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領主会議 1

「じゃあ僕はスキア―と打ち合わせをしてくるから、適当に待っていてくれ」


 ルインさんにスキアーさんの家から少々離れた場所にある、建物に案内されて俺は中に入る。

 この建物には、今から向かう会議室に加え今回の領主やミクト・マギエからの使者が寝泊まり出来るように寝室が用意されている。


 会議室に入ると、殆ど全員から一瞥された。嫌だな、こういう雰囲気は。実家にいた頃みたいだ。値踏みされるのは好きじゃない。

 

 蝿の様な顔を持つ男、その隣にムカデのようなおどろおどろしい仮面を被った童女、白よりも青に近いほどに青白い肌をしたエルフが二人、王冠を被った小さいオーガ、布で顔を隠した褐色の男、その隣に腰掛けて、俺に手を振る青髪の男。


 彼らはそれぞれ神領の各地に点在した、各々の集落を構えている。その集落の主たちを領主と呼んでいる。一部、その代理人と思しき者もいるが。

 しかし、その領主の面々が、蟲使い、スノーエルフ、ゴブリンとは、どれも現在はどの国家にも存在しない少数部族だ。蟲使いはかつてアネリアに存在した技術の継承者、スノーエルフはアネリア東部に居を構えるエルフと神代に袂を分かった者たち、ゴブリンは…よく知らない。


 普通ならどう振る舞うべきか悩むところではあるが、幸い、その参加者の中に一人、知り合いの顔があったので、そいつの下に向かうことにした。


「よ、ウィル」

「やぁ、ブロンズくんじゃん。どうしたの、こんなところに」

「分かりきってることを聞くなよ。お前こそ、なんで議会に?」


 青い髪をしたその男の名はウィル。彼は、自らを【風の民】と呼称する一族の一人だ。隣の顔を隠した男性もその一人だ。彼らは全員が純粋な人間ではあるが、全員が神から血を分け与えられた【使徒】であり、神と同等の不老性とそれなりの肉体能力の向上が与えられている。

 風の民の間で生まれた子でありながら、神から血を分け与えられていない彼は、ある意味純粋な使徒でありながら、使徒ではないという些か複雑で、特異な存在になっている。


「いや僕って覚醒者じゃない?【竜巻様】の次に希少な戦力だからさ、交渉カードとして呼ばれたのよ。自分で行けば良いのに、ほら、あの人引きこもりだから」

「相変わらず、明け透けに言うなお前は…」


 自信に満ち溢れた、彼らしい発言に思わず苦笑する。だが、彼を咎めるものはいない。その自信を裏付けるほどの実力を、彼は持っている。


 【覚醒者】とは、火・風・水・雷・土の五大属性の一つに非常に高い適性を持つ者たちのこと。体に宿る魔力自体が一つの属性に固定されている彼らは一つの属性しか使えないが、その分非常に高い魔力を持つ。また、基本的に魔法というものは魔法を行使する前に、魔力を各属性に変換する行程を持つのだが、覚醒者はその行程を持たない。故に、基本的な魔法は純粋な魔力弾と同等の速度で放てるし、大規模な魔法さえも殆ど間隔を空けず連発できる。ウィルもその例に漏れず、難なくこなす。


 しかし、交渉カードか。大体、この会議の目的が見えてきた。デスペラード襲撃の件で、大市の安全性が大きく問われた。スキアーさんはその襲撃を察知出来ず、本来防衛にあたるはずのアイゼンさんの一派に援軍を要請することも出来なかった。戦力の提供を提案することで、それぞれの勢力が要求を通すことを目指してるという訳だろう。


 問題はそれぞれの勢力が対価として何を要求するのか。思いついたところで言えば、現在大市で独占している各国との貿易権が丸いところだろう。はっきり言って、神領で自給自足出来ている集落は殆どない。大市が得た輸入品を各集落に配当することによって、食料品娯楽品等を不自由なく得ている状態だ。その分前では足りないと訴える領主もいると聞く。だから、予想し易い動機ではあるが、それだけでは済まないところも当然出てくるだろう。


 ウィルは戦力の提供という意味では、この四つの集落では最も適した人材だ。それほど、彼の戦力としての価値は大きい。

 ま、そういう意味じゃ俺も同じ役割だろうが。スキアーさん、マリアや柚子の助力も大きいとは言え、【破壊竜】デスペラードを撃退した功績は恐らく、客観的に見て大きい。メインの交渉材料は恐らくルインさんのほうだろうがな。


「お互い苦労するねえ」

「全くだな」


 端から俺が呼ばれた理由など予想がついていたらしいウィルはしみじみと言ってたから、俺は同意してやった。

 そんな風に話していると、会議室に新たな来訪者が現れた。唯一無二の褐色のエルフ、彼は他の参加者を一瞥することもなくこちらに向かってきた。


「よぉ、若者共。仲が良くて何よりじゃねえか」

「戯灰さんじゃないですか、おじさんが気安く話しかけてくるのって反応に困るんですよね」


 現れた戯灰さんに物怖じすることなく、ウィルが言った。

 なぜ、アイゼンさんの使徒である彼がここにいるのかだが、推測するにアイゼンさんの代役だろう。アイゼンさんの片腕たる彼は、アイゼンさんの代役として充分な格を持つ。アイゼン一派の健在をアピールする狙いもあるか。


「は、確かにな。でも、俺も神領で言えば若え方よ?」

「貴方のところの爺婆に比べたら誰だって若いですよぉ」

「頼むから大将の前で言うなよそれ。あの人、あれで繊細なんだから」


 そのままウィルと話していた戯灰さんだったが、思い出したかのように俺に声を掛けてきた。


「と、ブロンズ。お前に伝言だ、耳貸せ」


 手招きする彼に従って俺は顔を寄せて、興味津々に入ろうとしてくるウィルを追っ払ったがしつこく入ろうとしてくる。どうしようかと思ってる内に、風の民の人が抑えてくれた。


(お前を捜してる何者かに出会った)

(…何者です?)


 戯灰さんの言葉には驚いたが、正直俺を探す奴の見当なんてつかないからただただ困惑する。師匠、或るいはミクトの将軍の線を考えたが、その場合そんな迂遠な表現は使わないだろう。というかそもそも、ミクトにはスキアーさんが俺の無事を示す手紙を送ってくれたはずだ。


(分からん、ただ若い女だった。俺からはまともな人間に見えたし、大将もお前の場所を教えようとしたが、ルゥが制止したから居場所は言ってない)

(ルゥさんが止めた?)


 若い女、ということで学園の友人の線を考えたが、どうやらそれも違うらしい。ルゥさんが止める意味が分からないからだ。


(ああ、それだけ危険があると判断したんだろ。何かは俺には分からん、だがルゥの直感は無視できないものがある。お前も気をつけろよ)


 その何者かの捜索者の存在に不安がよぎりながらも、水を滴らせながら制止を振り切ろうとしてるウィルを見て、戯灰さんもこれ以上話すのを得策と考えなかったか、そこで捜索者の話題を止めた。


「帰りにお前んち寄っていいか?久々にマリアの顔見て行くわ」

「ええ、勿論。あいつも喜びますよ」


 そこまで話したところで、スキアーさんとルインさんの二人が入室してきた。


「待たせてすまない。さあ、会議を始めよう」

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