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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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或いは陰謀を企てし者

 ブロンズたちがそれぞれ天使たちと相対するなか、天使側に一人、浮いた駒がいた。

 バァル、この場での最重要目標、アルティナ捜索に専念させるために、他の天使たちは彼を庇うようにして、前に出ていた。

 それが、彼らにとっての間違いだった。


「さて、状況は整った」


 一人になったバァルは満足そうに呟く。今の状況が、彼が描いた盤面そのものだったから。

 悠々とどこかへ向かって歩くその姿には、いっぺんの迷いもない。


「お久しぶりです。アルティナさん」


 彼が向かった先には、百足型の蟲に縛られたアルティナがいた。

 彼はとうに、アルティナを見つけ出していたのだ。他の天使たちからその事実を隠し、彼は単独で邂逅出来るようにした。そして、そんな彼の思惑は、この通り成就した。


「まずは拘束を緩めましょう。そのままでは喋れないでしょうからね」


 彼の指示によって、百足の拘束が多少ではあるが緩む。彼女の口は顕になったものの、全身の拘束までは解かなかった。そんな状況で、彼女は怯えながら、バァルを見据える。恐怖で震える唇を必死で抑えながら、彼女は言葉を紡いだ。


「わ、わ、私を、どうするつもり、なの。また、洗脳するつもり?」

「ええ、貴女にとっては受け入れ難い現実だとは思いますが、そうなります」


 バァルの指先に、うねうねと蠢く、一匹の蟲。人の意志を喰らい、体を乗っ取る、洗脳用の寄生虫。それを、アルティナの耳にそっと入れた。

 ぐらり、アルティナの首のすわりが失われ、彼女の首も、意識も、崩れ落ちた。


「ですがご安心ください。私は天使ではありませんので」


 最早、彼女だった、と形容するしか無いその個体に、彼は笑った。


「【雷の門(サンダーゲート)】」


 魔法が宿る魔石を砕き、彼は魔法を発動した。雷の門を発生させ、アルティナを乗せた蟲を門の先へと送る。


「…最早、この隠れ蓑も不要の長物だな」


 アルティナを見送った彼は、つまらなそうに言って、自らの翼を強く握り、そのまま引き抜いた。

 それから、髪を大きく掻き上げ、どこか清々しい表情で、手を上げた。


「最期に、一つ、大花火を上げるとしましょうか」



 一方、神領。竜峰山頂上。ルインの家に、二人の男女が来訪していた。七英雄の、二人が。


「悪いねアイゼン、ルゥが妊娠してるっていうのに付き合わせて」


 【始まりの剣聖】ハジメ、【外】より帰還した彼女は、古くからの付き合いである彼を誘い、この山へとやってきていた。


「気にしないでくれ。私も、あれが気になっていたのでね」


 【愛染明王】アイゼン、ハジメの誘いに乗った彼は、彼女と同じ、危惧を抱いていた。

 その危惧というのが、ルーデンによって首を刎ねられ絶命した、ダンタリオンの遺体である。


「…あの時もそうだった。確かに私の拳は奴を貫いたはずなのに」

「回復系か、それとも幻惑系か。いずれにしろ、今回も生きている可能性は、高いもんね」


 彼らは、ダンタリオンが死んだ、とは思っていなかった。特に、かつてダンタリオンに致命傷を与えたアイゼンは、その不気味さをその身をもって実感している。


「さて、悪いけどお邪魔するよ」


 門番代わりの壊呑竜(ベヒーモス)にそう言ってから、二人は家の中へと進んでいった。


「変わらないな、ここは」

「ここには余り訪れていなかった君がそう思うんだから、相当だよね」


 アイゼンの言葉に、くすりとハジメは笑った。

 

「で、どこだっけ。あいつの死体があるのは」

「地下だ。かつて、彼らが研究室としていたね」


 アイゼンに促され、二人は早速地下室へと向かった。


 降りたハジメが、無造作に一冊の本を手に取り読み進めたところで、何かが気に障ったように睨みつけた。


「…成る程、あいつの名前は念入りに消されてるな」

「どうかしたか?」

「いいや、昔を懐かしんでいただけだよ」


 そう言うと、手にしていた本をゆっくりと閉じた。

 そして、【英雄】は再臨する。


「それはいいね。何せ、時は戻らない。あの時、輝いていた僕たちの時代は、二度と帰ってはこない」

「!」


 突如として現れた、第三者。聞き覚えのある声に、二人が臨戦態勢へと移った。

 そんな彼らを見て、嬉しそうにそれは笑う。友に笑いかけるように、懐かしさに耐えきれぬように、思わずと言った風に、それは笑みを溢した。


「だから、僕は時計の歯車を回す。世界がもっと早く動くように、世界がもっと早く進歩出来るように」


 それを見た二人は、あることに気づいた。それには、肉体がなかった。否、あるにはあるのだが、まるで、形成途中かのように、未完成で、そのパーツ全てに細部がなかった。


「その末に、終わりがあると信じて、ね」


 それでも、それは徐々に、肉体を完成させていった。朧気だった全身は、確かに生物と呼ぶに相応しいほどに明白になり、肉塊が支えるだけだった下半身は、いつのまにか二本の足となり、地に触れていた。


「―やあ、友よ」

「久しぶりだね、ハジメ。彼は、元気だったかい?」


 そうして復活したダンタリオンとハジメは、互いに、久闊を叙する様に、親しげに声を掛け合った。

思ったより早く退院できました。

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