竜峰山 2
頂上の直前、俺たちに最後の難関が立ち塞がっていた。
「Agiyaaa!!!」
超大型竜種、壊呑竜。女王蟻や大食らいの花弁並みの巨大さに加え、それらすら物ともしない力を持った、神領でも最上位クラスの魔獣。あの時の天使、アルティナを超えて、デスペラードクラスと思って良いだろう。
疲弊していなかったとしても、勝てると確信を持っては言えない相手。今の状況で勝てる可能性は低く、立ち向かうのは下策だ。どうする!?
「ああ、こいつは大丈夫だよ」
俺たちが警戒を顕にしていると、ルインは微笑を浮かべて、その壊呑竜に手を振った。
ルインの姿を確認した壊呑竜は、鼻を鳴らして何処かへ去っていた。
「彼は、まあ隣人みたいなものだ。留守を預かってもらっていたんだ」
あれ程の魔獣に留守番を任せるとは、贅沢というかなんというか。
とにかく、最大の難関と思えたものが居なくなったのだ。良かったと思っておこう。
「何にせよ、これで」
「そうだな、登頂成功だ」
俺とマリアはそう言って、こつん、と拳をぶつけ合う。念願、ってほどじゃあないが、一度失敗したものを成功させたことは、素直に喜ばしい。
「流石に、疲れましタネ」
「うん、もう一歩も動きたくない…」
スカベラは座り込んで、柚子に至ってはへたり込んでいた。やっぱり、二人とも満身創痍だったんだな。俺やマリア以上に、二人は疲弊しているようだ。
「休むならとりあえずうちに入らないか?ここだと、また魔獣が出てくるぞ?」
「…もうひと踏ん張りしよっか、スカベラちゃん」
「…ハイ」
ルインの気を重くさせる言葉に対し、心なしか震えそうな声で言った柚子に、か細い声でスカベラは頷いた。
*
「…なんというか、絵に描いたみたいだな」
頂上、正確にはその付近に存在する、ルインが住む家がある場所を見た俺は、率直な感想を漏らす。
綺麗にくり抜かれように、真四角な平地。その一帯の中心に、小さな家があった。最早、小屋と形容すべきほどに小さなそれが、ルインの住む家だということを理解するのに、それなりの時間を要することになった。
「さ、どうぞ。入ってくれ」
ルインに促されるままに、家に入る。入って真っ先に思ったのは、必要最低限の家具だけがある、殺風景な部屋だった。外見もそう広くは見えなかったが、中に入るとそれ以上にこじんまりしているように感じる。正直、大規模な研究室があるようには見えないが。
「お茶を淹れようか?」
「お願いしマス」
何十年、下手をすれば百年単位を共にしているだろう、骨董品の椅子に腰を掛けた俺たちに、ルインが聞いた。その言葉に従って皆が珈琲を頂こうとする中、俺は口を挟んだ。
「悪いが俺は」
全て言い終える前に、ルインが微笑んだ。
「分かってる。資料だろ?珈琲を淹れ終えたら案内しよう」
「私も行っていい?化物っていうのに興味がある」
すると、手を挙げて、柚子が追随するように聞いた。
「勿論、何せ研究資料は膨大だ。一人でも多いほうが良いからね」
ルインはそんな柚子を歓迎しているようだった。一人でも多いほうが良い、という言葉を聞いた後、マリアが吹けもしない口笛を吹いていた。あいつも学びを苦とするタイプじゃないが、今回ばかりは疲労が大きいんだろう。別に参加しないことを責めやしないんだからさ…




