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よろしくお願いします。
そうやって暮らしながら過ごしやすい春から夏へと季節が変わっていった。
おじいさんの仕事は、その丁寧な手作業が噂になり、そして人から人へと伝わり、町ではやっと人気が出始めていた。
二人にとってはとても幸せな日々が始まるような予感だった。
おじいさんの小さな手作りのテーブルにはチーズとヨーグルトが並ぶことも多くなった。生野菜が添えられることも稀にある。
あまり喋らないおじいさんとの食事は、それでも笑顔が溢れていた。
そんなある日のこと、やっとミュウが訪ねてきた。
「アミー、アミー、どこにいるの?ねぇ、アミー」
「アミーなら作業小屋にいるよ」
「あ、おじいさん。こんにちは、お元気ですか?」
「ああ、もちろんさ」
「じゃ、私、ちょっと作業小屋に行ってきていいかしら」
「ああ、行っておいで」
あっという間の出来事であった。
「アミー、お弁当作ってきて上げたわよ
」
「やあ、ミュウ」
「何してるの?」
「仕事だよ」
「えっ、仕事って何?」
「おじいさんの手伝いだよ」
「ほんと、もうおじいさんの手伝いができるようになったの?凄いじゃない。で、それ何?」
「これかい、これは椅子に取り付ける足だよ」
「へー、そんな棒が足になるんだ」
「そうだよ、でも細かい彫刻とかの飾り付けはおじいさんの仕事なんだ」
「そうかぁ、あっ、そうそう、これ、約束のお弁当よ。おじいさんと3人で食べない?ちゃんとムーの分も持ってきたから」
「ありがとう、おじいさんは何してた?」
「薪割りかしら、お外にいたわ」
「じゃ、おじいさんに声をかけに行こう」
「ええ、お昼ご飯ですよーってね」
三人は大きな木の下の陰で風を感じながらお昼ご飯を食べていた。
「とても大きなお庭だわね」
ミュウが感心して言うと、
「そうだね」
とおじいさんが返事をした。
ムーは紐に繋がれてそこら辺を跳ねては立ち止まり、時々、何を聞きつけたのか後ろ足だけで直立の姿勢を取り、耳を前後左右に動かしている。
ムーを結んだ紐は、ムーの鋭い前歯で削られるため、注意が必要だ。
アミーは、ムーとムーを繋いでいる紐に目を遣りながら、
「でもさ、ここもミュウのお父さんの土地かもしれないよ」
と言った。
「そんなことはないわ、ここはおじいさんのものよ」
「大地は誰のものでもないさ」
とミュウに答えて、おじいさんが言った。
「そうよ、誰のものでもないわ」
ミュウがそう言うと、アミーはムーから目を離して透き通るような青い空を見上げて言った。
「そうだね」
山々の向こうからは、真っ白な厚い雲が大きく伸びている。
「そうそう、アミーに大切なお知らせを持ってきたのよ」
そう言うとミュウは一枚の紙片を籠から取り出した。
「アミー、これどう思う?」
「何だい、これ?」
「コンテストよ、笛のコンテストよ。アミー出てみようよ。アミーの笛なら優勝間違いないわ。大丈夫、私が言うんだから」
「ミュウも審査員の一人なのかい?」
「まさか、そんな訳ないじゃない。でも私には分かるわ」
「おじいさん、どうしよう?」
アミーは遠い空を見ていた目をおじいさんに向けた。
「お前の好きなようにすればいいさ」
今度は、おじいさんが遥かな空を見ながら行った。
「そうよ、アミー、好きなことをすればいいのよ。優勝すれば賞金も出るのよ」
「そうかぁ」
「賞金を貰ったら。おじいさんを楽にしてあげられるわ」
「そうかぁ」
ミュウのこの言葉は、アミーの心の深くに染み込んだ。
「発表は発送で知らせてくるんだって。その後に受賞者の演奏会と祝賀会が開かれるそうよ」
「おじいさん、僕らの住んでるところの住所ってあったけ?」
「ならいいわ、住所は私の家にすればいいのよ」
おじいさんに取って代わってミュウが答えた。
「必要な書類は私が全部書いてあげるわ」
木の下でお昼ご飯を食べている二人は、完全にミュウのペースにはまっていた。
ありがとうございました。




