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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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鎖の女 2

 私は、最初、ただの髪でしか無かった。


 神が生まれる三つの場所、獣型等、高い身体能力を持って生まれる【生命の樹(セフィロト)】、人間型等、高い知性を持って生まれる【天の母胎(プレグナント)】、そして、何の取り柄もない、残りの搾り滓が生まれる【飢餓の大孔(ゲヘナ)】。私は、そんな、【飢餓の大孔】で生まれた、ただの蠢く髪でしかなかった。


「ァ…ゥァ?」


 その中でも私は出来損ないで、生まれてから数年はまともに言葉も喋れなかった。全身で必死に這いながら、当てもなく何処かに進んでいく、生産性のない日々。

 不幸中の幸いにも、髪でしかない私を食べようとする魔獣はいなかったし、他の神からも狙われることはなかったから、なんとか細々と生きていくことは出来た。


 しかし、それでも、そんな私を狙うものがあった。人類だ。ある日、私は突然捕まえられて、檻の中に入れられた。

 これは後で知ったことだが、弱い神を捕らえて、それを売ろうとするグループがいたのだ。神の肉を食べたものは神になれる、そのために大金を払う人間が何人もいるらしい。大金を手にするためだけに、彼らは命を賭して、神領に入り込んでいた。


 捕まった私は、ただ恐怖に怯えていた。その感情すら言語化出来なかった私は、ただ本能的な恐怖だけで、対抗するすべもなく、ただ怯えることしか出来なかった。

 

「はあ!」


 そんな、弱い私に、救いの手が差し伸べられた。

 私を捕まえた人間を吹き飛ばす、拳。そして、速やかに拘束する小さな影。


「幸運だったな、兄ちゃん。旦那と出会えたあんたらは、神領で命を失わなくて済む」


 最後の一人が、人間たちを抱えながら、彼らを嘲笑った。

 地面に落ちた私は、彼らをとても不思議に思ったことを覚えている。なんで、彼らは、この人間たちを襲ったのだろう。食べもしないのに、殺しもしないのに、なんで。あえて、言語化するなら、その様に思っていたと思う。


「大丈夫かい?」


 だから、彼が、アイゼンが、私に向けてそう聞いた時、私は心底不思議だった。



「ァ、イ、ゼ?」

「そう、アイゼンだ。段々、上手くなってきたな」


 アイゼンたちは、私を庇護下に入れた。もっと有り体に言えば、私を子供のように扱ってくれた。言葉を、文字を、魔法を、戦いの術を、礼儀を、愛情を、彼らは全てを教えてくれた。


 だから、私が彼らの様な、人の姿を得ることが出来たのはきっと、彼らのお陰なのだ。


「は、思ったより可愛い顔してんじゃねえか。美人に育つぜ、こいつぁ」


 言葉を不自由なく扱えるようになった頃、私に赤ん坊のような身体が出来た。

 その時戯灰が放った言葉を良く覚えている。嬉しい、と感じたことも。

 その後も、私はまるで本当の子供のように成長していった。本物に比べると牛歩の歩みではあったけど。


 その成長にも終わりは来る。結局、私の成長は、十歳程度の背丈で止まってしまった。


「にゃはは、精神性の問題だよ。今のマリアは、子供だからね」


 ルゥの言葉の意味はその時は分からなかったものの、今では良く分かる。

 その時の私はまだ、ちっぽけな子供に過ぎなかったのだ。それからも、あの時、彼と出会うまでは。



 ある日、好きな人が出来た。ブロンズ・アドヴァルト。

 アイゼンの親友だったフアイを食べたと聞いて、最初は彼を警戒していた私だったが、命も惜しまず私を庇ったブロンズの姿を見て、私の中に恋心が生まれた。


 今思うと、最初の方は好意を全面に押し出しすぎたと、少し反省というか、思い出すと恥ずかしくなってくる。恋というものは初めてだったから、どうすれば良いのか分からなかった。だから、家族に対する愛情と同じだと勘違いしていた。


 一年経って、その感情が分かり始めた頃、ようやく私は自分が彼に恋をしているのだと気づいた。


 それから柚子と出会って、色々あって、結局言葉には出来ず仕舞いだ。私の気持ちが彼に伝わっているとは思う。彼からも、愛されている自覚はある。けど、悩みは尽きない。本当に、ブロンズは、私を愛してくれるのか、と。


 だから、だろうか。私の背が少しだけ大きくなっていた。私は、確実に成長していた。

 もう、子供ではいられないのだと、実感した。大きくならなくちゃと、思った。


 ふと、思うことがあった。私は、愛されたことによって、人間になることが出来た。成長することが出来た。だから、私も誰かを愛してあげなくちゃならないと思った。癒やしてあげたいと思った。

 

 ブロンズはお爺さんに虐待された末に神領に飛ばされた。助けてあげなくちゃ。

 柚子はまだ十六歳なのに、こんな知らない土地に飛ばされて一人で困ってる。助けてあげなくちゃ。

 ルインは千年以上も一人で孤独に苦しんでいる。助けてあげなくちゃ。

 スカベラは家族を、家族に殺されて、泣いている。助けてあげなくちゃ。

 ルーデンはお爺さんに虐待されて、ブロンズとも決別していた。助けてあげなくちゃ。


 もしかしたら、それは大きなお世話かもしれない。迷惑がっているかもしれない。それでも、それが、私のしたいこと。私が、するべきだと思っていること。アイゼンたちに貰ったものを、誰かに返してあげたい。それが、私の今の行動原理。


 だから、この娘も助けたいと思う。この小さな、鎖の少女を。今目の前で苦しんでいる彼女を、あの時の自分と重ね合わせながら、アイゼンのように、彼女を助けてあげたいと思う。

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