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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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鎖の女 1

「…ダ、れも、近寄るナぁぁッ!」


 マリアレスたちが邂逅した、目から自由自在に動き回る鎖を出す少女。少女は、警官を放り投げた後、威嚇するような咆哮を上げた後、ゆらゆらとした動きで家の中へと戻っていった。


「柚子、あれは!」

「…間違いないと思うよ。異能、【化者】だね、あれは」


 それを見て、驚愕するマリアに対し、柚子は冷静に結論づけた。

 【化者】、人に稀に宿る、異質な能力。神性染みたその能力は、その存在を知らぬ者には恐れられ、いつしか化者と呼ばれるようになった。そう、今、彼女が、恐れられているように。


「なんだあれは…」「人間じゃない!」「化け物だ!」

「皆さん落ち着いて!落ち着いて!」

 

 ざわめき出す市民たちを、必死に警官はなだめた。警官の方は化者の存在も、化者は幼い頃の過酷な環境によって生まれる、という説も知っていたのだろう。必死になって彼は市民をなだめるが、化者の存在を知らない市民たちは喚き、恐れ続ける。


「行ってみよう」


 それを見ていたマリアは、少しだけ間を置いてから、そう決断した。柚子は少々迷いながらも、彼女の後に続いた。

 雑踏の中を、目立たないほどの僅かな髪で、押し退けながら、マリアは進んでいく。最前線に立ってから、彼女は放り投げられた警官に話しかけた。


「すまない。この一件について、協力を申し出たい」

「協力?」


 そんな風に言ったマリアに対し、警官は訝しげな視線を隠さない。外見上、十歳程度の子供にしか見えないマリアの言葉は、冗談としか思えなかったからだ。反面、その立ち居振舞いには堂々としたものがあり、子供の冗談とは思えなかった。


「少し、待ってほしい。上に相談する」


 警官はしばし逡巡した後、通信機器を取り出し、通話を始めた。


「お疲れ様です。ええ、はい。やはり、市民の混乱は大きいですね。それより、一つ。この件に協力したいと申し出がありました。特徴ですか、長い金髪の少女です。もう一人、赤髪の女性が連れだっています。ええ。やはりそうでしたか、では遠慮なく」


 通話を終えた警官は、マリアレスたちに向かい合い、彼女たちに頭を下げた。


「失礼しました。【ご客人】殿。協力の件、ありがたく受け入れさせて戴きます。どうぞこちらへ」


 含みのある言い方ではあったが、少なくとも彼はマリアの申し出を受け入れた。


「すまない、お茶の準備を頼む」


 雑踏から離れた場所にあったテントの中に二人を招いた彼は、テント内で待機していた警官に指示しつつ、二人に着席を促す。


「お茶はいらないよ。早く本題の話をしたい」

「お二方はともかく、私は入用でしてね。あのような少女を相手にするのは、神経を使う」


 そう言って彼は、淹れたての熱い紅茶を一息で飲み干した。


「しかし、急ぐに越したことはありませんね。早速、本題と行きましょう」


 間を置かず注がれた、二杯目の紅茶をすすりつつ、彼は話し始めた。


「少女の名前は、フーラ・レパルド、3歳。化者は目から鎖が飛び出し、それを自由自在に操る能力。目覚めた理由は恐らく、虐待。過剰な痩せ型。腕には殴られた痕」

「その、親は?」

「真っ先に狙われたのでしょう。目をくり抜かれて、既に絶命していました」


 柚子が生唾を呑む音が、テント内に反響した。


「それでも、警察?さん。君は殆ど無傷のままだ。あの娘は、ちゃんとした判断力がある」

「鋭いですね。だから、我々も彼女を危険とは考えていません。しかし、保護はしなくちゃならない」


 その言葉を待っていたかのように、マリアが前のめりに言った。


「なら、その保護する役目を、私に任せて欲しい」

「貴女なら上手くやれると?」

「やれるよ。誰よりも上手く、私は、ああいう娘が何が欲しいか、知っているからね。神性(これ)も、ある」


 疑問符を浮かべる警官に対し、マリアは自らの髪を動かすことで、自分に資格があると証明しようとした。


「…そうだ、名乗っていませんでしたね。スピネル・シュライバーと申します。改めて、どうぞよろしく」

「シュライバー」


 唐突にも思えた名乗りを受けて、柚子は彼の素性をある程度察する。シュライバー、かつてのアネリア御三家の一つ。ルビー・シュライバーの血縁。


「ええ、あれの兄にあたります。最も、あれほどの才能はありませんがね」


 柚子が察したことに気づいたのか、どこか自嘲したように、彼は下手くそな笑みを浮かべた。


「幼い頃はあの才能に嫉妬したものですがね。それでも特殊な才能を持つ者なりの苦しみがあるようで、私には妹の悩みは分からなかった」


「契機になったのは、妹と同じ、特異な才能を持つ者たちとの出会い。あの学園での出会いが、いつの間にか、妹の苦しみをも解消していました。思うに、同族と出会うことで分かち合えるものというのがあるのでしょう。分かるものにしか分からない、何かが」


「だから、お願いします。あの娘を、救ってあげてください」

「うん、任された」


 頭を下げるスピネルに対し、マリアはただまっすぐに頷いた。



「本当に、大丈夫なの?マリア」


 家に入る直前、単独で向かうマリアを心配して、柚子が聞いた。


「うん、大丈夫。それに―」


 マリアはそこで言葉を切り、柚子の方に顔を向けた。


「私は、ずっと貰ってばかりだったから、誰かに返してあげなきゃね」


 彼女は柚子に向けて、そんな風に優しく微笑んだ。


 家の中に足を踏み入れたマリアは、迷わず進んでいく。極小の髪を家の内部に伸ばすことで、既に少女がどこにいるのかを知っていたからだ。


(見つけた)


 家の奥で、少女は蹲っていた。小さく、寝息をたてながら。

 見るからに弱々しく、触れたら壊れてしまいそうなほどに細い彼女を、マリアは髪で、つんと肩を叩いた。


「…ァ!」


 目を覚まして即座に、彼女の鎖はマリアを襲った。

 そして、向かってきた鎖を、マリアの髪は優しく包み込んだ。


「や、鎖のお嬢ちゃん。少しだけ、お話しない?」


 フーラと相対したマリアは、アイゼンたちと出会う前の自分を、思い出していた。ちっぽけで、醜かった、自分のことを。

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