表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/100

怪物の結社

「さーて、次はどこ行く?」

「どことかありませんよ。困った人がいたら助ける、それだけです」


 ヘルガーの問いに、私はヘルガーの腰に捕まりながら言った。


「先輩も奇特な人だよな。人助けが趣味って」


 快活に笑いながら言う彼女の言葉に、私は同意する。私だって、他の誰かが人助けが趣味です!なんて言ってたら普通に変な人だと思うし、ヒーロー活動してます!なんて言われたら、軽く引く。

 

「これが私の性分ですから」


 私は笑って、そう答えた。あの時、お母さんに助けられたあの時が、私の生き方(オリジン)。あの時から、私の生き方は決まっている。

 あの時、お母さんが助けてくれたように、私も誰かを助けて生きたい。それがきっと、何よりの恩返しになると思うし、私もそうしたいと思うから。


 私がそう言うと、ヘルガーも笑った。


「先輩のそういうところ、好きだぜ」

「…そうですか」


 ヘルガーの返答を聞いて、私は瞼を閉じた。きっと、口角は上がっている。

 

「私も、貴方のことは好きですよ。ヘルガー」

「きゃは、相思相愛?」


 ヘルガーはそう言って茶化すけれど、なんだかんだ言って、いつも私に付き合ってくれる彼女は良い相棒(サイドキック)だ。感謝してるし、尊敬もしてる。


「ま、あたしも人助けってのは別に嫌いじゃねえからな。親父と戯灰の影響もあるか」


 彼女が挙げた二人の名は、私も良く知っている。母さんの義父と義兄、私も何度か会ったことがある。その時、まだ幼かったヘルガーとも遊んだっけ。

 思えば、ヘルガーとは叔母姪の関係になるのか、なんて、今更な気付きを得る。指摘すると調子に乗りそうだし、黙っておこう。


(フーラ!何か来る!)


 ふと、カテーナが声を上げた。


「ロボ!危険反応!」


 危険を知らせるその声に従って、私はヘルガーに指示した。

 カテーナの能力の一つ、第六感(チェイン・センス)。カテーナは私に降りかかる危険を事前に察知できる。恐らくは私の幼少期、まだ虐待されていた頃の私を守るための術。


「おう!」


 背後に車両が迫ってないことを確認して、ヘルガーは乗っていたバイクを分解させ、二本の拳銃に変化させた。そして私たちは抱き合って、全身に(カテーナ)を巻き付けた。


「!」


 そして、鎖が何かを弾いた。鋭角な、刺のような何か。


「何!?」


 何者かが、刺が弾かれたことに動揺し、声を上げた。

 私は鎖を解除し、その何者かと相対する。


「おいおい、スコーピオン!てめえのその尻尾は見掛け倒しか!」


 視線の先にいたのは一人ではなく、三人の男たちだった。

 一人はリザードマンの男、しかし、普通のリザードマンより遥かに背丈が高い。


「黙れリザードマン!阿呆が!こやつも俺と同じ化者だ!そう簡単に行くわけがなかろう!」


 そして恐らく、今私たちに攻撃してきた男。蠍の様な尾を持ったその男は、嘲笑するリザードマンの男に怒りをぶつけている。


「仲間割れしてる場合か。まずは仕事をしろ」


 それに、カブト虫の様な羽がついたアーマーを身にまとった女。彼女は冷静に、二人の諍いを納めようと試みる。


「…」


 最後に、なんだ?ゴブリン?グライダーの様な物の上に乗ったゴブリンが、こちらを値踏みするような瞳でじっと見つめてくる。


「ロボ」

「分かってるさ、ゴースト」


 私はヘルガーと目配せして、対応を決める。この男たちが何者かは分からないし、何が目的なのかも分からない。


「二縄二縛」


 なら、即刻捕まえて、聞き出すのみ。私は四人の(ヴィラン)目掛けて、紐を投射した。そして、巻き付け、縛り付けるために。


「…無駄だ」


 そう言って、ゴブリンは懐から何かを取り出し、そのまま無造作に投げつけた。

 

「!」


 その何かは空中で回転し始め、私の投げつけた紐を全て切り裂いた。


「リパルサー、中々便利なおもちゃさ」


 手元に戻ったそれを懐に戻しながら、ゴブリンは笑う。


「…ロボ、準備は出来てますか?」

「とっくに」


 捕縛は無理筋、ならB案で行く。


「ロボ、あなたはそっちのデカい二人をお願い。私はこのゴブリンを叩きます」

「相変わらず、負けず嫌いだなあ」


 全員ぶっ倒す。私はヘルガーにリザードマンと蠍を任せて、ゴブリンとアーマーに狙いを定めた。


「はっ!分断出来ると思ってんのかよ!」

「あはは、不思議ですよね。そういう言い方してる人が正解だったの見たことありません」


 嘲るように言ったリザードマンに、私は笑って返す。何故なら、私は何より、ヘルガーのことを信頼しているから。


「行くぞー」

「う、あああああああ!」


 軽々しい掛け声で、ヘルガーはリザードマンに向けて突進した。目にも止まらぬ速さで、そして、凄まじいパワーで、リザードマンは吹き飛ばされた。

 あれが、ヘルガー。二人の七英雄の血を引いた、生まれながらの傑物。


「リザードマン!」

「スコーピオン、サポートに行け」

「…指図するな!亜人種風情が!」

 

 憤りと差別感情を隠さずにぶちまけて、スコーピオンとやらがヘルガーの方へ向かって行った。

 スコーピオンが消えた後、ゴブリンは愉快そうに笑った。

 

「この国は寛容な国と聞いていたが、そうでもないようだな」

「所詮、人それぞれですよ。はぐれ者はどこにでもいるものです。貴方の様に」

「そして、君の様に、か」

「ええ」


 それから、私たちは笑った。しょうもない、遠回りな自虐の応酬。アーマーの女はその表情こそ見えずも、引いているのは間違いなかった。

 

 ひとしきり笑った後、私は名乗ることにした。恐らく、このゴブリンはどこか、私と近いところがあるのだろう。それが何かは知らないし興味もない。だが、名前くらいは知っても良い。そう思ったから。

 

「私はゴーストチェイン。趣味でヒーローをしている者です」

「俺はホブゴブリン。ただの、悪役気取りさ」


 そして、互いの笑みは消え失せ、私たちはぶつかった。



 一方、ミクト首都、ビルの一室で。


怪物の結社クリーチャーソサエティ、ね」


 そこに、一人の男がいた。禿げ頭の男は葉巻を吸いながら、ぼやくようにその名を呼んだ。その名は、ホブゴブリンを筆頭にした彼らの組織の名。


『不服かね?ボス・コフィン』


 そんな彼に、一人でいたはずの彼に、問いかける声があった。生身の声じゃない。何らかの機械を通した声。それは日常会話をするかのように穏やかな声音で、彼に尋ねた。


「不満などない。だが…」

『あれらが勝てるとは思わない。そんな所かね』

「まあ、その通りだな」


 葉巻を灰皿に押し当てながら、ボス・コフィンは頷いた。


「特にうちから斡旋した三人。化者もいるとは言え、所詮は社会の落ちこぼれだ。あのヒーローとやらは、インテリジェンス、あんたの私見によれば相当出来るんだろう?そんな奴らの相手になるとは思えん」

『構わない。勝つのが目的ではないからな』

「…あんたがそう言うなら、私も構わんが」


 インテリジェンスの言葉を聞いて、彼は渋面を作りながらも頷く。

 ボス・コフィンとしては既に報酬は得ている。ヒーローがどうなるかにも興味はない。今のところ、ファミリーに被害はないし、これからも被害を被ることはない。


(一体、何を考えている?)


 故に、彼の危惧はインテリジェンスにあった。この男の考えが、目的が、何をしたいのかが読めない。

 ボス・コフィンは生まれながらの裏家業の人間だ。だからこそ、腹芸に関しては一日の長があると自負している。事実、彼は交渉の場で優位に立つ心得を知っている。実行に移せる。自他ともに認める、ボスの器なのだ。あくまで、人の世界では。


『何、君が気にすることではない。君は報酬の分、私の欲求に答えてくれればそれでいい』


 ボス・コフィンは、まるで、心を読めるかのように振る舞う、インテリジェンスの扱いに頭を抱える他なかった。


『さあ、そろそろもう一人を動かすぞ。ボス・コフィン』


 インテリジェンスと名乗る芋虫は、そう彼に指示した。


『詰みの時間だ』


 虫とは思えないような、邪悪な笑みを浮かべて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ