episode of dragoon
「おいおい、マジか」
竜の墓場へと向かった俺たちに待ち受けていたのは、想定外の客人だった。嫌、ある意味では客人ではなく、本来の主と呼んだ方が良いのかもしれない。
「これはこれは、久しいな。戯灰。それに、【雷神】ブロンズ・アドヴァルト」
「…覚えて貰って光栄だね、【破壊竜】デスペラード」
何故なら、そこにいたのは竜だったのだから。以前、大市を襲撃した時と比べて、大分穏やかそうに見えるデスペラードと、もう一人、無数に分かたれた尾をこちらに向けながら、敵意をむき出しにした細身の竜。
「忘れるものか、雷に魅入られし一族の末裔を。それに、戯灰。貴様もな」
「そりゃ忘れる方が心配になるわ、お前何回大将に喧嘩売ってると思ってんだ」
「貴様らとは今一度矛を交えたいところではあるが、今日は別件があるのでな」
苦笑しながら言った破壊竜の様子は、やはり以前に比べると、かなり冷静だ。戯灰さんの軽口を受けて尚、特段これといった行動を見せずに、彼は足早にこの場を去ろうとした。
「あ?何ぬりいこと言ってんだデス。あの戯灰までいやがんだ、殺すに決まってんだろ」
「あはは、殺すだって。殺せるもんならやってみてほしいよねえ」
だが、彼の相方がそうはさせなかった。初めから好戦的な雰囲気を漂わせていたその竜は、尾の先を鋭くさせて臨戦態勢に入っている。
そして、ウィルは、その竜の売り言葉に反応し、いささか挑発染みた言葉で返す。言い方は直線的すぎるとは思うが、俺も戦う準備は出来ている。
スフィアに新たに開発してもらった、剣に装着させた引き金に手を掛ける。これは、柄に装填された雷の魔石を制御するための装置。この引き金を引くことで、即座に雷纏状態に移行することが出来る。つまり、いつでも反撃は出来るということだ。
「止めろ、ハルクツァ。今はそんな場合じゃない、奴がいることを忘れるな」
しかし、デスペラードは両者の火種に冷や水を掛ける。戦意を滾らせる相方を制止させ、攻撃の意思がないことを示す。
「貴様らも立ち去るがいい。これより先は、我々の領域だ」
「悪いが、俺たちも影の旦那からの頼みでね」
「…なら余も止めはせん。ただ一つ、忠告はしよう。命の保障はないと知れ」
そんな、忠告というにはぶっきらぼうすぎる言葉を残して、彼らは先へと進んでいった。
正直、どう判断すべきか。彼の言葉を、真実と受け止めてもいいのか。それから、この先に、何が待ち受けているというのか。
まず、思い出そう。スキアーさんからの依頼は確か、気になるものがあるから確かめてきてほしいという話だった。思えば、そこから違和感がある。スキアーさんの影は、無数に分かたれて神領中に配置されているはず、それなのに気になるもの?自分で確かめればいい。
なら、想像できるのは恐らく。師匠から聞いた、神代の話を思い出す。影の英雄であった頃の話を。なら、答えは出せる。彼の正体に近いもの、彼が自分の正体を思い出してしまうもの。つまり、神代で彼に近しかった何か。
そしてその正体は恐らく、デスペラードたちの目的とイコールになる。なら、答えはただ一つ。
「…ああは啖呵は切ったが、お前らは帰っても構わねえんだぜ?」
「冗談でしょう、行きますよ」
戯灰さんが帰るように促したが、俺はすぐに首を振った。師匠から聞いたばかりの時は、はっきり言って俺とは関係のない話だと思っていた。俺とは関係のない、ただの昔話だと。
だが、最早、昔話は、神代は現在に追いつこうとしている。魔王は復活し、六英雄たちはまた動き始め、そればかりか天使なる新たな外敵まで現れた。師匠の言う通り、世界の規則が歪み始めている。
それに、俺の体にフアイはもういない。だから、もうあの話は俺に関係のない話ではない。もう、物語は俺が紡がなくちゃならない。俺の、俺だけの語り口で。
だから、俺はこの先へ向かいたいと思う。俺自身も、この昔話を終わらせるために。
「僕も異論はないよ、足りない物を自覚するにはちょうどいい機会だし?」
ウィルも、そんな風に同意してくれた。面倒くさがりな彼にしては珍しい、とも思うが、大森林での天使との一戦以来、ウィルは鍛錬に余念がない。
極めて珍しい存在である覚醒者、しかもその中でも随一の能力を授かり生まれた彼は、おおよその場合元来持ち合わせた能力のみで一騎当千の力を持つ。特に覚醒部分、全身を水に置換するそれは、殆どの攻撃を無に帰す。
しかし、その体質を意に介さない相手とウィルは出会った。神領で育った彼に、初めて立ち塞がった壁。その壁は確かに、ウィルを一つ上のステージへと導いた。そして、その成長は止まらない。今この瞬間も、次へ進む準備が出来ている。
そんな、俺たちのある種無謀ともいえる言葉を聞いて、戯灰さんは思わず、といった風にほほ笑んだ。
「全く、良い顔をするようになりやがった。なら、精々、ついてきやがれ」
そして、俺たちは先へと進んだ。デスペラードたちの後を追って。彼らと行動を共にすることに躊躇はあるが、どうやら目的は同じ。なら、行動を共にするのは、合理的ではある。
彼らの後を追っていると、違和感に気付いた。彼らは動いていない、立ち止まっている。
冷汗が流れる。手で拭いながら、二人と目を合わせる。それが何を意味するのか、一つしかない。
目を合わせてすぐに、駆け足でデスペラードたちの下へ向かう。同時に、いつでも戦闘に移行できるように準備して。
「やはり、貴様は!」
近づくにつれ、デスペラードの声が聞こえてきた。怒りと驚きと、恐怖と畏敬と、疑念が入り混じった、複雑な声が。
「かっはははは!目の前にいるものくらい、さっさと理解しろよ」
それに応える、聞き覚えのない声。愉快そうに笑いながらも、その直後にはまるで不愉快そうに吐き捨てる。
デスペラードたちの下へ辿り着いた俺は、その声の正体を見る。
竜だ、だがただの竜じゃない。竜王ルーガインの様な、二足歩行の竜。だが、彼と比べると、かなり野生染みたその姿は、底知れない不気味さを感じさせる。まるで、人工的にそうさせられたかのような。
そして、見た瞬間、理解する。隠しきれない、嫌隠す気もないだろう、驚異的な力を。
最早、疑いようがなかった。こいつは、こいつの名は。魔王の。
「アギト様の復活祭だ。精々祭りの贄となってくれよ、弱者共」
魔王の使徒が、目を覚ました。




