Re:プロローグ
わたしは、フーラ。フーラ・アドヴァルト。今年で、6才になります。
あたしは、カテーナ。カテーナ・アドヴァルト。多分、3才?
お母さんとお父さんと、お母さんとお母さんとお母さん?あってるかな、のこどもになってから、3年です。
ついてって、よかった。マリアも、ブロンズも、ルビーもスフィアもスカベラもやさしい。ルーデンもアイアンもルファもナインハルトもいっぱいいる!みんなやさしい!
今日は、入院しているルビーお母さんに会いに行きます。
今日は、新しい家族がふえる日!楽しみ!
*
婆ちゃんの死から、一年と少し。世界はまだ、一応の平穏を保っていた。
あれから天使たちに大きな動きはなく、それどころか侵攻の手も一時期に比べ緩んでいる。魔王の復活は音沙汰もなく、ダンタリオンたちは沈黙を保ち、徒党を組んでいるという噂の神々も息を潜めている。
嵐の前の静けさ、と言われればその通りなんだろうが、今だけは、この静けさに安堵していた。何故なら。
二階から、ドアが開く音が聞こえて、それから小さな足音がとことこと駆けてくる音が近づいてきた。俺は読んでいた本をテーブルに置いて、その足音がこちらにたどり着くのを待つ。
「おとうさん、準備できました」
その足音の主、フーラは、俺に向かって、笑顔でそう言った。俺はそんな、彼女の頭を撫でて、自然と笑顔になる。
「一人でちゃんと着替えられてるな、偉いぞ」
「当然です。今日からお姉ちゃんですから!」
胸を張って言う彼女に、また口元が綻ぶ。
フーラがうちに来て、2年半くらいか。最初は遠慮がち、というか、どこか俺たちを恐れていた様子だったが、最近はすっかり馴れてくれたみたいだ。そして、俺たちも彼女に馴れてきた。こういうのはおこがましいかもしれないが、初めての子育てだ。些か以上に、困難はあったし、これからもきっとある。
「よし、それじゃ行こうか」
「はい」
俺が手を差し出すと、彼女は小さな手でぎゅっと握って、一緒に歩き出した。
実のところ、子育てについて、一番恐れていたのは俺だった。ほら、良く聞くだろ、虐待の連鎖とかさ。正直、俺はそうなるんじゃないかと、ずっと怖かった。
だが、少なくとも今のところは大丈夫だ。考えれば、親は俺だけじゃない。ちゃんと愛されて育った奴も多いし、更に言えば俺だって、愛されなかった訳じゃない。
だから、きっと、この先も大丈夫だ。精々胸を張って、この子の親でいよう。
「赤ちゃん、どんなかなあ」
期待で胸を膨らませるフーラの手と鎖を握りながら、俺たちは病院へと向かった。
*
私は、お父さんと一緒に、病院に行きました。ここに、ルビーお母さんは入院しています。
私も、入院したことのある病院だから、お父さんをあんないしようと思ったけど、お父さんはまよわずに病室まで行っちゃいました。ちょっとざんねんです。
「ルビー、俺だ」
「はーい。入っていいよ」
ノックしてから、お父さんは病室のドアを開けました。
病室には、ルビーお母さん以外に、マリアお母さんとルーデンお姉ちゃんがいました。
「フーラちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
お姉ちゃんが抱きしめてくれたから、私もぎゅっとする。
それから、私はお母さんのところへ行って聞いた。
「おかあさん、大丈夫?」
「大丈夫だよ。ありがとね」
ルビーお母さんはそう言って頭を撫でてくれた。
よく見ると、お母さんは病院の服じゃなくて、普通の服を着ていた。なんでだろう。
(フーラ、フーラ!ルビーは今日で退院!)
なんでだろ、って思ってたら、カテーナが教えてくれた。そっか、お母さん、今日帰ってくるんだ。
「あ、じゃあ、赤ちゃんもいっしょ?」
「そうだよ、フーラ。弟だ」
「しかも双子。めーっちゃ不安」
じゃあ、二人も弟ができるんだ。うれしい。
「かわいい顔するなぁ、君は」
「おか、お母さん。くすぐったい」
ルビーお母さんにほっぺたをつままれて、くすぐったくて、笑っちゃう。
「アドヴァルトさん、退院のお手続きですが―」
看護師さんが来て、お父さんが呼ばれてついて行った。
もう少しで、赤ちゃんに会えるのが、楽しみだった。
*
「ルビー、大丈夫か?」
「うん、嫌、嘘、結構だるい」
家に帰って、車から降りた時、転びかけたルビーを抱えると、彼女は苦笑しながら言った。
「やっぱ出産の後ってこうなるのかな。赤ちゃん、マリアに頼んで良かったよ」
「こういうのは私の得意分野だからな、任せてくれよ」
マリアは相変わらず器用に髪を活用しながら、二人の子を大事に抱きかかえていた。
「頼める家族がいるんだから無理することないさ。とりあえず、中入って休もう」
「うん、そうする」
俺が家のドアを開けると、中からクラッカーの音が鳴った。
「ルビー先輩」「退院」「出産」「お疲れ様!」「デス」
玄関で待ち受けていたのは、スフィアとスカベラ、それにアイアンにルファ、ウィル。アーガイルとクィミミトルまで。
「何?皆、暇なの?」
「素直じゃない親友ですねぇ。顔が綻んでますよ?」
「…うるさいよルファ」
照れ隠しに口元を覆い隠して言うルビーとそんな二人のやり取りに、笑いが巻き起こった。
「はい、そこら辺にして、まず赤ん坊寝かしてやろうや」
「すっかり、まとめ役だな、アイアン」
「うるせ」
俺が茶々を入れて、アイアンが笑いながら小突いて、それかマリアと、フーラが二人の子をベビーベッドまで連れて行った。
「フーラちゃんもすっかり大きくなったすね」
「ウン、もう私の背とあんまり変わらナイ。私の立つ瀬がナイ…」
「実にキュート、可愛いものに目がない私が太鼓判を押す」
「見る目がありますね、クィミ。私の研究室に内定をあげます」
「スフィちゃん、人格面とモラルのテストもした方が良いよ」
下級生クインテットも相変わらず仲良しで何よりだ。
「そういや先輩は?来てないのか?」
「うん、誘ったけどなんか用事あるんだって。代わりに出産祝い預かってきたよ」
うわ、分厚。ありがたいけど、恐縮するよこんなに渡されたら。
「下手すると俺らにもこの額送ってきそうで怖いよ、ナインハルトさん」
「良い人なんですが、加減を知りませんね」
アイアンとスフィアの発言は間違ってないから、余計に困る。本当にもう既に返しきれないくらい恩があるってのに。
「って、このケーキ」
「これは俺らからの祝いだ。これで勘弁してくれ」
立派なケーキだ。陳腐すぎて申し訳ないが、すごく高級そうな。
「勘弁、って。アイアン、良いの?」
「当然、所詮俺らで金出しあって買えるレベルの店だ。そんなに気にしなくていい」
「気にするなら、私たちの時にお返ししてくださいね」
全く、最高の親友だよ、お前らは。本当、ミクトに来て、お前らに出会えてよかった。
「そういや、子供の名前、なんて言うんだ?」
「私の記憶によると双子、二つ必要」
「分析浅くない?」
ケーキを切り分けた頃、そんな話題になった。俺はルビーと目を合わせて、それからスフィアと、スカベラと目を合わせた。
名前なら、もう決まってる。だから、俺はケーキをフォークで刺しながら答えた。
「ハイデルンと、ギルフォード」
*
「…と、これで良し」
お母さんが赤ちゃんをベッドに乗せて、おふとんをかけた。全部、髪の毛でやっててすごいなあって思った。
「フーラも出来るよ。頑張ればね」
「お母さん、教えてくれる?」
お母さんはぽんぽんって頭を撫でて、うんって言ってくれた。わたし、がんばる。がんばって、弟をだきしめてあげたい。
「そういえば、二人はなんて名前なの?」
「お兄ちゃんの方がハイデルン、弟の方がギルフォード。ちょっと前に、皆で話して決めたんだ」
こっちがハイデルンで、こっちがギルフォード。覚えた。いっぱい、家族がいて幸せだな。
「お母さん」「マリア」
私はなんか嬉しくなって、カテーナといっしょにお礼を言いたくなった。
「私たちを見つけてくれて、ありがとう」
私たちがこんなに幸せなのは、お母さんが見つけてくれたから。あの時、お母さんが助けてくれたから。だから、私はお礼を言った。
「…馬鹿だな」
そう言って、お母さんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。
「私たちは家族なんだから、お礼なんかいらない。フーラとカテーナを幸せにするのは、私たちの役目なんだから」
私はとても幸せになって、それでもお礼が言いたくて、言おうと思ったけど、なんだかほわほわしちゃって、私はそのまま眠っちゃった。
「おかあさん、だいすき」
マリアお母さんのうでと、髪で抱きしめてくれて、暖かくて。
今年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。




