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或いは暗躍する者たち

「…どうやら撤退した、みたいだな」


 【極大雷光】が消えた後、デスペラードの姿は影も形もなく消えていた。正確に言えば、血液の泥沼に引きちぎられたように、片足だけが残されていたが。

 あの雷の中、しかも足を一本失って、どうやって撤退できたのかは謎が残るが、今回はこれで良しとするべきだろう。


「ブロンズ、お疲れ様」

「ああ、マリアこそ―」


 駆け寄ってきたマリアに応じようとした瞬間、世界が揺れるような間隔がして、頭を抱える。視界も焦点が定まらない。体が限界を叫んでいた。


「ね、ねえ。大丈夫なの?」

「あ、あ、だい、じょ?」


 柚子の言葉に首を振りたかったはずなのに、視界が虚ろになり、舌がもつれてる。とても、眠い。ふらふらと体を揺らした末に、俺はその場に崩れた。

 はずだった。しかし、誰かが俺を抱きかかえていた。マリアではない、柚子でもない。筋肉質な腕、誰だろう?


「どうやら、私が来る前に頑張ってくれていたみたいだな。スキアーに代わって、君に感謝しよう」


 その誰かは、どうやら俺の知らない誰からしい。とても中性的な声音で、男女もよくわからない。その誰かを、せめて目で確かめたいところだが、ああ、駄目だ頭が回らない。すごく眠い。


「ゆっくり、お休み」


 俺を抱えた誰かは、とても、優しい声で、気絶しかけの俺に言った。



「ありがとう、お陰で助かったよ」


 ルドロペインの襲撃に合うはずだったアイゼンたち、しかしその襲撃は第三者により未然に防がれていた。


「いえいえ、偶然居合わせただけですので」

「にゃはは、いい子じゃん」

「てか、こいつは何者だ?者、って呼んで良いかも分からんが」


 襲撃を対処した女性が謙遜する中、アイゼンの一派の一人、戯灰がその襲撃者を指さして言った。初めはルドロペインの形をしていたそれは、彼女が切り捨てた今、ぶくぶくと泡を立てたまま、地表を溶かしている。


「ルゥ、分かんねえの?」

「にゃは、我らが同胞の信奉者。故に、それになろうとした。孤独の毒。秘密の蜜。ってところかな」

「…成る程、思ってたよりやべえ案件か」


 ルゥ=ガルーの言葉に対し、神妙に頷く戯灰。対象的に首を傾げる彼女。


「あの、何の話です?」

「ごめん、説明できない。正直ルゥの発言は、僕もわからない方が多いからね…」


 アイゼンに尋ねた彼女だったが、彼も困ったように首を振ってしまった。


「そうだ、アイゼンさん、でしたか?一つ、お伺いしたいことがあるのですが」

「何だい?」


 思い出したかのように聞いた彼女に、アイゼンが問い返す。


「私、人を探しておりまして」


 その女性、ルーデン・アドヴァルトは、爽やかな笑みで彼に尋ねた。



「よう、目が覚めたかい」

「…どうやら借りを作ったようだな」


 いつぞやと同じ、洞窟の中で、デスペラードは目を覚ました。苛立たしげに、或るいは悔しげにデスペラードがため息を吐く。ルドロペインはそんなデスペラードを見て、くつくつと笑った。


「そんなにイライラすんなよ、別にあんたを責めやしねえ」

「責めたいのは余の方だがな」


 道化のように笑うルドロペインに対し、怒りを隠さずデスペラードは吐き捨てた。


「何だあれは。雷神の神性に加え、剣聖の剣術を扱うなど、常識では考えられんぞ」

「嫌々、俺の方が聞きてえよ。剣術は兎も角、神性の方は少なくとも昨日の段階ではあそこまで扱えてなかったはずだぞ」

「それを信用したくはないのだがね。仮に真実だとして、たった一日で神性を習熟させたと?考えられん才覚の持ち主だな」

「確かに俺も信じがたいとは思うが…それより、旦那。言葉の割に大分嬉しそうだな」


 デスペラードの、苛立たしげな口調とは反対に興奮が隠しきれていない声音に対し、ルドロペインが突っ込む。


「これを喜ばずして何を喜ぶ?余の【破壊】と対等に渡り合える者など、然程多くはないからな」


 切断した足を、ルドロペインの毒で代用した彼は、難なく立ち上がり、こう言い残して行った。


「次は、十全を持って戦う。奴は余の獲物だ」

「相変わらず戦闘狂なこって」


 呆れたように見送ったルドロペインは、デスペラードの姿が消えるまで見送った後、実に不快気な表情で言った。


「…貴様の来訪は歓迎しねえぞ、狂人」

「や、初めまして。毒竜さん」


 虚空に向けて話しかけたルドロペイン、そしてその虚空から人型の何かが現れた。

 顔が塗りつぶされたかのように、黒で染められたそれの名はダンタリオン。ブロンズ・アドヴァルトに【雷神】フアイの肉片を食わせた、張本人。


「君が悪いんだよ、ルドロペイン。大人しくしているなら見過ごしてあげようと思ったのに、まさか彼を狙うなんてねえ」

「は、あんたは見苦しいと思わねえのかよ。あの残滓如きが、彼の如く振る舞ってる姿をよ」

「思うよ?思うけど、彼にはジョンが帰ってくるまで、生き続けて貰わなきゃいけない」

「笑えねえな。あんたが言うか、彼を【外】へと送還し、彼の記憶を封じたあんたがよ」


 感情をむき出しにするルドロペインに対し、ダンタリオンは確かに怒りを抱えながらも、飄々とした態度を崩さず迎え撃つ。


「別に信じなくていいよ?別に、教えなくても良かったんだけど、冥土の土産さ。君は、ここで死ぬんだから」


 ダンタリオンは虚空から取り出した剣で、ルドロペインの首を躊躇なく切り捨てた。

 だが、切り捨てられた後の、ルドロペインの肉体はどろどろに溶けていった。まるで、ルーデンが切り払ったルドロペインのように。


「くか、くかかかかか!あんた馬鹿かよ!俺があんたらに見つかりかねないところに本体置くわけねえだろうよぉ!」


 ルドロペインは、切り落とされた首だけで、実に愉快そうに笑っていた。

 これも、アイゼンを襲撃しようとした個体も、ルドロペインが毒を持って作り上げた、自らの分身。毒分身、彼の基本技にして、最高の必殺技。


「俺は臆病なんだ。とびっきりな」


 舌を出して、ダンタリオンを嘲笑うかのように彼は言う。


「だから、あんたの親友に憧れた。心の底から、彼のようになりたいと思った。千年鍛錬に費やして、ようやく表舞台に上がれるほどになれた。誰にも邪魔はさせねえ、あんたを含めた神代の遺産を全員殺し、俺がこの大陸の覇者となる。覇者となり、【外】に出て俺は―!」


 そこまで語った、ルドロペインの首を、ダンタリオンは踏み潰す。自らの足が、毒で蝕まれるのにも構わず。

 

「…ああ、羨ましいね。無知蒙昧な君には、【外】に出るのがそんなに簡単に見えているんだね」


 表面上は憐れむように、心の底では腸が煮えくり返る様な怒りに燃えながら、彼は言い捨てた。


「僕には、僕のやり方がある。僕の目的がある。絶対に果たさなきゃならない目的がある。どんな犠牲を払ってでもね」

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