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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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【七英雄】対【七英雄】 下

「お久しぶりです、アイゼン公。それに、師範」


 ハジメとアイゼンの側に駆け寄ったケルビスは、恭しい態度で彼らに頭を下げた。


「うん、久しぶり。見ない内に随分、格が身についてきたね」

「滅相もない。肩書に、そして貴方がたに恥じない自分には、まだまだ遠いですよ」

「その通りだよ。お前には、七英雄の名は重すぎる」


 ケルビスとハジメの親しげなやり取りに唾を吐く、ダンタリオン。

 ダンタリオンは続けざまに、彼が身に纏う紳士服を指差し、嘲笑う。


「ファルカスの真似事、変わらないねえお前も。ずっと、【彼】の言葉に囚われている」

「…貴様には言われたくはない。そもそも、憧れを目指して何が悪い?生憎、私は貴様らのような盲信とは違うのだよ」

「なら、僕も変わらない。彼は、僕の憧れなのだから。初めて見た、真の英雄なのだから」

「なら、いっそ憧れを抱いたまま眠れ。貴様がこれ以上生き恥を晒し続けるなら、何より彼が、報われん」


 仕掛けたのはケルビス。放ったのは、【餓狼旋空裂波】。回転蹴りを起点にし、吹き飛ばした相手に追撃で拳での連打を打ち込む技。


「速い。だけど、単調がすぎるな」


 だが、それは回転蹴りの時点で止められる。デッドマンの横槍によって。

 デッドマンが飛ばしたのは、【食えない紐(グレイプニル)】。神性宝具の一種であるそれは、瞬時の間にケルビスの全身に纏わりつき、彼に一切の行動を禁じさせた。


「ぬっ!」


 瞬間、弓を引いたアルティナに反応し、アイゼンはケルビスを守り、彼女と対峙した。


「慢心も過ぎる」

「慢心?そう思うなら、やはり、貴様の目は腐っている」


 動きを封じられたケルビスを嘲るダンタリオンを、ケルビスは一笑した。


「随分と余裕なようだけど、どうするつもりだい?」

「無論、私が斬る」


 ダンタリオンの問いに、答えたのはハジメ。そして、彼女は剣を抜いた。

 【次元斬】、文字通り次元を断ち切るその剣技は、彼女が【外】とを自由に行き来するために作られた、一流四剣の秘奥そのもの。【炎の剣鬼】も、ブロンズも、習得することの出来なかったそれは、無論戦闘でもその真価を発揮する。


 一瞬の出来事だった。決して解けることはないとさえ思えた紐が、断ち切られた。自由になったケルビスが、ダンタリオンへ蹴りを放った。その攻撃は防御態勢こそ取られたものの、着実にダンタリオンへダメージを与え、彼を大きく後退させた。

 そして、彼の手元には、その紐が握られていた。


「…流石だね」

「言ってる場合かよ、虎の子2つも奪われちまった。中々に不味いぜ」


 ハジメの剣にダンタリオンは素直に賛辞を送った。反面、デッドマンは神性宝具を失ったことに焦燥感を隠さず、ぶち撒ける。


「やったね、ケル。良い仕事したよ」

「この程度、やって然るべきでしょう、師よ」


 一方、ハジメとケルビスはただ、お互いに拳をぶつけ合うだけに留めた。


「本当、良い仕事されてるよね。もっと頑張ってよ」

「無茶言うんじゃねえ、何百年振りの実戦だと思ってんだ。この糞ブランクで良くやってる方だわ」


 それを見て、互いに彼らは笑いあった。まるで、この戦闘自体が茶番だとでも言うように。


「なら、終いにしてやろうデッドマン。ブランクを埋めることなく、な」

「そいつは魅力的な提案だ。今更、このガタが来た身体を鍛え直さなくて済む」


 ケルビスの冷たい視線を、デッドマンは戯けながら返す。


「…だが悪いな、俺は今日終わるつもりはない」


 次に放つ、切り札を隠すために。


 三度目の、【雷の門】。そこから現れる、両手両足が切断された、サタナエル。強制的に怒りのボルテージを最大限までに高められたそれは、現れた瞬間、弾けるような大声を上げながら、特大のオーラを放った。


「あ、あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 まるで、弾ける、爆弾。ケルビスとアイゼンはそれをまともに浴びて吹き飛び、ハジメは【不落】によってなんとか耐えきったものの、耐えるのに精一杯で彼らの行動を止める事はできない。


「―記せ、【英雄の書(プライド・ヒーロー)】」


 まず、ダンタリオンが行ったのは、神性の発動。手に生み出したその書に手を乗せると、アルティナとサタナエルは一枚の紙となり、その書に吸い込まれていった。


「じゃあね、ハジメ。次の戦争で、また会おう」


 そして、四度目の【雷の門】。現れたそれに向かって、彼らは消えていく。


「彼が帰還し、君の想い人がやってくる、その天変地異で」


 そんな言葉を、ハジメに残して。



「…してやられたね」

「まさかの、隠し玉だったな」


 ため息を吐いたハジメに対し、彼らが呼び出した天使たちを指してアイゼンが言った。


「光速移動、別に例がないわけじゃないが、ああも回避に徹してしまわれれば倒すのは難しい」

「別に責めてないよ」


 考え込む様なアイゼンの発言に、ハジメは苦笑した。その厄介さは、アルティナの相手をしていたアイゼンの、全身の生傷が示している。アイゼンは七英雄の中でも上澄みに入る実力者だ、その彼がここまで攻勢に転じられる敵を、舐めることはできない。


「しかし、天使、だっけ。多分あれ、【外】由来のものだよ」

「…あのような者が、【外】には跋扈していると?」


 ハジメの発言にケルビスが疑念とともに問う。天使兵はともかく、アルティナのような慮外が当然のように生きる世界は些か信じ難いものがあった。


「いいや、あっちにもいないよ。創作上の存在。でも、その創作を下敷きにしてるのは確かじゃないかな。特徴がほとんどまんまだし」

「ジェイド・アルケー並の存在、あちらの世界での【神】に近い存在が、まだいる?」


 アイゼンの問いに、ハジメは首を振った。


「どうだろうね。あっちに【神】に近いのは何人もいたけど、それとも何か違う気がする」


 そう言って、ハジメは少しだけ思考を走らせる。


(【院】の情報が正しければ、生物を生み出せる【神格者】なんて、ジェイド・アルケーただ一人だ。だが、その彼は最早ここにはいない。なら、何かを利用している?)


 ドカン


 遠くで、そんな微かな爆音が聞こえた。


「…全く、仕事が尽きないなあ」


 振り向いたハジメは大きくため息を吐いた。そこには、複数の大型の蟲と、銀色の人型が争っているのが見えたから。

 

 二度目のため息を吐こうとしたところ、それをかき消してしまいそうな、輝く光る雷が見えた。大気を震わせるような雷鳴が、遅れて聞こえた。


「フアイ、嫌―」


 ブロンズ。彼女は気づく、その場に愛弟子がいて、戦っていることを。


「丁度良い、あいつには用があったんだ。ごめん二人共、お先に行くね」

「私も向かいましょう」


 そう言って駆け出そうとしたハジメを、ケルビスが呼び止めた。


「おや、どういう気まぐれ?」

「気まぐれも何も。あそこは私の領域にほど近い。向かうなら、適役でしょう」


 取り繕うように言ってから、彼は苦笑した。


「…ええ、こんなのはただの建前です。私はただ、彼と、話してみたいのです」


 そう、前置きしてから、ケルビスは答えた。本当の理由を。


「フアイを食ったと言う、少年と」

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