表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
46/100

造られし娘 2

「この一年、先輩はどうされていましたか?」


 首を傾げて、それでいて何の感情も含めないような表情で彼女は尋ねて、即座に首を振った。


「いえ、聞いておいてなんですが、ある程度の推測は立ちます。先輩が神領にいたことは確定。何故、神領にいたのかは分かりませんが、神領に留まっていたということは、恐らく現在、先輩は使徒、或いは神になっているはず」

「正解」


 彼女はそう推測するに至った理由は説明せず、されど大凡正答に辿り着いていた。


「ミクトは神領と交流があり、使節団も何度か行き来しているというのに、先輩方だけでなく私にさえ情報が流れてこなかったことから、竜帝、いえ恐らく教授ですね、情報を独占していた可能性濃厚」


 淡々と、すらすらと、彼女は言葉を紡ぎ続ける。その推理が正しいと半ば確信しているように、その発言には淀みがない。

 それもそのはず―


「故に、教授が何らかの企てを隠している疑い。先輩が神領にいた理由にも関わっている可能性アリ。共犯者も存在する?【雷の門(サンダー・ゲート)】?嫌、それは流石に誰かしら感づくか。神性の類?いずれにせよ、彼は疑わしい」


 彼女は、デッドマン教授に生み出された、この世で唯一の思考する人造物であり、教授から全てを学んだ彼の娘なのだから。その程度の予測は、彼女にとっては息をする様に自然なことで、試験管の中にいた頃からの平常でしかないのだから。


「だから質問を変えます。先輩は、これからどうされるおつもりですか?」


 故に、彼女の質問は、相手を貫くように鋭い。


「お前の予想通りだよ、スフィア。教授に、俺の生存を隠していた動機を問い詰める」

「良。実に良い選択です。彼が真実を語るとは限りませんが、少なからず語らざるを得ないでしょう。騙す時、そうするのが普通ですから」


 俺が頷くと、にっこり、とはしなかったものの、機嫌良さそうにスフィアが言って、俺の手を引いた。


「では、早速向かいましょうか」

「その前に情報の共有だろ。お前の予測できなかった事柄を埋めといた方が良いんじゃないか」


 早速過ぎるスフィアの行動に追いつけず、俺は彼女の手を強く握って止めようとしたが、歩く速度を緩めず反証を示す。


「可。ベターな行動ですが、実のところそれは後回しで構わないと思います。ブロンズさんが教授との会話でそれについて言及すれば、私は勝手にそれを予想できますからね」


 そう、俺に説明しながら、階段を登った俺たちの先にいた二人を指差して、彼女は言った。


「それにほら、戦力まで揃っちゃいました」


 そこには、疲れ切った表情のゲオルグさんと、苦笑したルビーの二人が待っていた。


「…あ?戦力だ?」

「そうです、学長。あなた方のことですよ、覚醒者のお二方」


 困惑した表情のゲオルグさんに、淡々とスフィアが言う。


「分かるように説明してくれよ。俺みてえな爺の脳は、お前ら若者ほど柔らかくねえんだ」

「体はとても柔らかいのに、不思議ですねえ人体」


 説明を求めるゲオルグさんに、スフィアは冗談めいて言うが、くすりともしない。


「…まあ、何だ。急ぎなのは分かった、説明は歩きながらしてくれ。その前に」


 何となく、ただならぬ雰囲気を感じたのか、ゲオルグさんはそれ以上は何も尋ねなかった。その代わり、俺の肩を強く握った。


「良く妹を連れてきたな。立派だよ、お前さんは」


 少しだけ、声を震わせて、ゲオルグさんは俺をそんな風に俺を褒めてくれた。止めてくださいよ。いつも気に留めてくれた貴方にそんなことされると、俺も泣きそうになります。


「積もる話はあるし、復学についても話し合いたいところだが、それはまた今度だな。それでいい、なにせ俺たちには十分すぎるほどに時間はある」

「…はい」


 復学、と言ってくれたのも嬉しくて、また俺は泣きそうになりながら、声を絞り出した。

 と、そこで俺は、マリアと柚子がいないことに気がついた。


「マリアと柚子は?」

「もみくちゃにされそうになる前に逃げてったよ」


 なんて薄情な。信頼を履き違えてるよ、困った奴らだぜ。


「ていうか、あの二人、通信端末持ってないよね?大丈夫かな」


 …多分大丈夫だろ。俺は二人共信頼してるからな。



 一方、学園から離れ、街中へと向かったマリアと柚子は、ふらふらと目的もなく歩いていた。


「…あのさ、マリア」

「どうしたの?」


 どこか、顔色が悪い柚子が、後ろに着くマリアを呼ぶ。不安そうに振り向いた彼女が話しやすいように、マリアは柚子の口元まで近づいた。


「…迷子になっちゃった」


 顔面蒼白になった柚子が、申し訳無さそうに、ぽつぽつとマリアに告げた。


「あはは、顔真っ青だよ。柚子」


 そんな発言を受けたマリアは、焦ることなく柚子の頭、には届かないから背中を擦った。


「大丈夫だよ柚子。あの学園は有名なんだろ?いざとなれば、道行く人達に尋ねれば、いつでも辿り着ける。そんなに焦らなくても、今は今を楽しもう」

「…うん」

「あ、あれ美味しそうじゃない?一つ、買ってみようよ」


 それでもどこか不安そうにしている柚子を、マリアが引っ張っていく。


 どこからどう見ても童女としか思えない容姿でありながら、百を超える齢のマリアに対し、長身ながらも未だ十代の柚子は、久しぶりに年相応に甘えられる機会に、何となく安心感を覚えていた。


 とは言え、マリア自身、神としてはかなり若輩者に当たる年齢である。事実ブロンズと出会うまで、アイゼンたちに守られる立場であった。しかし、今、彼女の周りには年下の者しかいない。柚子、スカベラ、ルーデン、そしていつの日か彼女を守ってくれたブロンズさえも、彼女にとっては年下なのだ。そんな環境から、徐々に守る者としての自覚が彼女の中に芽生え始めていた。


「あれ、なんの騒ぎだろ」


 屋台で買った串焼きを食べながら歩いていると、ざわついている集団が彼女たちの目に入った。二人は、興味をそそられたようでそちらの方へ向かっていった。

 どうやら住宅街のようで、周囲の住民が不安そうに、或いは好奇心むき出しで、野次馬集団を形成していた。


 その中には、制服を着た男がいて、湧き立つ住民たちを制止させていた。また、野次馬が入らないように一軒家の周りを、蛍光色のテープが覆っていた。


「結局、何?」

「多分、何か、事件があったんじゃないかな」


 その男は警官だった。マリアにとっては知らない組織だが、柚子にとっては何となく察せられる存在であり、その一軒家で何らかの事件が起こったことを彼女は察した。


 柚子がこの場を離れたほうが良いだろうか、と考えていると、ふと、か細い、幼い声が、聞こえた。


「…ダ、れも、近寄るナぁぁッ!」


 家の中から、鎖に縛られた警官が放り投げられた。そして、その中に見えた物の姿に、住民たちだけでなく、マリアたちも驚愕の声を上げることになる。

 警官を縛っていた鎖は、一人の童女の瞳から飛び出していたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ