造られし娘 1
「おお…」
明日、外出の許可を出された俺たちは、同じく休暇を頂いたルビーたちと合流し、3つのグループに分かれ、それぞれミクト観光を楽しみ始めていた。
俺、ルビー、マリア、柚子の四人で纏まった俺たちは、真っ先に俺が通っていた学園、ルーン・マグを訪ねていた。
その余りの広大さを見てか、柚子が感嘆の声を上げた。マリアの方も驚いている様子がありありと見て取れる。
「悪いな、付き合わせて」
ここに来たのは俺の都合だ。昨日は個別で話せなかったゲオルグさんやデッドマン教授と話したいというのもあるし、スフィアや同級生たちに俺の無事を早い内に知らせたいこともある。
だが、それに付き合う形になった、皆には迷惑をかける。
「いいよいいよ。皆がブロンズを見た時の反応は正直、見てみたくはあるしね」
「そもそも、不満があれば他の皆と一緒に行ってるよ」
と、俺の謝罪はむしろ鬱陶しそうにあしらわれた。そして、それまでひょこひょこと歩いてたマリアが、髪を使って俺の背に飛びついてきた。
「ブロンズさあ、もっと信頼してよ。私たち皆、ブロンズのことが好きだから一緒にいるんだからさ」
…確かに必要以上の謝罪は、むしろ彼女たちを信頼していないことと同じか。迷惑をかけてるわけじゃないんだ、自分の選択についてきてくれる皆をもっと信用すべきなんだろう。少なからず、自信はついてきたと思ったが、まだまだ先は長いな。
マリアの言葉を聞いて俺は改めて、そんなことを思った。
*
「うわああああああ!」「幽霊だぁっ!」「ブロンズが、恨みのあまり蘇ってきたぁ!」
キャンパスに入った瞬間、大騒ぎになった。そりゃ屍体男でもないくせに死人が普通に出歩いてちゃ、そうなるか。
「ギャハハハハ!」
ルビーが見たことないくらいに大笑いしてる。柚子とマリアも同じく大爆笑してるし、俺も釣られて笑っちゃった。
「ルビー先輩はもうやられてるぞ!」「誰か、教授を呼んで!」「あ、ゲオルグ先生だ!助けてください!」
「…おいおい、何の騒ぎだこりゃあ」
誰かが通りすがりのゲオルグさんを呼んで、呼ばれた彼は困惑混じりの声を上げた。
「ああ、成る程な。お前ら安心しろ、このブロンズは生きてる。本物だ。俺が保証する」
「うおおおおおおおおお!」「先輩すげえ!」「俺は生きてると思ってたぞぉ!」
「おい、さっきより騒がしくなってんじゃねえ」
「あっはははははは!」
歓喜の声を上げる生徒たちにゲオルグさんはため息を吐いて、ルビーは笑いすぎてついに地面に転がりまわって笑い始めた。
(マリア、どうする?)
(だんだん怖くなってきたし、こっそり抜け出しちゃおう)
おい、聞こえてるぞ。まあ正直、俺もこんな騒ぎになるなんて欠片ほども思ってなかったから、困惑してはいるんだけど。
「流石ブロンズ先輩だ!」「死を克服した男だ!」「俺たちの英雄、ブロンズ・アドヴァルトを讃えろ!」「に、逃げ、ぎゃあ!」「うおおおおお!讃えよ!」
なんか更に騒ぎが大きくなってる気がする。ていうか、多分、今、ゲオルグさんが潰された。早く逃げたほうが良いよね?
ルビーも事の大きさをようやく理解したのか、立ち上がって顔を青くしてる。柚子はマリアを抱えて、いつでも逃げられるようにしてる。これあれだよね、俺が逃げちゃ駄目だよね?俺が狙いなんだから。
「…先輩、こっちです」
その時、聞き覚えのある声が、聞こえた。床の下から聞こえるその声に従って、手を伸ばす。
手首を掴まれる感触、そしてその感触は俺を地面の下に引きずり込んだ。
そして、俺がたどり着いたのは地下一階。普通、余り使われない場所で、殆どは備品の保管庫として利用されている。そのため、俺の手を掴み救ってくれた彼女は、あの事態を予想していたようで先回りしてくれていたのだろう。
「これで、一安心ですね。ルビー先輩やお友達のお二方は置いてきてしまいましたが」
「…まあ、大丈夫だろ、多分」
俺はあいつらを信頼してるからな。絶対、マリアが言いたかったのはこういうことじゃないと思うけど。うん、大丈夫、多分。
「改めて、ご無沙汰です。先輩」
「ああ、久しぶり。スフィア。会えて嬉しいよ」
かのデッドマンが造りし、人工生命体。彼女が、あいも変わらずの無表情で、ぎこちなく目を細めた。




