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episode of dream

「…助かった。感謝するよ、アギト」


 俺たちは、あの後直ぐに合流したウィルと一緒に、婆ちゃんの遺体の欠片を集めていた。その作業自体は直ぐに済んだ。アギトの優れた嗅覚によって、離れた場所に飛んで行った肉片すらもかぎ分けてくれたから。


「気にすんなよ。一緒に戦った仲間だろ?」


 俺が礼を言うと、彼は笑いながら首を振った。


「無粋だけど、仲間じゃねえだろ」

「それはお前の考え方だ。俺からすれば、一度共闘した時点で仲間なんだよ。お前がどう思おうかは好きにすりゃいい」


 俺が突っ込むと、アギトは気にした風もなく、そんな風に言ってのけた。懐が深いというか、考え方が柔軟とでも言うべきか。何はともあれ、俺が想像していた人物像とは大きくかけ離れた、彼の実情には驚くばかりだ。


「さてと、俺はそろそろ行くわ。また、どっかで出会えるといいな」


 そう言って、俺らに手を振りながら、彼は何処かへ、嫌、魔王の下へと向かって行った。


「…今更だけどさ、止めなくて良かったの?」

「さあ、どうなんだろうな」


 アギトの背中が見えなくなった頃、ウィルの問いに俺は曖昧に答えた。

 そもそもが実力差がある相手だ。戯灰さんとスカベラの到着を待てば勝機はあっただろうが、今しがた出来た恩もある。いずれ戦う相手だとしても、今はまだ、保留にしておきたかった。

 

 最も、彼がこの後実行するのであろう、魔王の完全復活が与える影響を考えれば、どうしてでも止めるべきだったのかもしれないが。


「…それも、今は保留だな」


 婆ちゃんの亡骸を抱えながら、俺は独り言ちた。

 そんな、遥か先の未来より、俺は今、目の前の現実に打ちのめされて、たまらない。



 一方、大市。


「報告ありがとう。今、分身を何体か送った。しばらくは、足止め出来ると思うよ」


 ケルビスが、レギオンの件を報告に来ていた。大市の方角へ向かっていた群体の神、スキアーの対処によって、その襲来がとりあえず目下の脅威ではなくなった。


「…しばらく、ですか」

「うん。流石に、永遠とはいかない」


 問題は、あくまで目下ではなくした、程度だということだ。スキアー単体では問題の根源的な切除足りえず、先延ばしするしかない。

 そして、レギオンという脅威は単なる暴力だけでは解決できない存在だ。彼の協力者であり、七英雄随一の戦士であるアイゼンですら、それを打ち倒すことは出来ない。


「全く、問題が山積みすぎる」


 そして更なる問題は、そのような脅威は、レギオン一つに止まらないということだ。


「例の天使共、魔王の復活とそれに伴う神々の活動の活発化、妄執に囚われた馬鹿共、ですか」

「そうだね、どれを取っても実に頭を痛ませてくれる」


 それに、スキアーは前置きしてから、更に続けた。


「神領中の魔獣が活性化している。薬師(オーバードーズ)に、動きがあると考えるべきだろう」

「―何だと!?」

 

 スキアーの発言に、ケルビスは殊更、大きな反応を見せた。あからさまな動揺、それからその表情は徐々に怒りの様相を呈していく。


「…奴も、生きていたとは」

「彼女に関してはそれ程不思議じゃない。元々、遺体は見つからなかったからね」


 だとしても、ケルビスは薬師を追い詰めたことを思い出す。【ミュトーラル防衛線】、その戦争の真の発端である彼女の、おぞましい動機と共に。

 

「次こそは仕留めます。あれを生かしておいては、あいつが浮かばれない」


 自らが仕留めた、もう一人の神と共に。


「見つかり次第、連絡するよ。それまで、備えていてくれ」

「…了解です」

 

 スキアーの言葉に頷いてから、彼はこの場を後にしようとした。


「スキアー!大変だ!」


 その時、新たにスキアーの住居に入り込んできたものがいた。

 

「ルインか、何があった」

「ケル!?」


 焦った様子で現れたルインに怪訝そうな表情を向けながらケルビスが問うと、ルインは一瞬だけ驚きながらも、すぐに平静を装い、彼に顔を向けた。


「丁度良かった、お前に用があったんだ」


 ルインの言葉に、首をかしげたケルビス。ドアベルが鳴る。返事を待たずに、ドアが開く。

 階段が軋む音、その誰かのために、ルインがスペースを開ける。軋む音は止み、コツコツと床を歩く音になる。


「…ケル?」


 おずおずと、緊張した声音と共に姿を現す少女。ケルビスを見て、小さな微笑みを作った彼女を見て、彼は大きく目を見開く。それから口元を手で覆ってから、両目を擦った。目の前の光景が、信じられなかったからだ。

 あの時、心臓を貫いたはずの彼女が目の前にいたのだから。


「カミィ、なのか?」

「ケル!」

 

 呆けた声を上げるケルビス、そんな彼に彼女は満面の笑みと共に抱きついた。

 それから、ケルビスは、声が枯れるまで、泣いていた。

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