1-10攻略対象その3、兄の登場③~additional~
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お兄様であれば、何時間でも悩み続けて、このまま長居し兼ねない。正直それは困る。
面倒になった私は、混乱の解決を促す方が、進展するとみた。
「ええ、だからお兄様は、いつも私の髪に挿すカーネーションを見ると嫌がっていたじゃないですか」
カーネーションの効果は、媚薬。
それを思い出した私は、お兄様へ鎌を掛けた。
そうは言ったけど、お兄様が、私の花を嫌がっていたかなんて、実際には知らないわよ。
でも、「どうしていつもカーネーションなんだ」と訝しげに、聞いてきたことがあった。
「はは、そうだったか。……毒には『ダリア』だ。そんなことを聞いてどうしたんだ?」
「なんか、色々と昔のことを思い出しているうちに、お兄様との懐かしい記憶が蘇ってきたんですよ」
ジェムガーデンで育てられた花は、種類によって発動する魔法が違う。
カーネーションは、媚薬。
今、兄から聞いたダリアは毒消し。
カモミールは、結構不思議な働きをする。
それは、体の状態を一日前に戻す。
……「結構万能だわ~」と、湊も初めは驚いた。
いやいやでも、凄い魔法に見えるけど、弱点も大きい。
一度使うと、「一年は使えない」こと。
それに、体の時間が戻るのは、「きっちり二十四時間」と決まっている。
体の欠損でさえ治せるけれど、あくまでも、負傷して直ぐ、二十四時間より前に使わなければ、効果はない。
そして、呪文はその花によって違う。
カモミールの解呪は、『いっとき前に、連れ戻せ』だ。
何かにつけて出てくるルーカス様の口癖、……いっとき。
だから、直ぐに思い出せた。
花の祭典で売られている花は、かつてこの国に存在した聖女様の魔法が付与されている。
そうすることで、「家に居ながら聖女の魔法をお届け」という、日本で暮らす湊には馴染み深い、デリバリーを思わせる手法。
まぁ、きっとそうしなきゃいけない事情があったのね。
湊の記憶に王室や皇室のお土産の存在が、うっすらと残る。詰まるところそれが、このゲームの世界にもあり、王城で、一日に限られた花だけ売られている。
けれど花を手に入れても、誰も聖女様の魔法の恩恵を受けることは叶わない。
その理由は、かけられた魔法を発動させる呪文を誰も知らないからだ。
せっかく後世まで受け継がれるように、呪文が書き記されているのに、それを誰も読めないとあっては仕方ない。
私だって、ずっとそう思っていた。
だけど今なら、あの呪文の全てが分かる。
……だってあれ、日本語で書かれている。
そして、カモミールの呪文を試しに唱えれてみれば、間違いなく聖女様の力が発動した。
学会で植物学者顔負けの研究発表をしたお兄様は、国王陛下直々に、王城にあるジェムガーデンで、特命の仕事をしている。
そう、そのジェムガーデンこそが、聖女様が魔法をかけた庭であり、誰でも彼でも立ち入りを許されるわけではない、貴重な場所である。
お兄様が、私の閉じたノートをじっと見ながら、優しい口調で話を続けた。
「昔の想い出ね……。やっぱり勉強を見てあげようか」
「いえいえ結構ですわ。それより、お兄様に聞いてもいいですか。もし、聖女様の呪文が分かる者が現れたら、どう思いますか?」
「う~ん、そうだな。嬉しいよりも不安だな。そんな人物は現れて欲しくない」
「どうして? お兄様は、ずっとあの呪文を解読したかったのに」
「自分が読めるのと、読める者が現れるのは訳が違うからさ。奇跡の力で救われることもあれば、悪用しようと思う者が手に入れてしまえば、害することだって出来るからね」
害する者ね……。さすがにそれはないな。
「そうですか……」
「アリアナも呪文の解読を試みていたけど、あんなのに興味を持つくらいなら、違うことに時間を使いなさい」
「どうして?」
「余計なことに首を突っ込むと、何か誤解を受けるかもしれないだろう。アリアナが王城に監禁されて、二度と出て来られなくなったらどうするんだい。家族にも会えなくなるんだ。碌なことにならないから、聖女の花に関わるんじゃない」
思いのほか必死に、言い募る。
「急にどうしたのよ。昔は何も言わなかったのに」
「それは……。以前はアリアナがまだ子どもだったからね、今は違うでしょう」
「なるほどね。そういうことなら程々にするわ」
「いや、呪文には少しも関わらないに越したことはない。聖女は伝説のままが美しいからね」
な〜んだ。
お兄様は、呪文が分かると伝えれば喜んでくれる気がしていたけど、なんか違うみたいだ。
面倒は御免だし。よし、決めたわ。
私が日本語で書かれた呪文が分かることは、このまま隠しておこう。
もう、人に優しくなんてしている場合じゃない。
呪文が分かるって言ったところで、別に大したこともなさそうだしね。
そもそも私の人生。
悪役令嬢ってだけで、相当不利なんだから。
自分一人で生きるのが手一杯だもの。
これからは、余計なことに首を突っ込まずに自分のことだけ考えるの。
そうよ、それが一番。
とにかく平穏な未来を手に入れるのが目標なんだから。
このタイトルは③で終了し、次話は違うタイトルになります。
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