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よろしくお願いします。
気がつくと、どの辺まで滑落したのか、周りを見ても同じような景色ばかりで確認のしようが無い。
兎に角、どの程度の怪我なのか調べようと思い、頭を捻ると顔のすぐ横に1匹の兎が立っていた。
暫く様子を伺っていると兎は身体の周りを歩き出し、時々立ち止まっては覗き込むような姿勢で匂いを嗅いでいるような仕草をする。
そうやって私の身体の周りを一周すると元の場所でかがみ込み、
「だいじょうぶ、おおきなけがは、ないよ」
兎に語りかけられた瞬間、そうか、死んでしまったか、と思ったが恐怖は無かった。
すると、
「だいじょうぶ、しんでないよ」
「兎が喋っているのだろう?ここは死後の世界じゃ無いのかい?」
兎に語りかけてみたが、その兎は暫く大きな目を開けて、お辞儀をするような姿勢で胸の辺りで前足を重ね合わせて立っていた。
やはり、兎が喋る筈がないか。
「おとうさん、ぼくがわからないの?」
はっとしてよく見てみると、兎の全体像に思い当たる節がある。
もしかして、然し、そうであれば、ここは紛れもない死後の世界である。
「ピー太? かい?」
「そうだよ、でも、ここは、しごのせかいじゃないよ」
「もう何年も前に居なくなったよな」
「うん、おとうさん、あのとき、ないてくれたね。おとうさんがないたから、ぼく、しばらく、そばにいたよ」
「そうか、じゃ此処は向こうの世界でないとしたら何処なんだい?」
「ぼくに、むつかしいことはわからないよ。でも、おとうさんがすんでいたばしょでもないよ」
「じゃ、此処は何処なんだろうね」
「ついてきて」
お読みいただき、ありがとうございます。