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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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狼王

「くっ!」


 先手を取ったのはケルビス、狼王は直ぐ様、俺の懐に飛び込んで蹴りを放ってきた。剣の腹で咄嗟に受け流すと、ケルビスは追撃に移行せずに、後退して言った。


「彼への助力は歓迎するよ、レディたち。そうでなくては、面白くありませんからね」

「そうですか。では、お言葉に甘えて」


 手招きするような仕草を見せたケルビスに向けて、スフィアが拳銃を抜いた。貫通力を高めた、彼女謹製の弾丸。三発、寸分違わず、ケルビスの脳天目掛けて放った。

 スカベラは、動けない。ただ、呆然と、バァルの生首を前に佇んでいる。


「いい判断です。だが、選択が良くない」


 スフィアが放った弾丸は、そんな教師じみたケルビスの言葉とともに防がれる。器用に、三つとも、指の間に挟んで。

 極めて優れた反応速度、殆どの遠距離攻撃は防がれると俺は推測する。ならば、手管を増やして、その処理を限界値まで持っていくことを試みる。


 弾丸が止められた瞬間、俺は追撃態勢に入った。それを感知してくれたスフィアもまた、攻撃態勢に。

 まずは飛刃。回避されるのは前提の上で、直ぐ様接近に移行する。

 

「おっと、飛ぶ刃か。この手のは嫌気が差す程ですが」

「燃え盛れ、【猛る灼熱(フレム・シュトローム)】」


 そんな軽口と共に回避した彼に襲いかかる、炎の渦。上級魔法に分類される、非常に攻撃性の高い魔法だが、たった一回の蹴りで、文字通り彼は一蹴した。


「餓狼旋風脚、生憎炎の扱いは慣れていまして」


 これ程までに簡単に、とは思っていなかったが、まだ、想定の内だ。相手が、【狼王】だと言うなら。魔王に最後の一手を決めた、ケルビスなら。この程度は、やって当然だ。


「流星!」


 だから、俺の追撃は既に始まっていた。炎の渦の中を掻い潜り、剣の連撃。ある種、無数とさえ思えるほどの速度で、幾多の突きを放つ。これは、決まる。そう確信を持って放った。

 が、八連に至る、降りかかる剣の流れ星を、彼は的確に受け流し続けた。全て、彼は受け流しきった。


「生憎ですが、この剣は知っている。嫌というほどにね」

(化け物、だな。当然)


 本来、慣れようが慣れまいが、流星を全て受け流すなんて不可能だ。流星は規則的な動きを持たない。連撃の中で効果的な箇所を都度都度調整して、常に相手の隙に当たる箇所を目掛けて放っているのに、どうやって察知しているんだ、こいつは。

 否、だから、か。自分の隙を意図的に見せていたか、或いは隙に来ると知っていたから、そこを意識的に守ることが出来たのか。口で言うのは簡単だが、実行に移すのは理解し難い程の難関だ。そもそも、意識出来ないから隙なのに。


「少し、休戦といきましょう。そろそろ、話をしたい」


 そこで、ケルビスは拳を収め、一旦の休戦を申し出た。明らかに俺たちの劣勢だったから、その申し出は助かるが。

 

(…一体彼は、何を考えている?)


 思わず、俺は疑問を抱く。彼が敵なのか、そうでないのか、全く判断がつかない。


 ルインの語る彼は、およそ敵とは思えない人格の持ち主だ。ただしそれは遥か昔、神代の話であり、彼が幼い身体であった頃だ。

 今の彼は、一言で言えば怪物だ。幾多もの戦争で暴れた彼は、人類圏で最も名高い神として知られている。神代直後の、屍竜大戦。【雷帝】イヴァンに向けて起こされた、鮮血革命。建国直後のアネリアで起きた、黒色戦役。近年で言えば、ミュトーラル防衛戦。大きな戦乱には、必ずと言って良い程に参戦した彼の首級は、神も人類も、区別がない。時には神の敵であり、時には人の敵でもある、その姿はただの、戦闘狂だ。


 その点を踏まえれば、今回彼が出てきたのには、分かりやすい動機がある。大型の蟲と巨人だ。彼らとの戦闘を目指して、ここに辿り着いたというのには、納得できる。


 だがしかし、彼は最初に言った。俺が、目当てだと。

 俺と七英雄との関連性を知っている、ということは、恐らくケルビスは彼なりの情報網を敷いているはずだ。だから、俺のことは知っているのだろう。恐らく、ルインのことも。


 だが、俺に好意的な感情を向けるかどうかは、分からない。フアイを喰ったと知っているなら、むしろ、俺に敵意を持っているはずじゃないか?俺はもっと、警戒をすべきじゃないか?


 どれだけ悩んでも、それは推論にしかならない。だから、俺は一つ、真実であることについて、彼に尋ねた。


「…さっき、貴方は、流星を知っていると言った。ならば、貴方も」

「ええ、私も師範から戦い方を習いました。最も、剣ではなく拳、でしたがね」


 やはり、そういうことか。ならケルビスは、俺の兄弟子ということになるのかな。確かに、一流四剣の中にも、無手の構えは存在している。師匠がケルビスに稽古をつけていたとしても、不思議ではない。

 しかし、彼のことは初耳だ。あの師匠なら、ケルビスだろうがなんだろうがあっけらかんと話してくれそうなものだが。


「聞いていない、と言う表情ですね。それも当然です。彼女に教わったのは、本当に僅かな時間で、殆どお遊戯程度の代物でしたから。これで弟子を名乗るというのは、余りに厚顔無恥でしょうし、彼女も師匠を名乗りたくもないでしょう」


 成る程、そういう事情なら、別におかしな話でもないか。

 …兄弟子がいるという話は、聞いていたが、あれは剣の方、だったもんな。だが、それなら安心した。ケルビスが、師匠が語っていたあれではないなら、まだ期待は持てる。


「…ところで、そちらのレディには申し訳ないことをしましたね」


 申し訳無さそうに、ケルビスがスカベラを指して言った。

 そこについての事情は、余りに複雑だ。最初にスカベラと出会った、あの会議を思い出す。あの時、彼女は、バァルを心の底から信頼しきっているように見えた。そして、その信頼はどこか、俺たちと暮らすようになってからも、都度都度言葉に見え隠れしていた。それはきっと、同族を皆殺しにされた、という事実があって尚、割り切れないものがあったのだろう。


 こう言ってる俺だが、彼女の気持ちを正確には理解できていないだろうということも、重々承知している。この一ヶ月、一緒に暮らしてきた中で、彼女と殆どバァルについて話すことはなかった。

 だから、俺が分かっているのは、こうして、バァルの生首の前で、大きなショックを受けている彼女の姿だけ。


「どうにも、上手くいかないな。早々に、用事を済ませるべきだった」

 

 ため息を吐きながら、頭を掻いたケルビス。それと同時に、彼が放つ、威圧的な雰囲気が弛緩したような感じがした。


「ルインは、元気にしていますか」

「え、ああ、はい。元気だと、思いますが。楽しそうにやってますし」


 そんな風に柔らかく問いかけてきたケルビスに、俺は戸惑いながら答えると、彼はふ、と優しく微笑んだ。


「そうですか、なら良かった」


 本当に、安心したように笑うケルビスは、そんな雰囲気のまま、質問攻めが始まった。


「君の中にフアイがいると聞いておりますが、あいつは無口でしょう。困っていませんか」

「えー、まあ、結構困ってます」

「分かります。あいつには、私も困らせられました。まあそれでも、悪い男ではないので、上手く付き合ってやってください」


 そんな風に困ったような笑みを浮かべた彼は、次はスフィアに向けて、問い始めた。


「そちらのレディ」

「私ですか?」

「ええ、貴方は、デッドの娘でしょう。奴との関係はどうですか」

「うーん、普通だと思いますよ?自由にさせてくれますし、偶には一緒に食事しますし、お小遣いも貰ってますし。今日裏切られるまでは」

「…本当に申し訳ない」


 スフィアにそう言って、腰を低くして頭を下げる様子は、本当にこれがあの狼王とさえ、思えるほどだった。

 

(宿主殿、貴様は随分と奴を警戒していたが、蓋を開ければ別に警戒するほどでもない、普通の男だよ。ただ、七英雄という肩書に追いつこうと足掻いた、ただの一人の男だ。狼王などと言って、神聖視するような男でもない)


 フアイの言葉は確かに、その通りなのだろうなと思える。こうして見る彼の姿は、ルインの横にいる者として、相応しいように思えた。天然ボケのルインを支える、苦労人のケルビス。そんな姿が自然と想像できる二人は、やはり兄弟なんだろうな、という実感があった。


「なんだ、ちょっと不安だったけど、上手くやってるじゃん」


 ふ、と風を切る音が聞こえて、髪の毛を揺らす風が通った。

 そして、それに追随するように聞こえた、懐かしい声が。


 振り向くと、長い髪を一本に纏めた、長身の女性が一人。ここでは見慣れない服装をした、彼女は見まごうことなく。


「師匠」

「や、愛しの弟子。元気してた?」


 レインさんと共に、ハジメ師匠が、この場に現れた。

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