巨大な者たち 1
戦闘開始から半刻の時を経て、俺たちと天使の戦いは、佳境に入っていた。
「しぶ、とい!」
「朧!」
再度、天使が放った、剣の雨。俺は迂遠からの発展技で防いだ。
「【征服の飛沫】!」
が、この飛沫水が、朧月夜をかき消してしまう。
やはり、無効化系統の能力!先程、黒色を消したそれは、俺だけじゃなく誰にとっても脅威になり得る、攻撃にも防御にも利用できる万能な物だと、俺は確信した。予想はしていたが、これを対策抜きで戦うのは無理筋だろう。
だから俺は、俺たちは、戦法を変えることにした。
「不落!」
朧が封じられたなら、自分の身一本で守り抜くしか無い。俺は剣を横に構え、襲いかかる剣全てを斬り落とすことに決めた。
不落の構えならば、少なくとも態勢が崩れることはない。全てが切り落とせるかと言えば、それはまた、別の話なのだが。
「っ!」
考えてるそばから、斬り落とし損ねた剣が肩を掠める。流れる血液をちらりとだけ確認してから、問題はないと判断して集中を戻す。
大丈夫だ、まだプランを変える段階じゃない。俺の身体を幾ら剣が貫こうとも、決して、ルビーに攻撃は通さない。俺は防御に専念して、攻撃役はルビーに任せる。それが最も、勝ちの筋が高い。
剣だけならルビーに守備を任せても良いんだろうが、あの【飛沫】がある限り、それには不安が募る。
それに、攻撃力ならルビーは元々、特待生内でも最強クラスだ。こいつが攻撃に専念出来るなら、俺が防御に専念するのは正しい判断だろう。何より、俺の雷には限界があるが、ルビーは覚醒者だ。ルビーの魔力には底がない。
「飛んで行け、【投擲する爆発】」
剣の雨が一旦の終わりを見せた瞬間、ルビーは炎の塊を複数個生み出し、一斉に天使目掛けて射出した。いずれ爆発する、その炎たちを見て、天使は嘲笑った。
「そんなもの!」
彼女は、剣を利用して大きな盾を生み出した。そのまま爆撃ごと、剣で作られた盾が、彼女の身を守る。
だが俺は知ってる、それがただの目眩ましだということを。
その爆風は彼女の視界を覆う。その爆音は彼女の聴覚を鈍らせる。その爆発の威力は防いだことに達成感を覚えらせる。
だから、ルビーが詠唱に入っていることがわからない。ルビーの本命が次だということに、思い至らない。
「どかぁん、【外崩壊】」
そして、放たれたのは無機物を爆発物にする、ルビーだけのオリジナル。
ルビーが対象に選んだのは、天使が生み出した剣の大盾。それが瞬時に爆発物とかし、【投擲する爆発】の残り火が、それを爆発させた。
「ぐ、がぁ!」
彼女の視点では、余りに唐突すぎた爆発には飛沫も上げられずに、彼女は全身で爆発を受け吹き飛んだ。
「…許さない、絶対に許さない」
相当なダメージだっただろうに、彼女は立ち上がった。執念、嫌単にタフなだけか?判断はしかねるが、これで倒せなかったのは分が悪い。必殺技の一つが対策されたというのに、こっちは相手に対する有効な防御手段を見つけられていない。
「その首を取って、司る、も、の?」
彼女の言葉はそこで止まる。それ以上に、優先すべき事柄が、出現したから。
蟲が、現れた。どこから現れたのかも分からないそれらは、余りに唐突で、それでいて誰も無視できないほどに巨大だった。女王蟻に匹敵するほどの大きさを持つそれらは、全てを蹂躙するかのごとく動き回りだす。
そう、動き回る、はずだった。
「!?」
だが、それを止めるものが現れた。蟲ではない。銀色の、巨人。そう称するしかない巨大なる人型は、蟲の頭部を掴み、そのまま他の蟲目掛けて放り投げた。
「サンダルフォン…?あれはまだ試作段階だったはず。一体、何故」
その銀色の巨人を見た天使は目に見えて動揺していた。何故、俺たちも知らないようなものを知っている?あれもまた、天使の一種なのか?試作という言葉を信じるなら、あれは兵器の一種なのか?
「…!主様!」
問う間もなく、彼女は唐突に歓喜の笑みを浮かべた。端末もなしに長距離連絡、サンダルフォンなる兵器と言い、天使側の技術力は独自のものがある。
「はっ、今すぐ帰還いたします。お手を煩わせてしまい、申し訳ありません」
俺たちと相対していた天使だとは思えないほどの低姿勢で、彼女は頭を下げてから、俺たちを一瞥した。
「…次は殺す。覚悟しておけ、【雷神】」
そんな、らしい言葉を言い捨て、彼女は俺たちに背中を向け、去っていった。
「どうするブロンズ?」
そんな風に、分かりきった質問を、ルビーが投げかけてきたから、ため息とともに答える。
「…去ってくれるなら、ありがたいと考えるべきだろうな。頭数増やしてどうにかなるって感じの相手でもないし」
「一難去ってまた一難って感じだけどね、現状。それも更におっきいの」
俺の返答を受けて、ルビーは困ったように笑った。実際問題、あの天使と巨人たちのどっちがマシかと問われたら、まだあの天使の方がマシだと思う。一番最悪なのが両方相手取るって線ではあるが。
「とりあえず、一旦合流だ。あれなら、頭数増やすのにも意味はあるだろ」
「了解、リーダー」
茶化すように言ったルビーの肩を叩きながら、俺たちは森内にいる仲間に向けて集合の連絡をかけた。




