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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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或いは動く遊戯盤

「何かあったの、って電話」


 呆然とした様子の俺に声を掛けようとしたルビーは、着信に気づいて即座に通話を始めた。


「もしもしアイアン?え?学園だけど?それが…切れた。何?」

「兄さん、緊急事態です」


 ルビーが困惑している中、白い雷と共にルーデンが現れた。


「スカベラが何かを追って消えました。あの切羽詰まった様子から見て、多分蟲です。蟲使いたちを滅ぼしたという男が、この国のどこかに入り込んでいるようです」

「!」


 ルーデンの言葉で、俺はスカベラの行動の意味を知る。蟲使いの村の長だった男、そして天使へと変貌した男、バァル。奴がミクトに入り込んでいる?ならば、それは。


「天使たちが、人間領に攻め込もうとしている?」


 その可能性は捨てきれない。そして、それならば、スカベラが復讐のための行動に出ることは容易く予想できる。

 俺は、向かわなくちゃならない。彼女が一人で事を為すのを止めるために、スカベラと交わした約束を守るために。


「何があった?」


 通話を終えて戻ってきたゲオルグさんが、焦った様子のルーデンを見て、俺たちに尋ねた。


「すみません、ゲオルグさん。やらなくちゃならないことが出来ました」


 俺は即座に頭を下げた。俺の心は当に決まっている。教授の本心を問うのは勿論、重要だ。

 だが、それでも、俺はスカベラを放ってはおけなかった。


「…分かった。先生の件は俺たちに任せろ」


 俺の意思が硬いと分かったのだろう、一息吐いた後、ゲオルグさんは了承してくれた。

 俺が背を向けようとした瞬間、衣服を引っ張られる感触。振り向くと、俺の袖を掴む、ルビーの姿があった。


「私も行く」


 目尻に涙を浮かべた彼女は、強く言い切って、その手を離さなかった。


「見過ごして、最悪の結果になるのはもう嫌だから」

「…ありがとうございます、ルビーさん」


 単純な話だった。俺がスカベラを心配するのが道理なら、ルビーが俺を心配するのもまた、道理なだけだ。ようやく、そんな簡単なことに気付けるようになってきた、なんて、遅すぎる話だけどな。



「先輩!もっと早く出来ないんですか!?」

「は、文句言うんじゃねえ。俺はペーパードライバーだ」


 あの後、連絡を取り合って、先輩、アイアン、ルファ、ウィルの四人と合流した俺たちは、計7人で車に乗り込んだ。

 生憎、先輩の運転は余り上手いものとは言えず、ほとんどおっかなびっくりでハンドルを回していた。その割に、口調だけは余裕そうな振りをしてる。


「スカベラさんが目立ったのが幸い、でしたね。SNS上に沢山目撃情報がありましたよ。これを追っていけば、いずれ辿り着くはずです」

「へぇ、便利だねえ」


 ルファが器用に通信機器をスワイプしている様子を見て、ウィルが感嘆の声を上げた。神領にはインターネット、無いもんな。

 神領を除けば、飛行する魔獣は決して多くはない。それが街道に現れれば、それなりに騒ぎにはなる。だから、ルファの調査はとんとん拍子に進んでいたようで、スカベラの現在地は殆ど掴みかけていた。


「トールフェスで目撃証言が消えていますね。王都からの進行方向から言うと―」

「大森林ですね」

「大森林、かぁ」


 ルファの言葉からルーデンが察して受け継ぐと、アイアンが大きなため息を吐いた。


「どうしたの、アイアンくん。凄く、行きたくなさそうだけど」

「…ああ、お前は知らんか。いいか、大森林ってのは」


 ウィルが疑問を口にすると、アイアンが重い口を開き、先輩が続きを口にした。


「は、クソみてえな場所だよ。人狼にとってはな」


 俺たちの先祖が、虐殺された場所だ。と、ナインハルト先輩は、吐き捨てるように言った。



 一方、大森林。

 バァルを除いた四人の天使たちは、およそ統一感とは程遠い、思い思いの様子で待っていた。バァルの蟲が、裏切り者の天使、アルティナを見つけ出すことを。


「―で、そろそろ見つかりましたか?」


 痺れを切らしかけている、他の三人の天使たちの様子を見て、心中でため息を吐きながら、鉄の義手義足を持つ女天使、ミトンはバァルに問う。


「いえ、もう少々で見つかるはずなのですが―」

「そう言って、何時間経ったと思っているのだ!」


 弁解しようとしたバァルを、少女型の天使が怒鳴り散らす。


「余を待たせるなど、不敬だ!不敬が過ぎる!貴様のような無能を使うくらいなら、初めから天使兵を動員すべきだったのだ!」

「黙れよ、サタナエル。貴様の喚き声のほうが、余程不快だ」


 癇癪を起こしたサタナエルに対し、長身の男、ザドキエルが吐き捨てた。その言葉を聞いたサタナエルがザドキエルに殴りかかり、ザドキエルもまた彼女に対抗しようとした。

 瞬間、鋼鉄の剣が、二人の間を通る。明らかに二人を止めるために放った剣は、ミトンのものだった。


「…そこまでにしなさい。万が一にも、目撃者が現れたらどうするのですか」

「かかか!そんときゃ、そん時で殺せば済む話だろうが。ビビリすぎだぜ?大将」


 ミトンの慎重な一言に、もう一人の天使がからかうように言った。その天使は、それまでの個性を持った天使たちと違い、無個性な一般天使の風貌でいた。


「ビビる?それは貴方では?カマエル」

「言ってろ、俺はあんたらとは違うんだ」


 かつて、戯灰と相対し、女王蟻によって踏み潰された天使の名を、彼女は呼んだ。


「それよりもよぉ」

「ええ、どうやら、予定外の来訪者の様ですね」


 上空を見上げる、二人の天使。彼女たちに遅れて、サタナエルとザドキエルの二人も見上げた、その先にいたものとは。


「蟲使い…!」

「やっと、見つケタ―!」


 スカベラ・青碧。天使たちの集団を見つけた彼女は、その中にいたバァルに向けて剣蟲を指し、そのまま落下の勢いで刺し殺そうとした。

 しかし、その剣を止める者があった。サタナエル、スカベラと殆ど背丈も変わらない、小さな天使はオーラの様な何かで、彼女の攻撃を受け止めていた。


「邪魔ダ、天使!」

「…余は腹が立っている。何時間も待たされた上で、この様な雑魚が乱入してくるのだからな」


 その後、信じられないことが起きた。何もしていないはずなのに、剣蟲が螺曲がっていく。複雑怪奇に折れ曲がっていく剣蟲を思わず、スカベラは落とす。すると、そのまま剣蟲は、原型を留めないほどに、ぐしゃぐしゃになってしまった。


「精々余の憤怒を治めてみよ、羽虫が」


 そのまま、【憤怒の天使】サタナエルは、スカベラに殴りかかった。

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