狂い狼は未来を識る
「ミクトに行く?別にいいんじゃない?」
スキアーさんに直談判しに行った俺たちに対して、彼はあっさりとそう言った。
「幸い、というべきかな。今さっき、レインくんと連絡が取れた。入国の許可をくれたよ、特にゲオルグくんは君と会いたがっていたそうだ」
あまりにあっさりとことが済んでしまったことに、若干の拍子抜けさを感じていたが、彼はそんな俺の気の緩みを制するかの如く、俺にだけ聞こえるような声で呟いた。
(君も感じてはいると思うが、どうにもデッドマンの動きはきな臭い。気をつけて)
俺はその助言に、迷わずこくりと頷いた。
*
「ミクトに行く、ってこと?」
スカベラが新たに契約した、小型の蟲をブロンズの下へ送りこんでいたことで、ウィルたちはブロンズたちのやり取りを耳にしていた。
「いいね。どうせなら色々と回って見たかったんだ…ってどうしたの皆」
柚子が乗り気な反応を見せると同時に、他の面々は一様に暗い表情に陥る。
「私は、指名手配犯ですので」
「神は無理だろ?」
「差別、怖いデス」
「せっかく、友達が出来たと思ったのになあ」
各人はそれぞれ別の理由ではあるが、人間領に脚を踏み入れるのは不可能だと確信しているようで、一時的とは言え、ブロンズと別れることを憂いていた。
「問題ないでしょ」
そんな中で一人、前向きな発言をするものがいた。ルゥ=ガルーだ。
「別に君たちはミクトに不利益をもたらす存在じゃない。そもそも、あの国の国主はかの【竜王】。異端な存在だが、広く世間に受け入れられている慮外の者。あの子たちに比べれば、皆問題じゃないよ」
そう口にしたルゥ=ガルーに、彼らは一様に驚愕の表情を見せた。発言の内容ではなく、彼女がまともに話していたことに。
「久しぶりに見た、ルゥがまともに喋るの」
「ま、偶にはね」
皆の気持ちを代弁するようなマリアの言葉に、優しく、そして爛々と輝く瞳で、彼女は返した。
「同胞くんたちにも挨拶したいし、さ」
*
「だから言ったろ。俺が連れてってやるって」
「この場合、ナインハルト先輩が連れてったことになるの?」
「そもそも、来る前に話しつけてたんじゃねえか」
疑惑の視線を向けられながらも、飄々とした態度を、先輩は崩さない。ま、何はともあれ、頼りになる人だ。先輩が断言してくれた時は、本当に心強いと思ったから、俺はそこまで責めることはできない。
「でもまあ、言ってくれてよかったと思いますよ」
ルファはそう言って、悪戯っぽい笑みを俺に向けた。
「ブロンズさんのことですから、言わなかったら勝手に思い詰めてたと思いますし」
「ブロンズらしいや」
俺をなんだと思ってるんだ。その通りだから、返す言葉もないが。
「で、さっきから着けてる奴らはお前の知り合いか?後輩」
先輩に問われて振り返ると、マリアの髪が凄い目立ってた。それに付随して、ウィル、柚子、ルーデン、スカベラの四人を見つける事ができた。
「…何やってんだよ、お前ら」
「あんなに血相変えてたら気になるって」
「だからって、皆呼んでくることはないだろ」
言い訳がましく言うウィルに呆れつつ、手間が省けたことを少しだけ感謝する。
「こいつらが、さっき話した神領で出会った仲間たちだよ。一人除いて」
そう、俺は紹介したが、彼らの視線はむしろ、除いた一人に向けられていた。
「ご心配、おかけしました」
罰の悪そうな表情で、少しだけ微笑んだルーデンに、ルビーは抱きついた。
「う、ううう。良かったねえ、良かったね、ルーちゃん」
抱きつきながら大泣きするルビー、そしてルーデンを優しく撫でるアイアン。
「良く生きてたな、ルーデン」
「…はい、おかげさまで」
ルーデンはくすぐったそうな表情で、頭を下げた。
ふと、ルーデンたちの後ろから、すたすたと、一人、俺たちの方に近づいてくる影があった。ルゥさんだ。彼女もいたのか、相変わらずというか神出鬼没な人だなあ、と思っていると、彼女はアイアンと先輩に向けて、自らの名を名乗った。
「や、同胞くんたち。ルゥ=ガルーだよ」
いつも、酩酊しているかのような言葉遣いで話す彼女にしては珍しく、正気のような言葉で語りかけた。
「…は?」
アイアンが、彼女を見た瞬間に、否名乗った瞬間に、呆然とした声を上げた。
「おいおい、マジもんかよ」
そして、あのナインハルト先輩まで冷や汗をかいている。
(ブロンズ、この人誰?)
(ルゥさん。七英雄の一人)
(七英雄!?だけど、あの二人の反応、そういう感じじゃないよね)
俺がルゥさんについて知っている限りの情報を話すと、どこか腑に落ちないようでルビーが首を傾げた。
不確かな推測だからルビーには言わなかったものの、ルゥさんの素性を俺はそれとなく予想はしている。七英雄、そして人狼であることの二点で。
彼女は、恐らく、人狼の始祖だ。
「へぇ、君も出来るね。でもごめん、もう決めちゃってるから」
ルゥさんがそう言って、先輩の頭をぽんぽんと撫でると、先輩にしては非常に珍しく、恐れ多いとでも言いたげな態度で、両手を挙げた。
「アイアンくん、君に一つ、お願いしたいことがある」
そして、俺たちには理解し難い【お願い】を、彼女はアイアンに告げた。




