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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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廻る廻る世界で

 竜の墓場、かつて竜の居住区だった廃墟の集合体。その内の一つに身を潜める、二人の男がいた。


 ダンタリオンとデッドマン、ハジメたちの攻勢から逃れた彼らは、先程の諍いで負った傷を癒やしつつ、石畳に腰を落ち着けた。


「ひとまずは、お疲れ様、デッド」

「おう。別にめでたくはないが、祝杯と行くか」


 そう言って、デッドマンは懐から二本の缶の麦酒を取り出し、片方をダンタリオンに投げ渡した。


「バァルを、弔う意味も込めてな」

「うん」


 ダンタリオンが放り投げられた缶を開けると、中身が吹き出た。麦酒で顔を濡らしたダンタリオンは、恨めしそうにデッドマンを睨んだ。


「…デッド」

「嫌、そりゃお前が悪いだろ。急に開けんなよ」

「には、には、にはは」


 デッドマンが彼を諌めると、そんな、奇矯な笑い声が聞こえた。

 

「相変わらず、愛も変わらず、会い代わらず」


 笑い声の主は、ダンタリオンの腹部程度の背丈しかない、小さな少女。およそ、外見だけで脅威と判断し難い彼女を見た二人は、即座に警戒態勢を敷いた。それが、どれだけの脅威か、承知の上だから。


「…ルゥ・ガルー」

「来やがったか」


 警戒とは裏腹に、驚いた風でもなく、ダンタリオンたちはあくまで冷静に、七英雄の一角である彼女の登場を受け入れる。


「身重の癖に、余り動き回るもんじゃないよ」

「げらげらげら、覗き見せせら笑い、下らない意思の行為。それなのに気付かない不可思議、だね」

「相変わらず、迂遠に言うのが得意な女の子だ。もっと率直になれば僕は止まったろうに」


 そう言われたルゥ・ガルーは目を見開き、飲み込まれそうな瞳で、ダンタリオンの顔を覗き込んだ。


「止まらないよ、貴方は。だって、貴方の行動は客観的に見て正しいもの」

「客観、ね。そんなものに意味はないさ。なにせ、主観が混じらない生き物なんて、この世のどこにも存在しない、そうだろう?」

「否定はしない、行程は無数、死なないなら対応す」


 彼女はダンタリオンの問いに答えながら、彼の背後にいた、小さな何かをその手で潰した。小型の蟲、蝿のような何かを見て、デッドマンは吐き捨てた。


「クソ、灼竜の差し金か」

「うふふふふ、残るのは更地だけ」

「感謝するよ、ルゥ・ガルー。それで、見返りに何が欲しい?」


 ダンタリオンの端的な問いに、ルゥ・ガルーは再度、覗き込むような瞳で、彼らを見据え言った。


「共同戦線の、申し出。受けてくださると、助かるのだけれど」

「…何の?」


「【征服神】ラ・バースを殺すための」



「…ふん、狂い狼相手では蟲も役に立たないか」

「おい、聞いてんのか?焔ババア」


 諜報用の蟲を殺され、思わず呟いたレーヴェルナーノに対して、ハルクツァは苛立ちを隠さない。


「悪いけど、僕にはやらないといけないことがあってね。魔王なんて些事に付き合ってる暇はないんだよ」


 そのハルクツァに辟易している風にため息を吐きながら、レーヴェルナーノは答えた。


「ララが付き合うというなら、僕も吝かではないけど、どうなの?その辺」


 続けて問う、レーヴェルナーノに対して、彼らは答えに窮する。何故なら、既にラララカーンに対する交渉が失敗したという報告を、彼らは既に受けていたからだ。

 本来、この二者からの協力が前提だった、彼らの魔王に対する備え。それが、二つとも得られないとなれば、今後大きな支障となることは、想像に難くない。


「…残念ながら、凍竜は誘いを断った」

「まあ、そうだろうさ。ララが群れるわけがない」

「け、相変わらず仲のよろしいこって」


 揶揄するように言ってのけたハルクツァを睨みつけ、レーヴェルナーノは不快そうに、再度ため息を吐いた。


「…理解に苦しむな。貴様も、ラララカーンも。幾ら最古参の竜とは言え、嫌だからこそ、魔王の恐ろしさは承知の上だろう。神代において、【死竜】と並んで、殺戮の限りを尽くした最悪の一つ。かつての二の舞いに陥らないためにも、徒党は組んでおくべきだと思うがな」


 デスペラードの忠告めいた指摘を、彼女は一笑する。


「笑わせるな。魔王、この呼び方にも笑わせるなと言いたいんだがね。所詮、あれらが殺したのは有象無象の弱小だけ、この大陸で生まれたような新参者だけだ。あれが名を馳せたのは所詮、僕らと相対しなかっただけの幸運に過ぎない」


 怒り混じりに言ってのけたレーヴェルナーノは、最後に思い出したように付け足した。


「ナインを殺した【影】の方が戻ってくるというなら、警戒の一つもすべきだと思うけどね」

「…?影は健在だろう」

「あれが健在?笑えもしないよその台詞」


 デスペラードの蒙昧な発言に吐き捨てたレーヴェルナーノは、襟を正して言った。


「ま、そういう訳だから帰ってくれよ。僕が留守の内にヘラーテなんぞに僕の庭を荒らされたら、たまらない」

「…キシャアアアア!デス、もう良いだろ。インテリの真似事は終わりだ」


 そう言って、ハルクツァは無数に分かれた尻尾を逆立てた。明らかな戦意に、レーヴェルナーノもまた、臨戦態勢を取った。


「どいつもこいつも、旧世代の老害共がいつまでも出しゃばってんじゃねえよ!」

「おい、ハルクツァ、待て―!」


 デスペラードは制止したが、既に時遅し、ハルクツァの棘尾は一斉にレーヴェルナーノに襲いかかった。

 だが、その尾はレーヴェルナーノに到達しなかった。何かが、未然に受け止めたからだ。遥かな熱を帯びた、何かが。


「…Z」


 燃え盛るような熱を帯びたその蟲、スポットはハルクツァの棘尾を全身に受けながらも、まるで支障はないように、無感情に鳴き声を上げた。


「…んだ、こいつは」

「今回は、不問にしてあげるよ。早く、そいつを連れて帰りな」


 ハルクツァは大きく、レーヴェルナーノはスポットの登場に僅かに驚愕しながらも、小さく首を振って帰りを勧めた。


「申し訳ない。では、失礼する」


 彼女の促しに応じ、デスペラードは頭を下げ、そのままハルクツァを連れ去っていった。


「…やれやれ、お陰で彼らと揉めなくて済みそうだ。ありがとう」


 ほっと、一息ついて、彼女は礼を言った。未だ姿を現さない、蟲使いに対して。


「それで、君は、なんで戻ってきた」


 そして、続けて問う。その蟲使いに。


「スカベラ・青碧」

「私自身のために、デス」


 問われたスカベラは、ただ端的に答えた。


「私自身の、納得のために」

「なら歓迎しよう。最後の蟲使い、君のために、私の全てを授けてあげる」


 その返答を気に入ったらしいレーヴェルナーノは、微笑みながら頷いた。


「私自身のために、ね」



 一方、神領北部。神同士の争いが絶えないこの場所にしては珍しく、極めて穏やかな一角があった。


「…暇だ」


 【炎の剣鬼】、バーン。千年以上に渡って、ケルビスと小競り合いを続けている彼は、その好敵手の不在にいたく、退屈していた。そして生憎にも、彼以外の強者と呼べる神たちも殆どが身を潜めている。

 およそ、戦闘以外の行動力に乏しい彼は、ただ退屈を凌ぐために、宛もなく歩を進めていた。


「…あ?赤ん坊?」


 そこで、彼は奇妙なものを目にした。死骸の上で、泣く赤ん坊の姿だ。神ではない、スノーエルフでもない、その他諸々の亜人種でもない、人間の赤ん坊。

 そして、彼は気づいた。その死骸も、人間の死体だと言うことだ。女の、死体。赤ん坊と繋がったままのへその緒から、どうやらそれが赤ん坊の母親だということにも気づく。


「胸糞悪い」


 その母親がどのような末路を辿ったのか、想像した彼は、ただ吐き捨てた。

 ふと、赤ん坊の方に目を向けると、その赤ん坊は先程までの泣き声が嘘だったかのように、ただじっとバーンの顔を見据えていた。


「は、いい目をしやがる」


 赤ん坊と目を合わせたバーンは微笑んで、彼を優しく両腕に抱きかかえた。


「…所詮、暇潰しなら、少しは目新しいことでもしてみるかね」


 バーンは思いついた様に呟いて、ぎらついた笑みを赤ん坊に見せた。


「お前を、俺の弟子にしてやる」

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