怪物の結社
「さーて、次はどこ行く?」
「どことかありませんよ。困った人がいたら助ける、それだけです」
ヘルガーの問いに、私はヘルガーの腰に捕まりながら言った。
「先輩も奇特な人だよな。人助けが趣味って」
快活に笑いながら言う彼女の言葉に、私は同意する。私だって、他の誰かが人助けが趣味です!なんて言ってたら普通に変な人だと思うし、ヒーロー活動してます!なんて言われたら、軽く引く。
「これが私の性分ですから」
私は笑って、そう答えた。あの時、お母さんに助けられたあの時が、私の生き方。あの時から、私の生き方は決まっている。
あの時、お母さんが助けてくれたように、私も誰かを助けて生きたい。それがきっと、何よりの恩返しになると思うし、私もそうしたいと思うから。
私がそう言うと、ヘルガーも笑った。
「先輩のそういうところ、好きだぜ」
「…そうですか」
ヘルガーの返答を聞いて、私は瞼を閉じた。きっと、口角は上がっている。
「私も、貴方のことは好きですよ。ヘルガー」
「きゃは、相思相愛?」
ヘルガーはそう言って茶化すけれど、なんだかんだ言って、いつも私に付き合ってくれる彼女は良い相棒だ。感謝してるし、尊敬もしてる。
「ま、あたしも人助けってのは別に嫌いじゃねえからな。親父と戯灰の影響もあるか」
彼女が挙げた二人の名は、私も良く知っている。母さんの義父と義兄、私も何度か会ったことがある。その時、まだ幼かったヘルガーとも遊んだっけ。
思えば、ヘルガーとは叔母姪の関係になるのか、なんて、今更な気付きを得る。指摘すると調子に乗りそうだし、黙っておこう。
(フーラ!何か来る!)
ふと、カテーナが声を上げた。
「ロボ!危険反応!」
危険を知らせるその声に従って、私はヘルガーに指示した。
カテーナの能力の一つ、第六感。カテーナは私に降りかかる危険を事前に察知できる。恐らくは私の幼少期、まだ虐待されていた頃の私を守るための術。
「おう!」
背後に車両が迫ってないことを確認して、ヘルガーは乗っていたバイクを分解させ、二本の拳銃に変化させた。そして私たちは抱き合って、全身に鎖を巻き付けた。
「!」
そして、鎖が何かを弾いた。鋭角な、刺のような何か。
「何!?」
何者かが、刺が弾かれたことに動揺し、声を上げた。
私は鎖を解除し、その何者かと相対する。
「おいおい、スコーピオン!てめえのその尻尾は見掛け倒しか!」
視線の先にいたのは一人ではなく、三人の男たちだった。
一人はリザードマンの男、しかし、普通のリザードマンより遥かに背丈が高い。
「黙れリザードマン!阿呆が!こやつも俺と同じ化者だ!そう簡単に行くわけがなかろう!」
そして恐らく、今私たちに攻撃してきた男。蠍の様な尾を持ったその男は、嘲笑するリザードマンの男に怒りをぶつけている。
「仲間割れしてる場合か。まずは仕事をしろ」
それに、カブト虫の様な羽がついたアーマーを身にまとった女。彼女は冷静に、二人の諍いを納めようと試みる。
「…」
最後に、なんだ?ゴブリン?グライダーの様な物の上に乗ったゴブリンが、こちらを値踏みするような瞳でじっと見つめてくる。
「ロボ」
「分かってるさ、ゴースト」
私はヘルガーと目配せして、対応を決める。この男たちが何者かは分からないし、何が目的なのかも分からない。
「二縄二縛」
なら、即刻捕まえて、聞き出すのみ。私は四人の敵目掛けて、紐を投射した。そして、巻き付け、縛り付けるために。
「…無駄だ」
そう言って、ゴブリンは懐から何かを取り出し、そのまま無造作に投げつけた。
「!」
その何かは空中で回転し始め、私の投げつけた紐を全て切り裂いた。
「リパルサー、中々便利なおもちゃさ」
手元に戻ったそれを懐に戻しながら、ゴブリンは笑う。
「…ロボ、準備は出来てますか?」
「とっくに」
捕縛は無理筋、ならB案で行く。
「ロボ、あなたはそっちのデカい二人をお願い。私はこのゴブリンを叩きます」
「相変わらず、負けず嫌いだなあ」
全員ぶっ倒す。私はヘルガーにリザードマンと蠍を任せて、ゴブリンとアーマーに狙いを定めた。
「はっ!分断出来ると思ってんのかよ!」
「あはは、不思議ですよね。そういう言い方してる人が正解だったの見たことありません」
嘲るように言ったリザードマンに、私は笑って返す。何故なら、私は何より、ヘルガーのことを信頼しているから。
「行くぞー」
「う、あああああああ!」
軽々しい掛け声で、ヘルガーはリザードマンに向けて突進した。目にも止まらぬ速さで、そして、凄まじいパワーで、リザードマンは吹き飛ばされた。
あれが、ヘルガー。二人の七英雄の血を引いた、生まれながらの傑物。
「リザードマン!」
「スコーピオン、サポートに行け」
「…指図するな!亜人種風情が!」
憤りと差別感情を隠さずにぶちまけて、スコーピオンとやらがヘルガーの方へ向かって行った。
スコーピオンが消えた後、ゴブリンは愉快そうに笑った。
「この国は寛容な国と聞いていたが、そうでもないようだな」
「所詮、人それぞれですよ。はぐれ者はどこにでもいるものです。貴方の様に」
「そして、君の様に、か」
「ええ」
それから、私たちは笑った。しょうもない、遠回りな自虐の応酬。アーマーの女はその表情こそ見えずも、引いているのは間違いなかった。
ひとしきり笑った後、私は名乗ることにした。恐らく、このゴブリンはどこか、私と近いところがあるのだろう。それが何かは知らないし興味もない。だが、名前くらいは知っても良い。そう思ったから。
「私はゴーストチェイン。趣味でヒーローをしている者です」
「俺はホブゴブリン。ただの、悪役気取りさ」
そして、互いの笑みは消え失せ、私たちはぶつかった。
*
一方、ミクト首都、ビルの一室で。
「怪物の結社、ね」
そこに、一人の男がいた。禿げ頭の男は葉巻を吸いながら、ぼやくようにその名を呼んだ。その名は、ホブゴブリンを筆頭にした彼らの組織の名。
『不服かね?ボス・コフィン』
そんな彼に、一人でいたはずの彼に、問いかける声があった。生身の声じゃない。何らかの機械を通した声。それは日常会話をするかのように穏やかな声音で、彼に尋ねた。
「不満などない。だが…」
『あれらが勝てるとは思わない。そんな所かね』
「まあ、その通りだな」
葉巻を灰皿に押し当てながら、ボス・コフィンは頷いた。
「特にうちから斡旋した三人。化者もいるとは言え、所詮は社会の落ちこぼれだ。あのヒーローとやらは、インテリジェンス、あんたの私見によれば相当出来るんだろう?そんな奴らの相手になるとは思えん」
『構わない。勝つのが目的ではないからな』
「…あんたがそう言うなら、私も構わんが」
インテリジェンスの言葉を聞いて、彼は渋面を作りながらも頷く。
ボス・コフィンとしては既に報酬は得ている。ヒーローがどうなるかにも興味はない。今のところ、ファミリーに被害はないし、これからも被害を被ることはない。
(一体、何を考えている?)
故に、彼の危惧はインテリジェンスにあった。この男の考えが、目的が、何をしたいのかが読めない。
ボス・コフィンは生まれながらの裏家業の人間だ。だからこそ、腹芸に関しては一日の長があると自負している。事実、彼は交渉の場で優位に立つ心得を知っている。実行に移せる。自他ともに認める、ボスの器なのだ。あくまで、人の世界では。
『何、君が気にすることではない。君は報酬の分、私の欲求に答えてくれればそれでいい』
ボス・コフィンは、まるで、心を読めるかのように振る舞う、インテリジェンスの扱いに頭を抱える他なかった。
『さあ、そろそろもう一人を動かすぞ。ボス・コフィン』
インテリジェンスと名乗る芋虫は、そう彼に指示した。
『詰みの時間だ』
虫とは思えないような、邪悪な笑みを浮かべて。




