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煌めく刃と轟く雷鳴

「…見つけた」


 足跡に果物の食べかす、それに糞。ガルム・ドルムの痕跡はものの数分足らずで見つける事ができた。これも師匠の指導の賜だ。人としての頂きである師匠の指導が、人を辞めた身で役立つとは皮肉な話だけどな。


「へぇ、やるじゃん」

「死にものぐるいで覚えさせられたからね」


 俺の手際には、マリアレスも感心した様子だった。俺は苦笑して、彼女の言葉を受け流す。思い出すだけで、怖気を感じる。体に覚えさせるっていうのは、ああいうのを指すんだろう。

 さて、魔獣自体の捜索はこれからが本番だ。まだ気は抜けない。会話は程々に、捜索を再開する。


「で、一人で倒せる算段はあるの?」

「以前も、一人で狩ったことは何度かある」


 その時はそこまで労せず倒すことは出来た。問題は、【神領】のそれがどこまで強力になっているか、だ。師匠曰く、【神領】の魔獣は人間領のそれよりも数段強力、それがどこまでかは肌で体感していない自分ではわからない。

 幸いなことに、足跡から判断する限り、それほど大きさに違いはない。ならば、強さにもそれほど違いはないはずだが―


「止まって」


 そこで俺は、マリアレスを制した。

 ガルム・ドルム、発見。うん、あのくらいの大きさなら問題ない。以前に狩った奴は、あれより大きいはずだ。しかし、一点、嫌二点気になることがある。


(ミクトで見たやつと、色が違う?)


 人間領で見たガルムの毛の色は、灰色だったはず。しかし、俺が今見ているそれの色は、赤だ。何かが違うのか、確信を持って言える、人間領のガルム・ドルムよりも、あれは厄介だ。

 明確に何が違うとは言い難いが、肌で感じるそれは、基本的に温厚とされるガルム・ドルムよりも凶暴性が遥かに増強しているように感じる。

 人間領のと区別して、スーペリア・ガルム(優れたガルム)と呼称しておこう。


 よし、観察はもういいな。人間領との違いには驚いたが、充分、狩れるレベルだ。

 剣を構える。離れた状態で急に構えた俺に驚いたのか、マリアレスがぎょっとした。


 俺は魔力が殆どない。だから、魔法は使えない。だから、剣術を鍛えるしかなかった。幸い、剣術に関しては才能があったようで、人外の域の技術を俺は体得した。師匠から習ったそれは、魔力を有せずして、最上位魔法と同等の現象を起こす、至高の剣術。

 だが、決して、俺は師匠の領域には至れていない。正直、俺くらいの練度なら、魔法を覚えた方が遥かに楽だし、強力だろう。

 一方で、対応力は遥かにこちらが勝る。剣撃を行いながら魔法を放つというのは中々に無理があるが、これなら剣撃を行いながら魔法に近い現象を引き起こせる。それに、魔法の五属性の内、雷を除いた火、水、風、土の四属性から、常に最適な選択肢を選べるというのは、大きなメリットだ。


「飛刃!」


 圧縮させた斬撃が飛ぶ。一直線に進んだそれは、狙い通りスーペリア・ガルムの前足を裂く。

 奴の体勢が崩れた。迷わず俺は、もう一発【飛刃】を放ち、距離を詰める。


 二発目の【飛刃】と、外敵の接近に気づいたスーペリア・ガルムは、直ぐ様、外敵の駆除を選択した。攻撃態勢に入ったスーペリア・ガルム、【飛刃】は瞼を裂いたものの、奴は構わず攻撃を放った。


「迂遠」


 生み出した水と共に、前足の一振りを受け流す。次々来る攻撃の波を受け流しながら、攻撃の流れが途絶える瞬間を待つ。


「纏火炎」


 途絶えた瞬間に、剣に炎を纏わせ、スーペリア・ガルムにダメージと同時に、怯ませる。

 狙い通り、スーペリア・ガルムに数瞬の隙が出来た。大技を放てる状況だ。


「覇王炎刃!」


 纏火炎のまま、剣を大上段に構え、大きく一振り。焼け付くような炎の刃は、スーペリア・ガルムでさえ苦しむには充分の熱だ。

 まだ攻勢は終わらない。両足に精一杯の力を込めて、跳躍。


「星潰し!」


 遥か高度から叩き込まれた剣撃は、スーペリア・ガルムの頭蓋骨を叩き割り、絶命したガルムはそのまま倒れた。


「ふぅ」


 何とか上手く行った、というか上手く行き過ぎたくらいだが、俺の剣術が、実力が【神領】でも通用するレベルだということに気づけたのは収穫だ。素直に、そこは喜んでおこう。


「どうだった?」

「え、うん、まあ良かったんじゃない?」


 俺がマリアレスに聞くと、どこかぎこちなく彼女は言った。どこか、不味かっただろうか、聞こうと思い彼女に近づいた時、さらなる、襲撃者が現れた。



「え、なにあれ。あんなに強いの、あいつ」


 ブロンズがスーペリア・ガルムを圧倒する姿を見て、マリアレスは驚愕を禁じ得なかった。

 彼女は自らの助けが必要になると半ば確信していたからだ。神に成り立てであり、神の力を上手く扱えないブロンズには、スーペリア・ガルムは荷が重いと思っていたからだ。


 しかし、そうはならなかった。ブロンズは、人としての力のみで、スーペリア・ガルムを圧倒しからだ。

 マリアレスにとっては信じがたい光景だった。これほど強い人間がいるということが、理解の外だったからだ。

 

「どうだった?」

「え、うん、まあ良かったんじゃない?」


 ブロンズの問いに、少し言葉を濁したのは、彼女に悔しさがあったからだ。

 マリアレスは単独でスーペリア・ガルムを倒したことはない。これは単に、マリアレスが生粋の魔法使い、それも隙の多い上位魔法を連発する魔法使いであることが理由ではあるが、それでも百年の時を生きてきた自分よりも、二十年も生きていない神になりたての人間が上だと認めるのは、耐え難いものがあった。


 それほどまでに動揺していたからこそ、彼女は背後に迫る、襲撃者に気づかなかった。


「後ろ!」

「え―」


 ジェノ・レックス、血走った目で獲物を残虐に屠る、肉食恐竜型の超大型魔獣。有に十数メートルを超える背丈でそれは、マリアレスを睨みつけていた。

 一方、彼女は腰を抜かしていた。恐怖に、悲観に、絶望に。アイゼンを筆頭とする、庇護者のいない戦場に、彼女は慣れていなかった、致命的なまでに。


 ジェノ・レックスの顔が、マリアレスの目前に寄った。血走った目と、口元から垂れる涎に、彼女は恐怖し、失禁した。

 尿を漏らす、マリアレスを見て、ジェノ・レックスは嘲笑した。

 ああ、こんな所で、私は死んでしまうんだ、食べられて、死んでしまうんだ、マリアレスは絶望の余り、大粒の涙を零した。


 その時、雷鳴がなった。


 

 早く、助けなきゃ。マリアレスを狙ったそれを見て、真っ先にそう思った。

 正直言って、あの怪物を殺せる気はしない。向かっていったところで、一蹴されるのがオチだろう。

 だからといって、逃げ出せやしない。彼女がいなければどこにいるのか分からず野垂れ死んでいたとか、借りを返さなきゃとか、理由は色々と思い浮かぶが、正直全部どうでもいい。


 自分が後悔する選択をしたくない、ただそれだけだ。俺は、剣を抜いてあの怪物に立ち向かおうとした、その瞬間だった。


(……悪くない)


 そんな、感心したような声が、頭の中で聞こえた気がした。


 そして、雷鳴がなった。


「なんだ、これ」


 俺の全身に雷が纏っている。不思議と、痛みはない。むしろ、今まで感じたことのないエネルギーを、全身に感じる。

 不思議と、今ならあの怪物を殺せそうな気がした。


 雷鳴を聞いて、俺を警戒したのか、怪物は俺の方を向いた。

 俺が一歩足を踏み出すと、頭も追いつかないスピードで、俺の体は動いた。一歩、それだけで俺は怪物の目の前に立っていた。

 

 怪物も、俺も、硬直する。何が起こっているのか、理解できない。

 先に動いたのは、怪物だった。頭を振り上げ、頭突きの構え。俺はひとまず、後退して回避しようとした。


 まただ、一歩後退しただけで、とんでもない距離を移動してしまった。これは、慣れればとんでもない代物だろうが、今の俺には扱えない。


 だから、俺は剣を抜いた。この感覚に、覚えがあったから。ワイバーンを殺した時と、同じだ。

 剣には、雷が纏っていた。あの時と同じならば、怪物のほうが図体はでかい。当てるのはワイバーンよりもむしろ楽なはずだ。


 怪物は咆哮を上げながら、俺目掛けて突進した。

 俺は、剣を構えた。


「はぁ!」


 振り下ろすと同時に、雷の刃が奔る。縦に一直線、ジェノ・レックスを真っ二つに裂いた。

 やはり、信じがたい力だ。あれほどの怪物すら、真っ二つにする威力なんて。

 これが、神の力。【雷】の力、なのか。いまいち現実感のない力に、何度も手を握る。


 嫌、今はこんなことをしている場合じゃない。次が来ないとも限らないし、早く大市に戻るべきだ。俺はマリアレスに駆け寄った。


「マリアレス!大丈夫か?」

「…う、うん」


 やはり、彼女はどこか元気がなかった。あれだけの魔獣に喰われそうになったんだ、当然だろう。


「とりあえず、大市に戻ろう。歩けるか?」

「う、うん。大丈夫、歩ける、平気」


 マリアレスはどこか様子がおかしかったが、そう言われては突っ込めない。

 このまま、大市に戻ろうとした。その瞬間、マリアレスが俺を呼んだ。


「あ、あ、あ、あの!」


「…助けてくれて、ありがと」


 顔を真っ赤にして、マリアレスは言った。

 俺もなんだか、照れくさくて、顔が熱くなった。

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― 新着の感想 ―
[一言] マリアレスの粗相の部分は必要なかったと思う。
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