは違うだろう」

 表情を固くしたルーカス様は、震える声で私へ訴えてきた。


「違わない。クロフォード公爵様と一緒に行くから、あなたはとは行かないもの」


「よし。アリアナの馬車まで、私が送っていくとしよう」

 クロフォード公爵様が私の方を向き、満面の笑みで笑い掛けてきた。

 ひとまずここは打算的に動くべし。

 どちらが安全かを冷静に判断した結果、静かにこくりと頷いた。


「ルーカス殿は、道に散らばった小さい豆を全て拾っておきたまえ。後でこの場に戻ってきた時に片付いていなければ、令嬢の拉致未遂の犯人として、騎士団を引き連れ、ゲルマン侯爵家へ向かう。地面に這いつくばって一つ残らず綺麗に拾うんだな」


「いや、僕とアリアナは恋人同士で、ちょっとした喧嘩中なんです。事件ではありません」

「ならば事実をアリアナから確かめるだけだ。屋敷で首を洗って待っていろ」

 私まで震え上がる、どすの利いた低い声で言い切る。


 ……もしかして、もしかしてだけど。

 これまでクロフォード公爵様が私に気持ちを伝えていたのは、本気だったんじゃない。

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 そう思い始めたら、彼を意識してドキドキしてきちゃった。


「貴族の僕がゴミを拾う必要はありません。豆は我が家の従者に後で片付けさせます」

「君がアリアナに乱暴した始末を他人に押し付けるな。君が片付けなければ、騎士団で事件として動くだけだ」


「クロフォード公爵様。そんなことをしては、男に絡まれたと、アリアナに汚名が付きます。彼女を思うならお止めください。ご一考願います」


「君は些末なことを心配するんだな。私がアリアナの噂を気にすると思うのか? 私にはアリアナの汚名など少しも関係ないことだ。どうでもいい。町を汚した責任を君自身が取らなければ、君が加害者で、被害者はアリアナと言うだけ」

「そんな、無情な……」


 項垂れるルーカス様の横へ、人の気配が近づく……。


「だっ、団長。突然走り出して、どっどうしたんですか」

 呼吸が乱れ、息を切らす騎士服の男二人が駆け寄ってきた。


「随分遅かったな。令嬢が絡まれていたのに、歩いて来たのか?」

「いいえ。よく分からないけど団長が走り出したから、僕らだって、走って来ましたよ。団長が早すぎるんですよ。当のご令嬢はどちらですか?」


「安全は確保した。令嬢の連れ去りを企てた加害者は、そのルーカス・ゲルマン侯爵令息だ。この場の豆を一つ残らず片付けることで、示談が成立している。私は次の仕事があるから、この現場を頼むよ」

「承知いたしました」


 彼は後から来た二人へ、至って真面目な顔で指示を出したが、クロフォード公爵様は、町の警備のお仕事中だったのかしら。


「さあ、この場は部下に任せて我々は行こうアリアナ」

「はい」


「どうでもいい」といった言葉とは裏腹に、優しい笑顔を見せるクロフォード公爵様が、私の背中に腕を回す。

 そして、彼に促されるように歩き始めた。


 私の汚名はどうでもいいと言い切られた瞬間、熱くなっていた体温が、一気に冷めるのを感じた。


 こいつ、完全に本性を見せてきた。

 私の汚名など、端から気にしないと言い放つ、冷酷極まりない男だ。

 それもそうでしょうね。この男の目的は、アリアナの「ざまぁ」ですものね。


 窮地を助けて貰って、どれだけときめいたと思っているのよ。損したわ。

 あなたを意識して、危なく理性が飛ぶところだった。



 この世界の私の立ち位置。

 逆立ちしたって、嫌われ役のアリアナであることは、変わらない。

 馬鹿だなぁ。

 油断して、酷い勘違いを起こすところだった。


 本性を見抜いた私は、この男へ「私を弄んでくれたわね」と、ジト目を向ける。

 そうすれば、申し訳なさげな顔を返された。



お読みいただきありがとうございます。

次話、⑥2人の絡み回。

ブックマーク登録や☆、いいねで応援をいただきありがとうございます。

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引き続きよろしくお願いします。


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