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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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或いは【      】

「…終わったな」


 神領、南部の大壁近く。そこには、戦いを終えて一息つくレインと、風化して崩れかけた巨人の残骸が残っていた。大きく舞う、砂埃を残して。


「もう少し、出力を抑えるべきだったか。図体の割には脆いな。それでも、最低限パーツは残っている。解析出来ると良いが」


 レインがその様に、巨人の残骸をどうやって運んだものかと思案し始めた頃、神領方面からくつくつと笑う声が聞こえた。


「あいも変わらず、性格に似合わない残虐な戦法だ。余りに緻密なその魔力の扱いと、余りに膨大なその魔力の量で作られた戦術は、勝ちの筋を一片も残さない」

 

 からんからんと、下駄の音とともに、笑う女性の姿をレインは見る。腰には一本の刀、ここにそぐわない、袴と呼ばれる【外】の衣装を身に纏った彼女は。


「だからこそ、私は君が好きなんだけどね」

「ハジメさん」


 ニヤっと、笑う彼女は、【始まりの剣聖】ハジメ。デッドマンの旧知である彼女は無論、レインがデッドマンの学徒だった頃からの古い付き合いである。レインは戦闘態勢を解き、握手を持って彼女との再会を喜ぶ。


「レイン、久しぶり。元気してた?」

「生憎、元気、などと言ってのける状況ではありませんでしたよ」

「…ああ、そうか、ブロンズはこっちじゃ行方不明、殆ど死んだ扱いだったんだよね。不躾だったよ、ごめん」


 頭を下げたハジメを見て、苦虫を噛み潰したような顔で、レインはそれ以外にも、良くないことがあったと、言外に伝える。


「…一つ、伝えておかなければならないことがあります」

「知ってるよ。デッドマンでしょ、さっきやり合った」


 だから、ハジメはそう言って、レインの続く言葉を止めた。レイン、ゲオルグ、イヴァンの三人の覚醒者たちは、デッドマンの【始まりの生徒】たちだ。特に、レインとゲオルグは今も尚、同じミクトで重鎮的存在として、それぞれ元帥と学園長の役職を戴いている。

 何故、強大な力を持つ彼らが、イヴァンの様に離反することなく、ミクトに仕えることを選んだのかと言えば、デッドマンへの信頼から来るものだ。それだけ大きな存在だった彼が裏切ったという事実は、酷く、重いはずだと、ハジメは思う。


「なら、話は早い」


 そんなハジメの気遣いとは裏腹に、レインは自らの手に持った、指揮棒の先をハジメに向け、彼女に問う。それは、彼の戦闘態勢。手に持つ指揮棒は、彼が魔法をミリ単位で扱うための魔導具。最高峰の魔法使いである彼が、十全に魔法を扱うために作らせた、最高峰の魔導具。その貴重さ、そして放たれる魔力は最早、神聖宝具と比べても遜色ない。


「はっきり言いましょう、ハジメさん。私は、貴方もあの、先生の同胞とやらと繋がっているのではないかと、疑っている」


 そんな、余りにも危険過ぎる武器を片手に、彼はハジメを見据える。

 レインの疑いは最もなものだと、ハジメは理解する。同じ七英雄であり、その中でデッドマンを除けば唯一、人間領で生きる者であり、諸国を漫遊しながら、ミクトともかなり近い関係を築いている自分は、スパイとしては最高に適した存在だと、彼女は自分自身を評価できるから。


「…こうなっては隠す必要もないか」


 ぽつりと、ハジメは呟いた後、レインの目を見つめて、答えた。


「なら、全てを話そう。それが私の潔癖を証明できるかは分からないけれど、私は彼らが何を目的に動いているのか知っている。彼らがこれから何をしようとしているのか知っている。彼らが何を失ったのかを、知っている」

「…何の話です?」


 レインは予想だにもしていなかったハジメの発言に当惑しつつも、疑問を口にした。


「本来、ケルビスの代わりに七英雄と呼ばれていただろう、【影の英雄】の話だよ」


 そして、彼女はつまらなそうに、或いは覚悟を決めたような表情で、唇を噛んだ。

 滲んだ血が地面に落ちて、赤色はそのまま薄れて、消えてしまった。



 一方、【氷結庭園】。ラララカーンと相対したルドロペインは、恐怖と極寒による悍ましいほどの震えに襲われながらも、交渉を成立させることに躍起になっていた。二度と、彼女と会わずに済むように。


「…率直に、申し上げます、ラララカーン。魔王が、魔王カインに復活の動きが見えています」


 全身の震えを必死に抑えながら、ルドロペインは絞り出すように言葉を紡いだ。


「それだけではない。天使などと呼ばれる有翼人共、七英雄の成れの果てがどうやらその機に乗じて、戦乱を起こそうと試みております。となれば、【笛吹き】や【花弁眼】、【脳喰らい】と言った有象無象の神共も動き出すのは明白でしょう」


 そこまでいくと、恐怖心に慣れてきたのか、打って変わって熱弁を振るうルドロペイン。


「…そう」


 そして、そんな彼とは真逆に、冷めたような表情で、彼女はただ相槌を打つに留めた。そして一息置いてから、その真意を伝えた。


「魔王には少し興味があるけれど、どうせ、私には敵わないでしょう?」


 そんな、悲しそうな表情を見せたラララカーンを見て、ルドロペインは顔を歪めた。ふざけたことを抜かす、という傲慢さに対する苛立ちと、ルドロペインから見ても、その傲慢さは正しいという、どうしようもない程の強大さに対する畏敬からだった。


(ああ、知ってるさ。魔王でさえ、あんたにとっちゃ、かつて世界を滅ぼしたあんたからすれば、勝負になれども、勝利は揺るがない存在なんだろうよ。だが、それだけあんたがデカい存在なんてことは、俺が生まれた時から知ってんだよ。彼の衝撃に比べりゃ、なんてこたぁねえんだよ!)


 だが、それでも尚、ルドロペインには彼女を動かすための勝算があった。彼女を楽しませるための、目算があった。


「…もう一つ、お耳に入れたい話があります」


 これで駄目ならもう、この女は動かない、そう思いながら、ルドロペインは口を開いた。


「【死竜】たちも、帰ってくる」


 渾身の情報、ルドロペインからすれば不確定な情報であり、本来は口に出すつもりもなかったが、ララカーンの余りの反応の薄さに、彼は口にするしかなかった。


「…」


 そんな、渾身の情報のはずだったが、ラララカーンはそれでも感情を揺さぶられることなく、今回に至っては一言も発さずに、そっぽを向いてしまった。


「…そうですか、それでは失礼します。他にも協力を求めたい者がおります故」


 これには、ルドロペインも諦めざるを得ない。苦し紛れの言葉を残して、ルドロペインは分身を帰還させた。


「うふ、うふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふ」


 ルドロペインが去って、姿が見えなくなったその時だった。ラララカーンは、耐えきれない、と言った風に笑い始めた。実に、嬉しそうに。ルドロペインの前ではおくびにも出さなかった、歓喜の感情を表に出しながら、上品に笑っていた。


「悪いわねぇ、ルドロペイン。私は、誰にも縛られたくないのよ。それが戦いなら、より、自らの楽しみを抑えるつもりは、一切ないの。私、欲張りだから」


 届かせるつもりもない謝罪の言葉を口にしながら、彼女はルドロペインが挙げた名に思いを馳せた。


「楽しみ、楽しみだわぁ。あの時は結局戦えなかった魔王に、いずれ私にも牙を向けただろうアギト、それに天使ですって?あは、何の冗談かしら、聖書なんて無いでしょうに。七英雄の成れの果て?誰のことなのかしら、気になるわ、気になるわ」


 上品だったはずの笑顔は徐々に、狂気的な笑みに姿を変えていった。それは、確かに、戦闘狂の笑み。強敵の名を挙げる度に、戦いを求む感情が、彼女の心を支配していった。


 ある瞬間、彼女の狂気的な笑みが薄れた。徐々に、ゆっくりと薄れ、最後には消え去った。笑みを失った代わりに、彼女が浮かべたのは、母性的な、優しい、そして、懐かしむような表情。


「それに何より、紫龍、我が娘、貴方が帰ってくるまでは、死ねないわね」


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