黒色の謎
「悪いな、バァルは取り逃した」
「仕方ないさ。むしろ、異形の天使三体の情報を得られなかった僕の失態だよ」
大市に帰還した俺たちは、スキアーさんに状況の報告を行っていた。
その中で特に話題に上ったのは三人の異形の天使、そして。
「しかし、黒い雷、ね」
アルティナと呼ばれた天使と交戦中に俺が放った、黒色についてだった。
俺では分からなかったが、どうやら傍から見たそれは、雷のように見えたらしく、皆からは黒い雷と呼ばれた。
「あれは一体、何なんでしょうね」
俺は正直、その正体について何も見当がついていなかった。
天使が放っていた光を上から塗りつぶした、黒色。改めて考えると、少しだけ怖気さを感じるが、それ以上にどことなく懐かしさを感じる。
(ああ、そうか)
ルーデン、あいつは俺にとっての光のような存在だった。飛び抜けた強さで、誰もが見惚れる美貌で、飛び抜けて才能に満ち溢れた彼女を光とすれば、俺は彼女の影であり、黒色。
成る程、そう考えると、俺にはぴったりな色だなと、思わざるを得ない。
「…君が出した黒い雷、私が推測するにあれは化物だと思う」
「あー成る程ね、そもそも単なる雷じゃないってことか。ブロンズくんの魔力量が低いのもそれが原因なら頷けるね」
ルインの推測に、ウィルが同調する。
確かに、その可能性はある。スカベラと結んだ使徒の契約を境に、明らかに俺の魔力量は増大した。それが今まで黒い雷を縛っていたものだと考えることも出来る。縛りが解けたことで、俺の中から飛び出したのだと。
「でもさ、そもそもブロンズくんの雷はフアイって人の神性なんでしょ?そこから来てる線はないの?」
「見たことはない。だが、否定もできない。フアイはそういう隠し玉をいくつも持っていたからな」
そこから出たウィルの疑問は、ある程度の蓋然性を持っている。元々、雷というものを戦闘で利用することのなかった、俺の中から雷に関する化物が生まれたと考えるのは早計だろう。
が、戯灰さんの表情からは、その線は薄い様に思えた。ルインの返答も否定はしていないものの、決して賛同もしていない。
「戯灰、実際に化物を持つ君はどう思う?」
スキアーさんに問われた戯灰さんは、少しだけ間を置いてから話し始めた。
「…フアイの旦那の神性は、あくまで【雷纏】。自らに雷を宿らせ、それを放出するもの。黒い雷なんて出さねえし、天使の能力を奪うなんてことも不可能なはずだ。そういう技術を持ってたとしても、ブロンズがそれを継承することはねえだろ」
まず、戯灰さんはそう言って、神性の副産物ではないかという疑問を消す。
「だが、化物とも断定付けられん。俺にとって化物ってもんは、物心ついた頃には勝手に使い方を理解してるもんだ。今まで出てこなかったもんが急に、それも勝手に出てきたなんてのは、俺の化物の理解とはかけ離れ過ぎてるぜ」
そして、化物だという予想にも賛成はしなかった。
「じゃあ戯灰さんは何だと思うの?代案、あるんですよねぇ?」
「…嫌、分かんねえけどさ」
などと、ウィルにからかわれてはいたが、戯灰さんは貴重な化物持ちだ。この中の誰よりも、化物については詳しいはず。彼の推察は正しい可能性が高いだろう。それに一度、偶然とは言え黒色を放って尚、俺は黒色の出し方すらも分かっていない。全く、戯灰さんの経験とは反している。
「偉そうに言ったが、化物じゃない、とも俺は確証を持って言えねえんだよな。俺以外の化物持ちなんてルゥくらいしか知らねえし、あいつが幼い頃から使ってたのかとかは知らねえからなあ。何より二人じゃデータが少なすぎる」
ウィルの指摘を受けて、でもないだろうが、戯灰さんはそう言って頭を抱えた。
「データなら、あるかもしれない」
戯灰さんの発言を受けて、ルインが言った。
「神代、【魔王】討伐の前だ。当時フアイたちは魔法だけでなく、化物についても研究していた。そして今も、当時の研究資料が残っている」
そんな、ルインの言葉によって、図らずも俺はかつて頓挫したことの、リベンジをすることになる。
「ブロンズ。行ってみないか、私の家に」
竜峰山、その頂上へ。
その頂上に待ち受けているものを、俺はまだ予想もできていなかった。




