1-17見舞い②~additional~
よろしくお願いします。
「初めて対面した日。私だけに気を許してくれた、飾らない姿のアリアナも良かったけど」
ちょっと、それは誤解。いくらなんでも飛躍し過ぎだから。あのチュニック姿にそこまで深い意味はない。
客人を正しく報告しなかった、エリーのせいだから。
「お恥ずかしい格好をお見せしたのは、忘れてください」
「それは少々無理な願いだ。あの日は記念すべき日だしね。今日は私のためだけに装ってくれたと思うと、感慨深いものがあるな」
と、しみじみと私に見入っている。
そんなに素敵かしらと、改めて自分のドレスを見てみれば、確かに彼の瞳の色と同じような色調である。
「あ……」
失敗した。どうしてこうなるのよ。
真っ先にエリーの仕業かと思い浮かんだけれど、彼女に限ってあり得ないと直ぐに否定する。
私がクロフォード公爵様の文句を言っているのを、エリーは聞いているんだし。これはただの偶然でしょう。
着替える前に、「このドレスで良いですね」と聞いてきたエリーの言葉に、ぼんやりと適当に返事した気がする。……あれ、どうだったかな、妙に記憶が曖昧だ。
何はともあれ、敵はエリーではなく、目の前のギラギラ眩しいこの男だ。
「違います。勝手に勘違いしないでいただけますか」
「ムキになって否定すると、照れ隠しのように見えて、それもかわいいな」
……は?
こちらは楽しませる気は一つもないのに、彼は口に手を当てながらくつくつと笑っている。
全くもって、お手上げ状態である。隠れキャラの彼には、真っ向から否定しても少しも歯が立たない。
となれば、作戦を変える必要があるみたいだ。
「もう、誤解ですから……。前回は、何のお招きもできずに申し訳ありませんでした。良ければお茶を飲んでいってください。あっ、忙しければ帰っていただいて結構ですよ」
「あなたから誘ってくれたのであれば、断るわけもないな」
柔らかな笑顔を見せるクロフォード公爵様は、私をエスコートして再び座らせると、私の横へ、さっと座った。そう、真横にね!
クロフォード公爵様は、相当の手練れとお見受けする。
アリアナの感覚では、四人かけの丸いテーブルに二人で座るなら、お向かいの席一択だ。
元婚約者のルーカス様一筋だったアリアナは兎も角。湊も要するに、モテ期とは無縁の人生だった。
さらりと距離を詰めてくる男性との恋の駆け引き、その他もろもろを、知らずに三十路を迎えた。
恋愛経験の乏しいこの二人が寄せ集まったのでは、悪役令嬢の観察スキルを以てしても、クロフォード公爵様の悪意を少しも感じとれない。
私には、クロフォード公爵様が、心からこの時間を楽しんでいるようにしか見えなくて。それなのに、私はこんなに冷たくしていいのかしら。
……いいえ、弱気は禁物よ。それも、彼の作戦の一つだから、乗せられてはいけない。
落ち着きなさい私。ここは、事を荒立てずに乗り切れば、上手くいくはずだ。
「この花は、アリアナ嬢への見舞いに持ってきたんだ、受け取って欲しい」
はいっ。その台詞の対処は検討済みだ。
あなたが両手で抱えるその花束を見たときから、その言葉をいつ言うのかと、待っていましたよ。
それを一目見たときから、ジェムガーデンの花束だと見極めたが、やはりそうだった。
花束のリボンに、しっかり、はっきり王室公認の印がある。
こんなものを受け取れば、クロフォード公爵様の気持ちを、私が受け入れたと思われても、おかしくない。
危険を察知した私は、彼の差し出す花束へ手を伸ばさずに、そっぽを向いて、放置に徹する。
しばらくして、私が反応しないことを見届けると。
クロフォード公爵様はテーブルの上に、何事もなかったようにさっと置いた。
それでも、にこにこと大全開の笑顔を向けてくれている。
……なんだろう。胸がちくりと痛い。
私へ優しい笑顔を向けてくれる人に、自分が意地悪なことをしている自覚があるからだろうか。
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次話は③となります。アリアナの奮闘はどうなるかの結果回です。
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