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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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儚い使い共の終宴 1

「虐殺?それはそれは、穏やかじゃないね」

「は、最も千年以上も前、神代直後の話だ。俺やアイアンみてえな若い連中は気にしちゃいないがな。それでもまあ、不吉な場所には違いねえ」


 誰にとってもな。そう言って、先輩はその話を終わらせた。

 

 ウィル以外の面子は、それを聞いてもさして驚くことはない。アネリアじゃどうか知らないが、少なくともミクトでは必ず授業の中で名前が出てくる出来事だ。


 しかし、俺はそれに関して改めて気づいたことがあった。この虐殺された人狼というのが、ダンタリオンが滅ぼしたルゥさんの一族、ということだ。魔王を殺したダンタリオンが、初めて狂気を見せた行為を起こした場所なのだ。

 だから、俺は余計にその場所が不吉な気がした。そこに行くことで奴が、そんな凶行に至った理由が、分かってしまいそうな気がしたから。


「しゃあ、このまま乗り込むぜ!」


 そんな俺の錯覚に過ぎない思い込みを知らず、意気揚々と先輩は大森林向かって突き進む。

 しかし、その行動は上手く行かなかった。前方に人影あり、地上には何も見当たらず、俺は目線を上に向けた。そこには、空を飛ぶ、人型の姿があった。その姿は見まごうことなく、


「やはり、増援か」


 異形の天使!奴は侮蔑の視線を俺たちに向けたまま、そのまま、手に持った剣を振り下ろした。


「全員、防御態勢!」


 それを見て、俺は声を張り上げる。そして、俺はルビーを、ウィルはルファを、それぞれ近接戦闘に長けていない二人を庇う。

 奴が放ったのは飛ぶ斬撃、俺の【飛刃】やルーデンの【風刃】に近いが、それらよりも何枚も強力な斬撃は、容易く車体を真っ二つに割ってしまった。


「アイアン!先輩!」


 前方に座っていた二人が爆風と共に吹き飛んだ。彼らのことだから、そこまで心配はしていないが、それでも天使を相手している以上、万が一というのは有り得る。


「一つ、警告しておこう。我々は、貴様ら人とは比べ物にならない程の力を与えられている。神に匹敵する程度にはな」


 ふわり、と緩やかに落下しながら、天使は俺たちに語りかける。今更、警告か?と疑うが、天使の瞳に燃える怒りの感情は、その様な穏やかなものでないことは明らかだった。


「貴様ら、人とはステージが違うのだよ。貴様らも、あの蟲使いも、頭が高いのだ。早々に平伏し、罰を受けよ。それが貴様ら罪人には相応しい」


 そもそも、敵とさえ認識していないような発言。遥か高みから見下ろす様な発言に、まっさきに反応した者がいた。


「―意気揚々と語ってもらって悪いが、俺たちはあんたらみたいなのを相手するために鍛えられてるんでね」


 天使の背後を、二つの斧が襲う。天使はその攻撃にとっさに反応し、剣で受け流した。

 が、追撃が続く。先輩の後方から飛び出したアイアンの槍が、天使の肩を貫いた。


「舐めてんじゃねえよ、羽野郎」

「…頑丈だな、だが無意味だ」


 貫いたはずの、天使の肩の傷が、埋まっていく。高速再生能力、見覚えのあるそれに俺は目を細めた。


「【正義】が消えることはない」

「何かと思えば、再生自慢かよ」


 自慢気に言った天使を、先輩はからからと笑った。笑いながら、斧で天使の体を挟むように切り付ける。無論、天使は回避行動に出たが、微かに斧が触れ切り傷が生じた。


「お生憎、そういう手合は知ってんだよ」


 数瞬の後、未だ天使の傷は治らない。天使の傷の治りが遅くなっているのが、目に見えてわかった。高度の熱を纏わせた斧の斬撃は、普通の傷より治りが遅くなる、それくらい、俺たちは教授の元で学んでいる。


「ほら、ボケてんじゃねえぞガキ共。こいつぁ、俺一人で充分だ。さっさと残りの【天使】とやらをぶっ殺してこい」

「…なら任せますよ。あんたがそう言うなら、任せられない訳がない」


 ナインハルト先輩は間違いなく、ルーデンに次ぐ最高戦力の一角だ。その彼がこう断言しているのだ、信頼できない訳がない。


「は、御託は良いから、さっさと行けっての」

 

 先輩のその言葉を契機に、俺は皆に目配せして森の中へと駆け出した。


「行かせると思うか?」


 俺たちを止めようとした天使の剣を、斧が受け止める。


「は、ちゃんと目の前の敵を見ろよ。嫉妬しちまうぜ?」

「…馬鹿が、蛮勇を後悔して死ね」



「…大丈夫ですかね」


 森林の中で、唐突にルファがそう呟いた。


「ナインハルト先輩?あの人なら大丈夫でしょ、ブロンズのライバルやってた人だよ?」

「先輩ではなく、私たちの話です。あれよりも格上の敵がいたら―」


 そこで、ルファの言葉は打ち切られる。目前に、男が立っていたからだ。無機質なそのフォルムは、確かに、天使兵。のはずなのに、天使兵とは一線を画す存在感が、その天使にはあった。まるで、外見だけがすげ替えられたかのようなその天使は、俺たちを見てにっと笑い、剣を抜いた。


「それ、正解」


 瞬間、言葉とともに斬撃が飛んだ。飛ぶ斬撃、ではない。実態を伴った剣が、その刀身とは不釣り合いなほどに長い距離から、飛んできたのだ。

 咄嗟に剣を抜いて受け止めようとするが、重い。同じく剣を抜いたルーデンの助力込みでようやく、受けきることが出来た。


「かかか。まずは合格、だな」


 それを見て、愉快そうにその天使は笑って、俺たちに問うた。


「で、誰が俺の相手をしてくれるんだ?」

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