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驚異、襲来 三

(良いことを教えてやろう。貴様は、あの光線に対抗出来る力を持ち合わせている)


 一年ぶりというブランクすら感じさせず、ペラペラと言葉が出てくるその饒舌さには頭が下がる思いだが、生憎俺はこいつのことを何一つ知らない。神性を目覚めさせてくれたあの時と、その後に飯食ったあとに皮肉をぶつけられた、それだけだ、こいつと会話をしたのは。


(拗ねている暇があるのかね?)


 腹が立つ物言いだな、本当に。そんな暇はないのは分かってるから、さっさと本題に入ってくれよ。


(では一つクイズを出そう。あの光線に対抗するために、貴様は何が出来ると思う?)

「…剣術と雷を複合させる?」

(【雷一閃】、だったか。あれはあれで私には出来ない、優れた技ではあると思うがね、あれでは出力が足りまい?簡単な話だ、そのまま纏った雷をそのまま放つ、それだけでいい)


 そこまで言った後、フアイは思い出したかのように付け足した。


(嫌待てよ、私は簡単に大出力の雷を放てていたが、貴様では無理そうだ。どうやら貴様が使える魔力は限られているようなのでな)


 限られてる?迂遠な言い方をする。魔力が少ない、で良いだろうに。悲しいことに、それでも神になってからは格段に増えた。


「で?結局、あの光線に対抗するにはどうすればいい?あんたのやり方は真似できないんだろ?」

(いいや、出来なくはない。簡単な話だ。足りない魔力は補えば良い)

「簡単に言ってくれるが、魔石程度で補える魔力量はたかが知れてるだろ」

(頭を柔らかくしろ。魔力なら、そこに二つあるだろう?)


 フアイの発言が理解できず、少しだけ考えてから、実に鼻につく発言だということを理解した。

 彼が言う魔力というのは、マリアと柚子のことだ。マリアは言うに及ばず、柚子もかなりの魔力を有しているだろうことは想像に難くない。

 

 だが、その言い方はないだろう。魔力以外の人格を無視したような、そんな物言いは。腹が立つ。ふざけた、高慢さの持ち主だと思う。


「…人を物扱いすんなよ。胸糞悪い」

(物扱いなどしているつもりはないが、気分を害したなら謝罪しておこう)


 俺にされても困る、とも思うが、フアイの声は俺以外の誰にも聞こえないし、そもそも今のフアイの物言いが頭にきてるのは俺だ。マリアと柚子じゃない。


「何一人で喋ってんの?」

「放っておいてあげて…深い事情があってさ」


 その当人たちといえば、柚子は軽く引いてて、マリアがフォローしてくれていた。ありがとう。

 …勝手に熱くなってる場合じゃないな。俺はフアイのことが嫌いになりかけているが、幸いなことにあいつは俺の方にそこまでの感情は抱いていない、様に見える。むしろ、好意的だ。なら、ありがたく、力を借りるべきだ。


「謝罪はいらない。代わりに教えろ、その大出力の、雷の使い方を」

(単純だ。奴らの魔力を借りた上で、雷を帯びた状態で全力で魔力を放出しろ)


 本当に単純だ。初歩中の初歩。まあ魔法の初歩も知らなければ出来ないだろうが、流石に魔力を殆ど持たなかった俺も触り程度は魔法の扱いについて学んでいる。

 なら、やり方は簡単だ。問題は、タイミング。奴の光線を真っ向からぶち抜いてやらなければ、簡単に退却などしてくれないだろう。


「三発目―!」


 なんて、思案している内に、また光りだした。本当に無尽蔵だな。あの威力なら、竜と言えどもう少しくらい間隔が空いたって良いだろうに。


「しょうがないか…」


 その時、柚子が嘆息しつつ前に出た。

 そして、懐に携えていた袋の中から、植物の種をばら撒いた。


「全部、持ってて!森の大盾(ヴァルト・シルト)!」


 柚子がばら撒いた種は即座に根を張り、育ち、木となり、絡み合い、林になり、更に絡み合い、森とさえ思えるほどの巨大な盾となった。

 かなりの損壊を見せながらも、その盾は光線を止めた。

 

「―助かった!」

「礼より、早く打開策を見つけないと。あの盾も、良くて後一発くらいしか持ちませんよ」


 スキアーさんの礼の言葉に対し、魔力の消費が激しかったのか、柚子が流れた汗を拭いながら言った。

 …光線は今放たれたばかり、準備するなら、今だ。


「スキアーさん、俺が行きます」

「ブロンズくん?」


 スキアーさんが驚愕した様子で、俺の名を呼んだ。無理もない、俺の実力で竜を倒せるなんて、俺自身が一番信じちゃいない。スキアーさんの反応は実に自然だ。

 

 フアイのことを信頼できるかは、まだ分からない。ダンタリオンがこいつを殺した理由も、こいつの肉をダンタリオンが食わせた理由も、こいつは一言も語ろうとはしないから。

 だが、アイゼンさんたちからも高く評価されるフアイの生前の実力は、疑っちゃいない。こいつが振るったという、大出力の雷の威力を、疑う理由はない。


(お手並み拝見といこう、宿主殿)


 安心して拝見してろよ、フアイ。あんたの力は、今、俺の力として、十全に振るってやる。



「ふむ、流石に一発では足りんか」


 防がれたその攻撃に対し、光線を放った竜は平然と呟いた。【破壊竜】デスペラード、ルドロペインにスキアー殺害を命じられた彼は、僅か半日でその命令を実行に移していた。


「自ら殺せば良いものを、と思っていたが、成る程、あれでは殺せんだろうな」


 デスペラードは、事ここに至ってからようやく納得した。何故、ルドロペインがあの【影】を恐れていたのかを。何故、自分にあれの殺害を命じたのかを。

 確かに、あれは驚異だ。殺傷能力、破壊力に劣るルドロペインの毒では、殺しようがない。あの影の障壁を破れない。だが、自分の武器ならどうか?答えは簡単だ。容易い、とは言わんが、確実に殺せる。


 そう、確信した彼は、直ぐ様次弾を装填した。三発目の、破壊光線。恐らく、次では殺せないだろう。その次でも、きっと。次も、次も、次も、次も、次も。ならその次なら?殺せるかもしれない。彼の光線は、止まない。なら、いずれ殺せる。彼の光線から大市を守ることにほぼ全ての影を使用している彼なら、いつか死ぬ。


「死ね、影よ」


 呟いて、彼は三発目の光線を放った。


「何!」


 だが、それは巨大な木々によって阻まれた。デスペラードは、その予想外の出来事に驚愕を隠さない。

 デスペラードの放つ光線は、神領においても指折りの破壊力を持つ。七英雄たちのそれと比べれば見劣りはするものの、その破壊力で尚且つ連射性を兼ね備えた彼を侮るものはいない。

 故に驚愕した。あの著名な影ならともかく、それ以外にも止められる者がいるとは。


 しかし彼は、直ぐ様冷静さを取り戻し、今の植物に対する考察に努める。

 何も、驚くことじゃない。いくら、非戦闘員が主とは言え、あれくらい出来る人材がいてもおかしくはない。むしろ、あれこそ攻撃手段に乏しいことの表れではないか、必死に防御を固めるその様は、守ることしかできないということではないか。


 そのように彼は前向きに、或いは楽観的に結論付けた。そしてその結論が間違いだったことに、すぐさま気づくことになる。


(…何だ?)


 四発目の光線を放つ準備をした時だった。何かが、遠くで、光り輝いたような気がした。

 そして、その光は雷鳴とともに、尋常ではない速度でこちらに向かってきた。


(不味い!)


 デスペラードがそれが驚異に値するものだと判断したのは、そう遅くはなかった。何故ならそれは、かつて存在した雷の神のそれと良く似ていたから。

 準備が完了していた光線の対象を大市からその光へと即座に変更し、即座に彼は放った。


「ぶち抜け―」


 だが、不幸にも彼は知らなかった。雷の神、七英雄の一角であるフアイが使用していた、単純明快にして至高の雷の威力を、デスペラードは知らなかったのだ。


「【大雷光(ドンナー・シュラーク)】!」


 全身の運動を用いて、ブロンズ・アドヴァルトの右腕から放たれた、極大のその雷は、デスペラードの光線の存在を認めることなく、瞬時に、容易く飲み込み、そのまま彼の肉体へと直撃した。


「う、おおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 デスペラードの全身に、焼けつくような痛みが奔る。そして、単なる雷撃とは格も質も違う、猛烈な全身の感覚を奪うかのような痺れも。

 

「だが」


 それでも尚、デスペラードには届かない。かつて、幾度も争った、【愛染明王】の【核熱拳(スペース・ニューク)】に比べれば、この雷は耐えられないものではない。


「温いぞぉ!」


 デスペラードが雄叫びを上げた。彼は甚大なダメージは負ったものの、それ以上に伝説に聞く、七英雄の一撃を耐えたことに対する歓喜の感情が溢れ出ていた。彼の脳はアドレナリンに塗れ、雷による痛みを、殆ど感じさせない。


「【(ドンナー)】」


 だから、敵に追撃の余地を生ませてしまった。必殺技を耐えたという自負が、次の必殺技を許してしまった。

 剣を抜く、ブロンズ。放つのは、デスペラードは存在すら知らない、彼特有の神性の活かし方。

 【大雷光】に出力こそ劣るものの、一点突破の剣技。ある種【大雷光】よりも恐ろしいものがあるそれが、無防備の者に放たれる恐ろしさを、彼は知らなかった。


「【一閃(シュナイデン)】!」


 進む道程全てを切り裂く、雷の刃が今、デスペラードに向けて奔った。

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