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原生生物の後始末

「火炎掃天!」

「はっはぁ!温いぜ!」


 戯灰が放った火炎を纏った突きを、カマエルが切り払う。


「あは!楽しいなあ!戯灰!」

「生憎、俺は楽しくねえ、よ!」


 カマエルと戯灰は互角に渡り合っていた。

 戯灰は、(武器の違いから単純に比較は出来ないものの)力量としては互角以上の天使の剣技は都度都度受けながらも、彼の回復力で軽傷に留め、必殺の一撃は牽制を持って事前に止めることで優位な状況を握り、また天使も、戯灰の決して手ぬるくはない槍の一撃を、剣を持って受け流し続けている。


 が、その戦闘は一時中断することとなった。


「あん?」

「…ああ、想定に入れとくべきだったなあこりゃ」


 地面が震えていた。その事実に、二人は同時に気づく。戯灰は、その正体にまで。

 そして、程なく現れる、ニ体の怪物。まず初めに見えたのは大蟻、女王蟻(クイーン・アント)。そして、それに相対するかのように這い出る、もう一つ。


大食らいの花弁(エトリーグ)まで来やがったか―!」


 大食らいの花弁、戯灰がそう呼んだ巨大な花は、無数に生える牙のような葉で、今にも女王蟻に襲いかかろうとしていた。


「おら行け!」


 灼熱落花に存在する、二つの王の行動に驚愕しつつも、戯灰は既に次の行動に移っていた。火炎で象った蝶をカマエルに飛ばす。


「は、最早牽制にもならねえぜ!」


 それを単なる飛び道具と思ったのか、カマエルは切り裂いて次の手に対応することを選んだ。

 しかし、蝶は彼の攻撃を躱すと、ひらひらと上空へ上っていった。大食らいの花弁の、射程距離程の高さに。


「――――――――――――――――――――――」


 大食らいの花弁が火炎の蝶に反応した。熱を持った、蟲型のそれに。牙を持つ葉が、食べようと狙いを定めて飛びかかる。


「KIIIIIIIIYAAAAAAAAAAAAAA!」


 そして、女王蟻がそれに呼応して、動いた葉を踏みつけた。


「…何?」


 無論、その直下にいた、カマエルも巻き込んで。


「おい、そりゃ反則だろ。お前、乱入者に殺させるとかよぉ」


 ぐしゃぐしゃに潰されたカマエルではあったが、それでも嬉しそうに文句を垂れる。死の淵に立たされるとは思えないほどの、笑顔で。


「だが、楽しかったぜ」

「死の間際に呑気なやつだな…」


 その満足そうな表情に釣られたか、呆れながらも戯灰は笑い、矛を納めた。


「カマエル」

「あ?」


 その場を去ろうとした戯灰に向かって、カマエルが名乗った。潰れた右腕を、震わせながら動かして。


「俺の名前だ、教えてやる」


 拳を向けながら、穏やかな笑顔で言ったカマエル。戯灰はそんな彼に奇怪な視線を向け、苦笑しながらその場を去っていった。


「―また、遊ぼうぜ」


 戯灰が去った後、満面の笑みを浮かべたカマエルは、そのまま女王蟻に踏み潰された。 



「なんで、あんなのが!」


 本来、灼熱落花の奥で眠っているはずのそれらが現れたことに、俺は思わず声を上げる。

 女王蟻にしろ、大食らいの花弁にしろ、こちらに積極的に攻撃を仕掛けてくる相手ではないが、何にしろあいつらは巨大すぎる。その体躯はジェノ・レックスを優に超え、50mに届く。そんな、お互いに捕食対象である彼らの争いに巻き込まれれば、簡単に致命傷になりうる。


「アルティナ様!」


 俺が呆然としていると、村の方から顔面だけの天使が現れた。


「ぐ、り、ご、り?」

「撤退します!私にお掴まり下さい!」


 天使が震える手でその顔面に触れると、二人の天使の姿がゆらぎ始めた。


「待テ…!」


 それを見た蟲使いの少女が、飛び出して、消える天使たちに向けて、手を伸ばした。

 無論、その手が届くことはなく、ただ空を掴む。


 そこで俺は、彼女の肩を掴んだ。慰めるためではない、あの女王蟻を呼び出したのが彼女ではないかと思ったからだ。


「…全員、殺しマス。天使共を殺さなきゃ、殲滅しなきゃ、私は逝った同胞達に死んでも顔向け出来ナイ」

「そのために俺等全員心中させるつもりか?君はそれで良いかもしれないけど」


 覚悟を決めた表情で、訥々と言った彼女を、俺は咎める。それでも、彼女に迷いは無いようで、ただ無言を貫いた。


「別に、あの程度の相手なら死なないだろ」

「ね、さっきの天使に比べれば、なんてことない相手だよ」

「嫌、俺らは踏み潰されたら多分死ぬよ…」


 両腕を焦がしたとは言え、弓矢での傷は無いルインと、そもそも肉体を変換できるウィルのせいで、俺が特別軟弱みたいじゃん。

 と、そこで、こちらへ向かってくる戯灰さんが見えた。彼も例に漏れず無傷だ。あの人が特殊なのは分かってるけど、さあ。


「ま、とは言えやぶ蛇はごめんだからね。撤退しよっか」


 緩く言ったウィルに、俺たちも同意して、この場から去ろうとした。

 と、ルインとウィルが去っていく中で、少女だけは下唇を噛み締めて動かなかった。


「君もこっちだ」


 頑として動こうとしない少女の手を握って、彼女を抱きかかえようとする。


「別に、君の復讐がここで終わったわけじゃないだろ。次の機会が来るまで、必死に生きとけ」


 少しでも励ますために、俺は彼女に言った。


「…そうするなら、俺も付き合ってやるからさ」


 なんて、口をついて出たのは、いつかのマリアの受け売り。そうすれば、彼女に貰ったものが、返せる気がしたから。

 その言葉は、彼女に響いたようで、彼女の抵抗が緩んだ気がした。


「…スカベラ」

「え?」


 走り出そうとした瞬間に、少女が何かを呟いた。


「スカベラ・青碧、デス。名前で呼んで下サイ。貴方は、私の主、デスから」

「…ああ、よろしくな、スカベラ。俺はブロンズだ、俺も名前で良い」


 主なんて呼ばれるのは、気恥ずかしかったから、俺も名を名乗った。


「はい、よろしくデス。ブロンズ、サン」


 そう言って、淡く、それでも確かに、スカベラは笑ってくれた。

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