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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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絶対零度と火の粉灯す蟲の竜

 【氷結庭園】、北西部に広がる、神領一過酷な凍土。単なる寒さのみで、神領で最も過酷な大地となった場所。【凍竜】がそこで存在する限り、その地に暖かさが訪れることは決して無い。

 例外として、遥か昔に【凍竜】の庇護下に入る事を選んだスノーエルフ以外は、人も、魔獣も、神さえも寄り付かない。それ程までに忌避されるその大地に、足を踏み入れる者の姿があった。


(全く、こんなところには、二度と来るつもりは無かったんだがなぁ…)


 そんな稀有な来訪者、ルドロペインはそんなふうに、心中で毒づいた。無論、訪れているのは毒による分身ではあるが、それでも彼は苦々しい表情を崩さない。彼が嫌気が差している理由も、それでも彼が訪れた理由も、環境以外の大きな要因があった。


「あら、お客様かしら」


 吹雪の中、響く声があった。穏やかな女性の様な声、その声を聞いた瞬間、僅かに弛緩していたルドロペインの全身が緊張感で満たされる。まるで、その声に、命の危険があるかのように。

 視界も定まらないまま、ルドロペインの瞳に微かに見えたのは、遥かな巨躯。巨大な影が、ルドロペインを覆っていた。


「どうも、ご無沙汰しています。【凍竜】ラララカーン」


 直ぐ様、持てる限りの敬意と礼儀を総動員して、うやうやしく、彼はその巨躯に一礼した。


「覚えているわよ、その声。大きくなったのねぇ」


 そんな、ルドロペインとは正反対に、緩やかな雰囲気で、巨躯は嬉しそうに微笑み、ルドロペインの緊張は更に高まっていく。


 大気が揺れた。彼女が、ルドロペインに歩み寄ったからだ。

 吹雪が、一瞬だけ消えてなくなった。彼女が、動いたからだ。

 地面が大きく揺れた。彼女が、笑ったからだ。


(怪物、が)


 全身を震わせ、呼吸を大きく乱しながらも、ルドロペインは必死に正気を保とうとしていた。実際に相対しているわけではないのに、それでも、正気を失ってしまいそうなほどの存在感。

 それは明らかに、存在そのものが、この世の基準から逸脱していた。竜という絶対強者の枠組みでさえ、規格外にならざるを得ない、究極的な例外。


「ルドロペイン、ルベルナインの子。元気にしていたかしら」

 

 そんな、怪物は、ただ、普通のように、穏やかに微笑んだ。



 一方、【灼熱落花】。かつての蟲使いたちの居住区に、足を踏み入れる、二人の竜がいた。

 一人は、【破壊竜】デスペラード。


「キシャアアアアアア!鬱陶しいったらありゃあしねえぜ糞が!なんで、あたしがこんなとこに来なきゃならねえんだよぉ!」


 そして、【棘尾竜】ハルクツァ。かつて、ルドロペインの毒によって意識を奪われていたそれは、纏わりつく植物たちに苛立ちを隠さず、奇声を上げる。

 そんなハルクツァに呆れながら、デスペラードは彼を宥めた。


「無論、貴様を放っておけば、また治療しなきゃならん羽目になるからだろうが。貴様ももう、麻酔の副作用で傀儡の様になりたくはなかろう?」

「あーあーあー、その通りだよぉデスペラード。ならさっさと仕事済ませて帰ろうや。あのクソ女、ぶちのめしてやらぁ」


 デスペラードの指摘を意に介さず、ハルクツァはへらへらと笑いながら、歩みを早めた。


(…全く理解していない。ルドロペインからの頼みとは言え、こいつは連れてくるべきではなかったな。また、【狂い狼】に大怪我を負わせられれば少しは反省するだろうに)


 デスペラードはそんな彼女の様子を見て、小さくため息を吐いた。


「いいか、ハルクツァ。今回の目的はあくまで、交渉だ。殺しはご法度だ」


 最も、貴様に奴が殺せるかは疑問だがな。そんな、微かに頭によぎった辛辣な一言だけは抜いて、彼はハルクツァに改めて、言い聞かせる。

 しかし、ハルクツァはそんな、あくまで理性的に振る舞おうとするデスペラードの言葉を笑った。


「キシャアアア!笑わせんなよ、デス。所詮、あたしら竜の交渉なんて、戦いの中でしかありゃあしないだろ。どっちが強いか弱いか、交渉の権利があるのは強い方。それだけだろ」

「…確かに、一理あるな」


 ハルクツァの理論に、デスペラードは少しだけ納得したように頷く。

 彼も所詮、一般的な竜の血族。強いものが全てを手にする、という種に刻み込まれた本能に準じた言葉には納得感を覚えた様子だった。


「…蛮族共の会話は理解に苦しむな」


 そして、それは種族のはみ出しものには受け入れ難い発言である。

 前方から聞こえた声に反応し、ハルクツァが自らの尾を向けた。彼女の尾は幾多にも分かれ、それぞれに殺傷能力に長じた、鋭い棘の様なものが無数に生えている。一度でもその尾が突き刺されば、それぞれが備える矢尻の様な返しによって、大出血は免れない。


「交渉だと言うならせめて、ルドロペインの奴が直接足を運ぶべきだと思うんだけどね。最も、彼が来るならば、分身だろうけど」


 だがそれも、当たらなければ意味がない。ハルクツァの幾多もの棘尾は、蝶のような羽で飛ぶそれを捉える事が出来ない。何故なら、それは、余りにも小さすぎた、蝶のような羽で飛ぶそれは、大きささえも蝶の様に小型であった。


「で、僕に何の用だ三下共」


 【灼竜】にして【蟲竜】レーヴェルナーノ。自らの身体を改造し、人の手のひらにも乗ってしまいそうな大きさとなった彼女は、二人の竜を嘲るように、そう言った。

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