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妹に負け名家から追放された俺は【雷神】となり高みへと昇る  作者: 雑魚宮
第二章 フィラウティアが足りないの
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小さな蟲使い 1

 明日、朝食を終えた頃、俺たちは【大市】を発った。スキアーさんやルゥさん、それにいつもお世話になっていた近所の店の人たちに挨拶を済ませて、俺たちは送り出されて、順調にミクトへの旅路の歩を進めていた。


 ミクトまでおよそ半日、夕方頃にはたどり着く予定だ。それ程長くはない道程だが、手持ち無沙汰ではいられない程には長い時間だ。道中、仲を深める各人の様子を俺は、最後尾で眺めていた。


「ミクトってどんな国なの?一応、調べては来たけど、住んでる人の感覚が知りたい」

「いい国だよ。最も歴史が深くて、最も先進的な国。【外】と比べて、どうかはわからないけどね」

「くは!いずれにせよ、私にとっては未知の物だ!心の底からわくわくするよ!」

「そう楽しみにしてくれると嬉しいね。着いたら、案内してあげるよ。観光地でも穴場でも」


 マリアと柚子はルビーと早くも仲良くなったみたいで、ミクトについて尋ねている。特にマリアは、少し前から見違えるほどに社交的になった気がする。一緒に過ごす奴が増えすぎて、そのままじゃいられなかったのもあるだろうが、それ以上に成長ってものなんだろうな。


「それじゃあ、ウィルさんも覚醒者なんですね?」

「そうだよー。最も、僕のほうが強いと思うけど」

「あはは、面白い冗談。ルビーさんの力、見てから言ってくださいよ」

「…あれ?俺の台詞じゃねえかそれ」


 ウィルとルーデンは、ルファとアイアンと共にいた。どうやらルファはウィルと気があったようで楽しげに話している様子が目に見え、ルーデンも含めて三人でアイアンをからかっているようだった。

 急ぎ、【竜巻】様にミクトへ向かうことを伝えてきたらしいウィルもまた、俺たちに同行していた。嬉々として旅立ちを許されたことを報告してきたウィルに、俺もまた嬉しさを隠せなかった。学友たちに負けず劣らず親しくなった彼と、今後も気軽に会えるというのは、僥倖すぎる程に良い知らせだ。


「おう、ルイン。人が多いとこは初めてだろ。良かったら観光案内するぜ」

「実にありがたいよナインハルト。観光が済んだら、礼をするよ。本気でね」

「は、ありがたいね全く」


 ナインハルト先輩はルインに話しかけていた。全く、ルインに目をつけるのが先輩らしい。強い奴を見定める能力に長けているというか、嗅覚が鋭いというか。ルインの方もその好戦的な瞳にまんざらではないようで、受けて立つと言わんばかりに胸を叩いていた。

 そんな彼らのやり取りを眺めていると、視線に気づいたようで二人は俺を見てニヤリと笑った。どうやら、巻き込まれるのは確定してるみたいだ。まあ、望むところだけど。


「スカベラ」

「…お気遣い、ありがとうございマス。でも、大丈夫デス」


 そんな中、一人でいたスカベラに声をかけた。スカベラも俺の意図は分かっていたようで、そう言って首を振った。


「ただ、考えて、しまうのデス。皆が殺されたというのに、私だけこんなことをしていいノカ、と」


 満足感を、抱いていいノカ、と。外していたはずの仮面を着けて言う、彼女の言いたいことは良く分かる。彼女は同族たちを皆殺しにした天使たちに復讐を誓っており、俺もその復讐に協力することを約束した身だ。ミクトへ向かうという俺の選択は、彼女の意思に反しているという思いもあった。


 とは言え、進展がないことも確かなのだ。言い訳染みた話にはなるが、神領にいても天使たちの情報は殆ど入ってこない。時たま、目撃証言がある天使の殆どは、同じ姿かたちをしている、所謂【天使兵】の類で、あの時蟲使いの村を襲った異形の天使たちは息を潜めている。


「誤解しないで下サイ。別に、ブロンズさんを、皆さんを責めている訳じゃないんデス。ここにいても、奴らを見つけられる芽はあまり無いということも理解してマス」


 俺の表情で考えていることを察したのだろう彼女は首を振ってそう言った。そして、堰を切ったように、彼女は言葉を連ねた。


「だから、私の問題なんデス。あの時カラ、ずっと幸せなんデス。ブロンズさんが言ってくれたことは片時も忘れたことはないし、マリアさんはふと寂しくなった時に抱きしめてくれるし、柚子さんは色んなことを教えてくれるし、ルインさんはいつでも頼りになるし、ルーデンも仲良くしてくれて、こんなに幸せなことはないから、この復讐の動機がいつか、風化してしまいソウで、私は、怖い」


 仮面の中から涙を流しながら、嗚咽を漏らしながら吐いた、スカベラの本音。俺は言葉に詰まる。何と、声をかければいいのか、分からない。


 言えることはいくらでもある。

 幸せを満喫しろ。復讐なんて忘れろ。―そんなこと言えるか。

 大丈夫だ。いつか復讐は果たせるさ。―無責任な。


「おっと、そろそろだな」


 俺が何も言えないままでいると、途絶えなかったはずの木々が消え始めているのが目に見えて分かった。


「うあまぶし」


 前の方にいたマリアが、素っ頓狂な声を上げて髪で目を覆った。

 神領特有の、鬱蒼とした雰囲気が消え始めた。そろそろ、ミクトが近い。差す、夕日が少しだけ眩しい。


「…こんなに綺麗なの、初めてカモ」


 思い詰めていた様子だったスカベラは、その夕日を見て少しだけ気分が晴れたようで、少しの間ぼうっとしていた。

 確かに、綺麗だ。スカベラのように初めてではないにしろ、俺にとっても久々の夕日は、どこか感慨深いものがあった。


「なあ、スカベラ。忘れてしまっても、いいんじゃないか」

「え?」


 その夕日を見て思いついたことがあった俺は、そんな風に彼女に声をかけた。


「記憶は忘れることは出来ても、本当に自分の中から消えるものじゃない。俺が【黒雷纏(シュヴァルツ・ドーン)】のことを忘れていたけど思い出したみたいにな」

「例えお前が復讐の動機を忘れたとしても、きっと必要な時には取り出せる。それまで、どれだけの間かは分からないけれど、幸せを楽しんでもいいんじゃないか」


 俺の言葉を聞いたスカベラは、少しだけ驚いたような困惑するような唸りを上げた後、安心したように息を吐いた。


「…ありがと、デス。本当に、いつも、いつも、ブロンズさんの言葉は、私の胸を刺ス」


 そう言って仮面を外したスカベラは、俺に肩を寄せた。だから俺も、その小さな体を抱き寄せて上げた。

 

 そうしている間に、また彼女たち神領出身者は初めて見るだろう物が見えてきた。


 まだ距離はあるはずなのに、それでも見上げてしまうほどに大きいそれこそが、各国と神領の境目であり、神領の魔獣共から人間領を守る、通称【大壁】。

 魔王誕生の前後で行われたとされるその大規模な建築の立案者こそが、ミクトのデッドマンであり、魔王死亡後に協力したのが竜王ルーガインであることは誰もが知っている。


「うーわ、本当おっきいね」

「噂には聞いてたけど」


 それを見たウィルが感嘆の声を上げ、柚子は若干引いたような様子を見せた。


「おーい!使節団、ただいま帰還したー!」


 そこでナインハルト先輩が大声を上げ、自分たちの帰還を知らせた。

 【大壁】には常駐している軍がおり、誰かがこれまた巨大な石造りの門を管理しているはずだが、誰が出てくる?そう思っていると、その【大壁】の上から、声が聞こえた。


「ようこそ、ミクトへ」


 大きな距離があるはずなのに、普通に聞こえてしまうその声を発したのが誰か、俺は知っていた。

 ふわりと、緩やかな速度でその声の持ち主が降りてくる。風に揺られるように、ゆらりゆらりと落ちてくる、中年の男性。眼鏡を掛け、温和そうなその男こそ。

 

「おっと、君には、おかえり、の方が正しいだろうな。アドヴァルトくん」

「…ただいま戻りました。元帥殿」


 始まりの覚醒者の一角にして、ミクトの最高戦力、【そよ風】のレインが俺たちを出迎えた。

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