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【白雷】 2

「ねえ、本当にやるの?」


 ルーデンが外へ向かったのに続いて、マリアたちがその後を追った中で、また柚子だけは俺とともに残ってくれた。


「元々、ここに来た理由は、黒い雷の正体を知るためだ。あいつが教えてくれると言うなら、断る理由もないだろ」


 俺が首を振ると、柚子は呆れたようにため息を吐いた。


「…気づいてる?顔、真っ青。それに、凄い冷や汗」


 柚子に指摘されてようやく俺は、首元を拭う。確かに、凄い汗だ。そして、額からも、頬を撫ぜるように滴っていることも、背中がぐしゃぐしゃに濡れていることにも、気づく。


「は、は、確かに、凄い汗だ」

「笑い事じゃないよ。それだけ、緊張してるってことでしょ?」


 からからに乾いた喉で、絞り出すように笑うと、再度彼女は、呆れ混じりで言った。

 

「こんなんで、まともに戦えるの?」


 眉をひそめた柚子の様子からは、心配してくれているのが、痛いほどに伝わった。


「…大丈夫、戦る時には多少は落ち着くさ」


 俺は柚子の心配を祓うことを祈って、肩を何度か叩いた。事実、戦闘に至れば、それなりに冷静な判断が出来るようになる。剣を持ってれば、焦りはなくなる。

 勿論、俺がまともに戦ったとして、まともに相手になるとは限らないんだが。


「そろそろ、行こう。待たせるのも悪いからな」

「…うん」


 生憎、柚子の心配を解きほぐすことは出来なかったようで、不安そうな瞳のまま、彼女は頷いた。

 


「悪い、待たせた」

「いえ、構いませんよ。何事にも準備は必要ですから」


 俺の謝罪を気にした風もなく、ルーデンは微笑む。


「それじゃ、始めましょうか」

「ああ」


 彼女の言葉に、俺は頷く。大丈夫、俺は落ち着いてる。冷静な判断が出来る、と何度も自分に言い聞かせて。


「纒火炎!」


 ルーデンに先んじて、俺は剣を抜いた。炎を纏った剣を見て、彼女はくすっと笑い、同じく剣を抜いた。


「氷閃華」


 ルーデンは切り下ろした軌道上に氷を生み出し、俺の炎を相殺した。そのまま、向かってきたルーデンの剣を受け止め、押し返す。


「竜巻、落とし!」


 そのまま、俺は追撃に出る。剣を振り上げ、上段の構え。風を纏わせ、そのまま叩きつける様に振り下ろす。


「山茶花!」


 その剣も、ルーデンの切り上げるような剣で受け止められた。それを見て、お互いに、後方へと下がった。遠距離攻撃の、打ち合いだ。

 

「剛烈斬!」

「風刃!」


 同時に放った、俺の地を這う刃と、ルーデンの鎌鼬のような刃は、ぶつかり合い消滅した。


「ブロンズさんの攻撃を捌き切ってイル…」

「ブロンズの妹ということだから期待はしていたが、予想以上だな」


 スカベラの驚愕するような声とルインの感心した声に、彼らがルーデンの強さに瞠目しているのが分かった。

 俺もまた、彼女の強さに驚愕していた。二人とは違う意味で。

 

「いつまで、本気を出さないつもりだよ」

 

 俺は思わず、ルーデンに問う。

 俺が驚愕した理由は、彼女が、余りにも弱すぎたから。


 あの時の感覚を思い出す、俺が爺に追い出される前、何が起こっているのかも理解できないほどの速度で、俺を瞬殺したあの時を。

 あれを思えば、今、俺なんかと切り合いが成立している時点でおかしいのに、今客観的に見て、俺と互角の状況になっているなんて、夢でも見てるんじゃないかと思えるほど、現実離れした光景だ。


「生憎、素の私はこの程度ですよ。【始まりの剣聖】の剣を受け継いだ兄さんには敵いません」


 俺の疑問に対し、自嘲するように、ルーデンが言う。

 そんな馬鹿な、俺は彼女の言うことが信じられない。幼少期、爺の馬鹿みたいな鍛練に耐えられたのはどっちだと思っている。あの腐れが手元に置いたのは、どっちだと思っている。

 仮にルーデンの言うことが正しかったとして、素というのはどういうことだ?何を隠してる?


「剣の才能は、兄さんのほうがずっとあるんですよ。兄さんは、私なんかよりずっと強いんです」


 俺が不審に思う中、ルーデンは語り続ける。熱の入る語り口から、彼女は、自らの言葉を信じきっているようだった。


「そう、あの老害は、兄さんのことを何も理解していなかった!あのゴミは、兄さんを!」


 怒りを顕にし、地団駄を踏んだところで、冷静になったのか、ルーデンは頭を下げた。


「…失礼しました。ええ、兄さんが不審に思うのも分かります。それに、元々使うつもりではいましたから、遠慮なく、行かせて頂きます」


 剣を下に向け、彼女は言い放った。唇を震わせ、涙を堪えながら。

 なあルーデン、お前はなんでそんなに、泣きそうな顔をしているんだ?俺は呑気にも、そんな疑問を抱いていた。


「【白雷纏(ヴァイス・ドーン)】」


 そう、彼女が呟いた瞬間、ルーデンの全身が白く、輝く。白く光る、雷を纏っている。いつぞやの天使が頭を過るが、放つ魔力量は天使の比じゃない。

 

 彼女は苦しそうな表情のまま、動き出す。

 そして、瞬時に俺の懐まで、ルーデンが潜り込んだ。そして、そのまま、俺の体勢を崩し、剣を向けた。


「思い出してください、貴方の過去を。思い出してください、貴方と私がいた、腐った家のことを」


 剣を向けるルーデンの表情は、言葉に出来ないほどに悲痛に歪んでいて。

 ルーデンが剣を振った。首元に剣が到達する。当然の如く、肉を貫き、血が吹き出す。


 余りに唐突な出来事に俺は頭で理解出来なかったが、身体だけは死の危険を理解し、今までの人生全てが、走馬灯のように流れ始めた。

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