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大いなる力には

 最後の授業が終わった頃、僕たちはそれぞれ、というか僕とプラチナがだけど、家族に報告してからサファイアたちと合流することにした。


「姉ちゃん、あたし、サファイアん家行くから、カバンお願い」

「あいよー」


 プラチナはヘルちゃんにバッグを預けてさっさと行ってしまった。あの姉妹はなんていうか、話が早い。血は繋がってないって言ってたけど、そうは思えないくらい似てるし。


「ハイはどうする?」

「俺はパス。これからレグと十本勝負がある」


 僕はハイデルンに一緒に行くかどうか聞くと、彼はそう言って首を振った。

 ハイデルンはレグ先輩と仲が良い。というか、殆ど師弟関係みたいな感じ。二人とも同じ剣技を使ってるし、本当に師弟みたい。


「そういえばレグ先輩、今の戦績ってどんな感じなの?」

「んー、私8でハイデルンが2。そろそろ73になる。日に日に強くなってるよ、ハイデルンは」


 ちょっと気になって先輩に聞いてみると、先輩はにまっと笑って言った。

 残念ながら、僕にはハイデルンや父さんの様な剣の才能はない。だから、二人のような関係には憧れるし、一抹の寂しさというか、悔しさというか、何かもやっとするものがある。


「フーラ姉、今日サファイアの家に行くからちょっと遅くなるかも」

「おっけーです」


 最後にフーラ姉に伝えて、僕はサファイアたちのところへ向かおうとした。

 

「あ、そうだ。ギルくん」

「何?」


 その直前、フーラ姉に呼びかけられて、僕は振り返った。


「気を付けてくださいね、最近は物騒ですから」

「うん。気をつけるよ」


 僕は頷いてから、改めて皆のところへ行った。

 


「さて、私も行きますか」


 ギルくんたちを見送ってから、私はバッグを背負って、席を立つ。


「またヒーローごっこ?」

「…ええ、趣味ですので」


 ヘルガーが揶揄うように言うので、私も含みを持たせた笑顔で。


「怒んなよ、ただでさえこえーんだから」

「え…?」


 私って怖い?結構穏やかな方だと思ってるんだけどな。


「顔シリアスすぎ。マジに取るなよなー」


 そんな私の表情を見て、ヘルガーが愉快そうに笑ってるのに腹が立ったので、彼女に紐を纏わせて。


「がああああ!」


 そのまま、死なない程度に八つ裂きにしてあげた。ヘルガーは頑丈なので問題ないでしょう。


「そういうとこ!」


 半泣きで私に詰め寄ってくるヘルガーを笑いながら、私は教室を出た。


「ちょっと待てって」

「何だよ」


 それでもついてくるヘルガーに、あたしは単刀直入に聞いた。


「最近物騒って言ったのは、先輩の方だろ?だから私もついてってやろうと思って」

「いらん」

「ちょっと!早いよ!」


 面倒になってきたのであたしは早足で廊下を歩き進むが、彼女は余裕であたしについてくる。


「てか、なんでそんなに怒ってんの!?いつも誘ってくれるのに」

「お前があぁしのケーキ勝手に食べたからだよ!」


 本当に心当たりが無さそうなヘルガーに思わずあたしは叫んだ。フーラと、あたしと、ハイとギルのケーキだったのに、こいつが勝手に食べたせいであたしが食べ損ねた。

 それはそれとして、学校の中で大声を出してしまったことを口元を抑えて反省。フーラのイメージが変わっちゃう。


「…?」

「決めた、絶対置いてく」

「カテーナ先輩、ごめんって!」


 尚も抱き着いてまで食い下がるヘルガーに溜め息を吐いて、あたしは聞いた。


「…ケーキ、弁償。それでチャラ、いい?」

「えー、あんまりお金持ってないんだけ―」

「おっけー?」

「おっけーでーす!」


 もう一度聞いたら、敬礼付きで了承を得た。ケーキ、ホールで買っちゃおうかなぁ。

 


「皆ー、お菓子買ってこうぜ」

「プラチナさあ」

(予想通りすぎる)


 帰り道、言い出しっぺのプラチナが既に飽き始めてるのを見て、僕を含めて皆はため息を吐いた。とは言え、別に彼女をとがめる程、僕らに熱があったわけでもないので、皆でお店に入ってお菓子と飲み物を買った。


「どうする二人とも?」


 最早、プラチナには聞く気もなくなったらしい、サファイアが僕たちに向けて聞いてきた。


「まあ、とりあえず、ちょっとだけ探してみない?正直、結構気になってるんだよね。なんで、わざわざおばさんが父さんに相談したのか、これって結構不思議じゃない」

「私も同感。ぶっちゃけ、おじさんに相談ってのが怖いよね。六星将直轄、新星、だっけ?」

(次代の六星を担う候補者たち、実力は六星将に比肩する。サイトのコピペだけど)


 新星、父さんと仲の良いナインハルトおじさんとかサファイアのお父さんもそうだけど、そのレベルの人が動かない事態が起きている可能性があるってことだ。というか、サファイアのお父さん含めれば、新星二人が必要ってことだよね。何それ、怖い。


(仮に新星が必要な程の事態が起きていたとして、何故サファイアのお母さんがそれを知っていたかは謎だけど)


 ゴーズの指摘は確かに的を射ていた。確かに、そういうことが起きていたとして、なんで軍とか六星将じゃなくて、一介の個人から連絡が届くのか。あくまで、推論は推論か。


「チョコバーうめえ」


 呑気にチョコレートを頬張るプラチナに僕らは苦笑して、サファイアはため息を吐いた。


「…考えてても仕方ないね。とりあえず、うちいこ?何もなかったらボードゲームでもしよ」


 僕らは頷いてベンチから立ち上がって、サファイアの家に向かった。


「ここまででいいよ。ありがとね」

「いいえー、これでも力持ちですから!お安い御用ですよ」


 と、向かっている最中、そんなやり取りが聞こえてきて、振り向いた。

 白と黒を基調にしたコスチュームを身に着けた女性が、お祖母さんの荷物を運んであげていたらしい。


「うおー!あれ、ゴーストチェインじゃね!?」

「ゴーストチェイン?」


 テンション爆上がりのプラチナに、何も知らない僕は思わず尋ねた。


「知らねえのかよギル!今売り出し中のヒーローじゃんか!」

「あー、聞いたことある。あれでしょ?近所の雑用引き受けますみたいな」

「分かってねえな!ああいうのは、自警団(ヴィジランテ)って言うんだよ!」


 ヒーローとかヴィジランテとか、コミックの話?と思わずにはいられないけれど、確かにプラチナの気持ちは分かる。本当にああいう人が現実にもいるなんて。


(ていうか、あの人どう見ても…)

「うわー!ロボまで来た!」


 何か言いかけたゴーズを遮るくらいの大声でプラチナが叫んだ。

 バイクに乗った女の人、多分人狼?が、ゴーストチェインを後ろに乗せて、そのままどこかへと去っていった。


「今日は良い日だなあ。まさか本当にあの二人が見れるなんて…」

「そう言えばゴーズ、何か言いかけてたよね?」

(…嫌、大丈夫。これを言うのは野暮だと気づけたから)

「…?」


 ゴーズの言っていることは良く分からなかったけど、それよりプラチナの熱に浮かされるように、僕もあの二人のヒーローが気になって仕方なかった。

 そんな僕の肩をサファイアが叩いた。振り向くと、彼女のひとさし指が頬に当たった。


「ギール、こっちの話も忘れないでね」


 にやっとしながら言うサファイア、僕は苦笑しながら言う。


「…サファイアって心読めたっけ?」

「見れば分かるよ、幼馴染だもん」


 にんまり笑うサファイア、そうだよねと賛同するしかない。

 僕ら皆ずっと前から、それこそ赤ん坊の頃からの付き合いだ。そんな間柄だから、お互いの考えている事は殆ど筒抜けと言っても良いくらい。


「ゴーズとはちょっと短いけどな!」

(幼稚舎からの仲なのに!?)

「物心ついた頃から一緒じゃん!」

「なんで余計なこと言うかな!」

「ごめん!」

(いいよ!)



「あ、ブロンズさん、こっちです」


 カフェで待ち合わせていた俺たちは、手を振るルファを見つけてそこへ向かった。


「悪い、待たせたな」

「いえいえ、呼んだのはこっちですし」


 俺はやってきた店員に紅茶を注文して、ルファに尋ねた。


「で、さっきの話、本当なのか?」

「ええ、本当です。ダークエルフの集落に―」


 ルファは勿体ぶることなく、すぐに答えた。


「宇宙から落ちてきた、何かが混じっています。宇宙から来た、何らかの生物が」


 そんな、余りにも現実離れしたことを。


「宇宙、ってのはあれだよな。空の上にある、星が浮かんでいるところ、だよな?」

「成績優秀な貴方とは思えない何とも曖昧な知識ですが良しとしましょう。事実、私たちは実際に宇宙を知ることは出来てませんからね」


 そう言って、彼女はため息を吐いた。この大陸と外を隔てる見えない壁、そのルールは上空にも通じる。かつて、教授が幾度も宇宙を目指して実験を繰り返していたが、その全てが失敗に終わった。


「それで?その生物ってのはどうやってやってきたんだ?宇宙船の事故にでもあったのか?」

「当たらずとも遠からず、ですね。ブロンズさんは、隕石という物をご存知でしょうか?」

「ああ…って、ご存知に決まってんだろ」


 余りに直球で馬鹿にしてきたので反応するのにちょっとタイムラグが出来た。変わんねえなこいつも。

 この大陸にも隕石というのは何度か落ちてきたことがある。推測ではあるが、それは時折起こるイレギュラーの様な物であり、外から時折この大陸に人や物が流れ着くというのと同じことなのだろうというのが、メジャーな説だ。


「つまり、そういうことですよ」

「…どういうこと?」

「隕石に乗ってやってきたんです、その宇宙人は」


 そう言われても余りピンと来ないのだが、そう返そうとしたところで、俺はようやく思い至った。


「それだけ、小さな生き物、ってことか」

「ええ。更に言えば、大気圏通過に耐えきれるほどの強度を持った生物です」


 ルファの返答に、ぞわりとする。そんな生き物がこの大陸に?ただでさえてんやわんやだってのに。そんなのに入り込まれたらいよいよもってヤバいぞ。


「ちょっと待て。それでなんで俺に声を掛けた?もっと適任な人いるだろ?」


 確かに攻撃だけで言えば俺は役に立つかもしれないが、感知能力とかは別に持ってない。感知はルファが担当してくれるなら、それこそ、攻撃手段もあって水で動きを封じられるウィルとかのが役に立つと思うが。


「いえ、別に駆除してほしい訳ではないんです」

「どういうことだ?」


 話が読めない。てっきり、そういう話だと思っていたんだが。


「その生物は既に一人の少女の体に入り込み、そしてその少女はその生物を屈服させました」

「…何だって?」


 何だって?二度言ったが、まだ足りないくらい、何だって?

 その宇宙から来た生物が寄生するタイプだってのは分かった。だが、それを屈服させたってのはどういうことだ?それが出来る程強い力を持った少女っていうのは、一体。


「その子は私の叔母の娘、私のいとこにあたります。年は私たちの子供と同じくらいですが」

「スルドさんの」


 彼女の叔母と言えば、六星将の一人、スルドさんのことだろう。娘がいるとは聞いていたが。


「だから、頼めますか?ブロンズさん」


 俺は息をのんで、ルファの言葉の続きを待った。


「ハイデルンくんやギルフォードくんと、あの子を、ユイを、会わせてあげることを」

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