手に取る未来を
僕たちはその後、結局殆ど一日中鍛錬に時間を費やした。途中から何度も止めようとしたけど、ヘルちゃんが何度も何度ももう一回!もう一回!って言って付き合わせるから、最期はレグ先輩が止めてお開きになった。
それから皆で温泉に入って、眠りについて、只今深夜1時。目が覚めた僕は、男組が纏められた部屋をこっそりと抜け出した。家でもいつもこのくらいの時間に目が覚める。家だと、大抵はスフィア母さんが起きているけど、ここだと一人だ。一人は寂しくはあるが、気楽でもある。
「…あれ」
夜風にあたるために外に出ると、そこには先客がいた。
「ユイ、珍しいね」
ユイに声を掛けると、彼女は頬を膨らませて、僕を睨め付けた。
「裏切者…」
「ごめんって」
恨めし気に僕を睨め続ける彼女を宥める。
「…いいよ。私もそんなに、嫌じゃなかったし」
ひとしきり睨んで気が済んだのか、彼女は小さな笑顔を作った。
「そういや、さ。ユイはいつからここに住んでるの?」
僕はそう、前々から聞こうと思っていたことを口にした。彼女が宇宙人だか何だかに出会って、それを自分の身体に取り込んだという話は聞いたけど、どうにも彼女の様子は、聞いていた話と微妙に食い違う。
その隕石が落ちてきたというニュースは覚えている。正確な日にちまでは覚えていないが、長くて一年前だと思う。なのに、ユイの様子はまるで、今まで殆ど他人と接してこなかったと言わんばかりだ。それから、その白い肌もそうだ。ダークエルフの褐色肌っていうのは遺伝要因じゃなく、ミクトの温暖な気候と強い日差しが元になっている。彼女の肌が白いのは、それだけ日に当たっていないということ。この森から、出ていないということ。
だから、僕は考えた。ユイには、宇宙人とは別に、他人とかかわってこれなかった何かがあるんじゃないか、と。
「生まれてこの方、だよ」
だから、僕はその答えを聞いても驚かなかった。
「私は生まれてからずっと、この森で暮らしてるのよ、私は」
「…何か、理由があるの?」
僕がそう聞くと、彼女は困ったように笑った。
「本当はね、あんまり言いたくないけど、あなたは特別。友達だもんね?ギルくん」
彼女はどこか自虐的に言って、彼女は答えた。
「私はね、宇宙からの飛来物なんてものがとりつくよりずっと前から、異常だったの」
…異常?化者のことをそう言う地域もあるとは聞いたけど、そういうこと?
僕がそんな疑問を持っていると、彼女は首を振った。
「化者とかそう言うベクトルじゃない。ただ、人並外れていた。私は生物の枠の外にはみ出した存在」
僕は正直、彼女の言葉の意味が良く分からなかった。生物の枠の外、彼女の言い分からすれば化者でも、神でも、使徒でもない。
なら、なんだ?稀代の天才?じゃあ、僕らと変わらないだろ。特待生だって、大概イカれてる。
「だから」
ユイは、語気を強くして、続けた。
「だから、あなたに人って言われて、本当に嬉しかったの」
そう言って、彼女は涙を溢した。
「私も学校に通いたい。あなたのお友達とも、もっと仲良くなりたい。自分が、自分だってことに、自信を持ちたい」
彼女がそこまで言って、彼女の言いたいことを、僕はようやく理解した。
彼女は今まで、我慢を強いられてきたんだろう。彼女の人並外れた優秀さ、それを僕は実際に目にしている。何度か目にした宇宙人が由来と思われる、超常的な力も。
「…え?」
だから、僕は彼女に手を差し出した。
だから何だ。そんなものは関係ない。彼女がどうであろうと、彼女が不利益を被る謂れはない。
「僕が、君を連れて行く」
これは、単なる僕のエゴだ。彼女がここを出ることを、僕たちと一緒にいることを望んでいるなら、僕は叶えてあげたい。僕もそれを望んでいる。
「…何、それ」
ユイはそう言って、笑った。
「ギルくんが連れて行っても、私の母が許可しなきゃ学園には行けないし。そもそも台詞が芝居がかり過ぎ」
そう言って、彼女は笑う。
それでも、彼女は僕の手を握ってくれた。
「それでも、嬉しかったよ、ギルくん」
そう言うと、彼女は家の方に向かって行った。
「早速、母に直談判してみるわ。今から電話するけど、ギルくんも話してみる?」
「遠慮します」
僕は首を振った。ていうか今深夜だけど、大丈夫?そう聞くまでもなく、彼女は家の中に戻っていった。
僕も戻ることにした。そろそろ眠気がひどくなってきたし、眠れそうだ。
「…本当、素敵だわ」
だから、僕は小さく呟いた彼女の声も曖昧にしか聞こえず、問い返す間もなく、部屋へ戻った。




