喜びに値する再会の寿ぎ
「…なんで、生きてんだよぉ」
再会を喜びあった俺たちが、近くのカフェで腰を落ち着かせると、ルビーが恨めしげな目つきで俺を睨んだ。そして、そのルビーをからかうようにルファが口を挟んだ。
「ルビーさん、それだと死んでたほうが良かったみたいに聞こえますよ?」
「そんな訳ないじゃん!生きててよかった!」
思わず、笑みが溢れる。なんて、懐かしい。一年、たったそれだけ、されど、そんなに長い時間、俺たちが会わずにいたことはなかった。そりゃあ、懐かしさくらい覚える。
「言わなくても分かるよ。何年の付き合いだっての」
「未だにアイアンキレるもん」
「アイアンはなあ、そういう奴だし」
「んだ、そういう奴って」
そんな風にテーブルを叩くふりをして見せたアイアン、変わらない仕草。それでも、本気で怒っているわけではない彼を見ると、確かに変化はあるのだと、感じる。
「それより、お前、生きてるって、手紙くらいくれよ。マジでビビったわ」
怒った振りをやめたアイアンは、そう言って苦笑した。
しかし、なんでさっきからこいつら、俺が生きてたことに驚いてるみたいな口振りなんだ?スキアーさんが事前に伝えてくれていたと聞いたが。
「…もしかして、俺が生きてるの、知らなかった?」
「逆に知ってると思ったんですか」
「ルーちゃんがブロンズを手に掛けるとは思えなかったから、違和感はあったけどね」
「それでも、あれで生きてると思うのはほぼ陰謀論だな」
どうやら、俺の生存、神領に着いてからの動向は、上の方で止められていたみたいだな。スキアーさんが俺を騙すとは思えない。
「ま、何にしても、良かったよ。本当に」
アイアンが、そんな風に総括するように言った。全く、同感だ。もう、二度と会えずに終わるかもしれないとさえ思っていた。そんな、彼らとまた出会えたのが、俺は心の底から、嬉しいんだ。
「ね、聞かせてよ。神領の話」
強請るように言う、ルビーに、俺は泣きそうな面を必死で抑えて、笑顔を見せた。
「…ああ、夜が明けるまででも、話すよ」
俺は、そう前置いてから、話し始めた。出来るだけ、長い時間を掛けられるように、こと細やかに、神領に着いてからのことを話し始めた。
こんなに幸せな時間なら、永遠に続いても良い。そんな風に思えるくらい、幸せだった。
*
そんなブロンズたちの会合を、覗く者たちがいた。
「ほら、ブロンズくんと一緒の席、いるでしょ」
「ほんとだ、確かに見覚えない人たちだね」
ブロンズにアイアンたちの所在を教えてから、彼の後をつけていたウィル。そしてその彼に連れられてやってきたマリアレスたち四人。
「私、知ってますよ。兄さんのご学友の方々です」
「それデハ、彼らがミクトの使節団というコト?」
誰に対しても慇懃な態度を崩さない彼女にしては珍しく、気安い口調で問うスカベラに、ルーデンもまた、彼女にしては珍しい気安い口調で返した。
「多分そうだよ。皆さん、兄さんに比肩する程に優秀な人たちだったし、そう考えるのが妥当だと思う」
「ルーデンが言うナラ相当だろウネ…」
ブロンズを極めて高く、過剰とさえ言えるほどに高く評価しているルーデンから出てくるとは思えないほどの、高い評価にスカベラが驚愕混じりに相槌を打つ。
「言われてみれば、確かに。僕の同類もいるみたいだしね」
「覚醒者?そういうのって見て分かるの?」
「見ては分からないかな。同類特有の肌感覚ってやつ、見てると目がチリチリしてくるよ。彼女」
柚子の問いに答えながら、ウィルは赤髪の女、ルビーを指差した。
「そんな子と肩を並べる他の二人の方が―」
「何してるのー?」
「んぎゃぷ!?」
彼女に抱きつく一人の女性の姿があった。ルゥ=ガルー、人狼の始祖である彼女が、突如として現れた事に対し、ウィルが頭を抱えた。
(マリアちゃんの髪が反応も出来ないとか、やっぱり滅茶苦茶だなこの人)
「にゃは、そうじゃないと死ぬ時代だったからね。そうであっても死ぬけど」
ウィルの心を実際に聞いたようにして返答するルゥ=ガルーに、彼はお手上げだと仕草で示す。
「…そ、滅茶苦茶なのはあの時代だけで良い」
正気のような声色で小さく呟いた彼女は、誰にも見せないようにして、小さな笑みを浮かべた。
「アイアン=ガルー、我が同胞の子孫。君にも平和の1ピースになって貰うよ」
*
「そういや、スフィアはどうしてる?」
一通り、神領であったことを話し終えた俺は、仲が良かった後輩のことを聞いた。彼女の様子が気になったのと、もしかしたら彼女なら俺の生存を知っているのではないかと思ったから。
「うーん、最近になってようやく持ち直した感じ。帰ったら会ってあげなよ」
ルビーの答えから俺は、どうやら彼女も俺の生存を知らなかったことを察した。ルファはそんな、俺の質問の意図に気づいたようで、神妙な面持ちで俺に目を向けた。俺は目を合わせたまま頷いて、彼女に応える。
しかし、帰ったら、か。帰れるわけが、ないよな。
俺はもう、人間じゃない。人間種ですら、ない。名も無き一人の神だ。
【竜王】のような、本当に本当に、極稀な一部の例を除けば、そのような異質の存在は、人間領に足を踏み入れることは出来ない。
そうでなくとも、マリアは俺と同じ神、柚子は吸血鬼、ルーデンは指名手配の身だ。俺が例え、人のままだったとしても、そう軽々しく、帰ることは出来なかったろう。彼女たちを置いて、一人で行けるはずもない。
「よう、どうだ。久々の再会は」
ルビーにどう返答しようかと悩んでいると、太い、筋肉質な腕が俺の首を掴んだ。ナインハルト先輩だ。
「かかか!お前らの驚く顔が見たかったんだがなぁ!」
「…趣味悪いよ、先輩」
実に機嫌良さそうに笑う先輩をルビーが睨んだ。
先輩は笑みを崩さないまま、彼なりの弁解を口にした。
「悪いな、俺等も知ったのはつい先日なんでね。知ってたのは教授だけだ。剣聖殿も【外】周りで、殆どこっちにゃいなかったって話しだから、あの人も知ってるかどうか」
先輩の言葉は俺に、一抹の疑念を膨らませるには、充分すぎた。
【教授】、七英雄の一人、デッドマン教授があのダンタリオンと盟友だったことを、俺は知っている。
そもそも俺の情報がダンタリオンの下へ流れたのは何故だ。俺に狙いを定めたのは何故だ。奴が俺の存在を知ったのは何故だ。ミクトのどこかに内通者がいたからじゃないのか。
それが教授だったとしても、何もおかしくない。むしろ、自然だ。
…教授が敵だったとしても、そうじゃなくても、一度、彼には話を聞かなくちゃならない。いずれにせよ彼は、この世で最も奴のことを知る人物なのだから。
「ミクトに、帰らなくちゃ」
そんな言葉が、不意に口をついて出た。色んな思いが混じり合って出たそれは、どうしようもなく否定できない、俺の本音だった。自分の人生が詰まった、故郷に帰りたいと願うだけの、ただの本音だった。
そんな、俺の言葉を聞いた先輩はにっ、と笑って、俺の頭に手を載せた。
「安心しろ、後輩。俺が必ず、連れてってやるからよ」




