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竜峰山 1

 かつて俺たちが失敗した竜峰山の道のりは、依然として難航を極めていた。


「柚子、また増援だ!行けるか!?」

「ごめん、さっきのでガス欠!」


 地伏竜(グランド・ドラゴン)の群れ、何度倒しても湧いてくるそれらを撃退するために、柚子に声を掛けるも、彼女は首を振って魔力量の低下を示した。

 だが、それも無理はない。連戦に次ぐ連戦、それに相手はジェノ・レックス並の巨躯を持つ地伏竜だ。当然、魔法の使用量は甚大なものになる。


「了解、任せてくれ!」


 雷速を利用することで、地伏竜の群れを一人で挟み撃つ。奴らは俺を捉えられずに、雷撃を伴った剣を受け続ける。ぶっつけ本番だが思った以上にうまく行ったこの技を、【雷迅双牙】と名付けよう。

 しかし、撹乱する技としては優秀だが、雷を殆ど速度に回してしまったため、威力は今一だな。


「マリア、任せた!」


 だから、マリアに任せる。一人で、全てを賄わなくて良いんだ。


「包んで、投げる!」


 そんなマリアは、俺の想定外の動きを見せた。

 地面を這うそいつらを、地面ごと包み、そのまま地に叩きつけたのだ。

 当たり前のことだが、俺一人が成長してるわけじゃない。誰もが、毎日少しずつ進化しているに決まっている。


「マリア、炎出せるか?」

「出せるよ、何するつもり?」

「大技ぶちこむ!」


 なら、二人で更に先へ。

 マリアの射程を外れた地伏竜に向けて、そしね遠方に見える増援に向けて、射線を定める。

 そして、雷纒を解除し、纒火炎を起動。俺の剣技は、雷だけじゃない!

 そのまま、マリアが放った炎絡ませ、振り下ろす!


『豪・覇王炎刃!』


 本来の、師匠の剣さえ凌駕するほどの炎は、一直線に走り、前方にいた全ての敵を焼き付くした。



 それから、後方の魔獣を担当していたルインとスカベラの二人が戻ってきて、安全地帯まで歩を進めた後、俺たちは休憩をしていた。


「流石に、キツいな」


 連戦に次ぐ連戦に思わず、俺は弱音を漏らす。失言に気づいて、俺はまだ熱い珈琲を啜った。


「…同感、正直頂上にたどり着けるか心配になってきた」

「ウィルと一緒に行った時よりはマシだけどね…」


 そんな俺の失言に、柚子が同調した。マリアも否定はしなかった。

 俺とマリアにとっては二度目、柚子やスカベラに至っては初めての竜峰山だ。皆、かなり疲弊しているんだろう。


「慣れの問題さ、皆くらいのレベルならすぐに楽になるよ」


 そんな中、一人けろりとしているルインに頼もしさを覚える。


「あ、そうだ。スカベラちゃんの蟲に乗っていくのとか、ありじゃない?飛べる蟲もいるんでしょ?」


 柚子の提案に、スカベラが剣と盾のような姿をした蟲を両手に掲げた。


「先の一件で、私が契約していた蟲の殆どが死にまシタ。今はこの子たちと、あの時の女王蟻、もう一つの切り札くらいデス」

「ま、仮に残ってても、飛竜の群れが待ってる中で飛んでくのはどうかと思うけどね」


 両手のそれらと彼女が座るムカデを指して、スカベラは答えた。そう言えば、あの女王蟻はどうなったんだろう。彼女の口振りだと生きてはいるようだが。


「あ、確かに。失念してたなー」


 マリアのちょっとした皮肉に動じることなく、柚子が頷いた。

 柚子の強みは、この柔軟さにもあるだろうな。【外】との文化の違いにも怯えず、大陸についての知識を蓄えることを先決に出来る判断力。この大陸に住む俺でさえ、神領に慣れるまでは直ぐに、とは行かなかった。


 そして、その強みは彼女の戦闘スタイルにも現れている。補助魔法を主体とした戦法でありながら、必要とあれば近接戦闘も十二分にこなし、必殺技まで持っている。これは、バリエーションは多いとは言え剣技一辺倒の俺や、自由自在に動かす髪があるとは言え大火力の魔法を好むマリアにはない、大きな武器だ。


「さ、後半分だ。張り切って行こう!」


 ルインの掛け声に元気良く、とは行かなかったが、それぞれ頷いて、立ち上がった。



「あのぅ、どなたか、いらっしゃいますか?」


 ブロンズたちが竜峰山を登っている最中、スキアーの家を訪ねる者がいた。


「はいはい、誰かな?」


 スキアーが奥の方から出てくると、訪ねた女は礼儀正しく名乗った。


「ルーデンと申します。ブロンズ・アドヴァルトという方を探しているのですが、ご存じですか?」

「それは…」


 スキアーは答えに窮する。何故なら、戯灰からその名を聞いていたから。ルゥ=ガルーが危険視していたことを知っているから。

 しかし、彼が黙している最中、その質問に答えるものがいた。


「竜峰山だよ。ブロンズくんたちは今、その頂上に向かっている」


 そう答えたのは、ルゥ=ガルー。彼女にブロンズの居場所を教えることを断った、張本人だった。


「狼さん、どういう風の吹きまわしですか?」

「にゃは、タイミングさ。信者さんの思惑を狂わせるのは、ここしかなくてね」

「良くわかりませんが…感謝はしておきます」


 頭を下げて去ろうとした彼女を、スキアーが呼び止めた。


「一人で竜峰山は危険だよ、誰か護衛をつけようか?」

「それには及びません」


 ルーデンはスキアーの問いに首を振り、答えた。


「私、少しばかり腕には自信があるんです」


 その言葉を契機に、ルーデン・アドヴァルトは竜峰山を目指すこととなる。そして、それが、誰かの物語を大きく狂わせるとも知らずに。


「ところで、ルゥ。なんでここに?」

「妊娠したから、家借りに来たよ」

「え!?あ、えー、おめでとう?」

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