山の頂上から見つけた異世界の風景
1
道に迷ってしまった。
ここは焦らずビバークするべきか。
バックパッカーから水筒とストーブを出してコッヘルに水とココアの粉末だけを入れて沸かして飲む。
道を失ってから何時間歩いたのだろう。
とりあえず休もうか?
苦いだけのココアを飲んでみる。
そして、寝袋に入ると疲れが押し寄せてきていつの間にか眠ってしまう。
眠っている間に夢を見たようだ。
兎が出てきた。
その兎は昔飼っていたネザーランドだ。
その兎が私に語りかけてきた。
「おとうさん、まだこっちに来ちゃだめだよ」
その声に起こされたかのように上半身を起こす。
寝袋を畳んでもう一度、ココアを入れた水を沸かしてゆっくり飲む。
気分はかなり落ち着いてきている。
太陽は少し傾いているだけに過ぎない。
いつ死んでも構わない、そう思って登り始めた自分であるが、何故か生きようとしている。
そうだな、生きている限り希望だけは捨てちゃいけないよな、なぁピー太、そうだよな。
彼は昔飼っていたネザーランド種のウサギに語りかけてみる。
男は一本しかないストックを握りしめて再び歩き出した。
もう一本のストックは斜面から滑落したときに失っている。
わかっているさ、どんな苦境に立たされても希望という言葉の意味を知っている人間は這い上がれるんだ。
歩こう、兎に角、沢を見つけて下っていこう。
文明はいつも水辺で栄えてきた。
沢を降れば必ず民家があるはずだ。