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驚異、襲来 二

「…あー、ね。同棲してんだ、君ら」

「嫌まあ、同棲なんだけどさ」


 俺が説明すると、柚子はそう言って納得した様子だった。同棲、なんだけども。それらしいワードに、胃が痛む。他人から認められているかは、不安だよ、本当に。


「どうせ部屋は余ってるんだから貸してあげればいいじゃん」


 当のマリアは動じることなく、平然と言った。気にしてる俺が馬鹿みたいだ。こういうところに、救われているんだけどさ。


「まああれだ。マリアはああ言ったが、実際襲撃される可能性なんて殆ど考慮に値しないレベルだろ。大市内じゃないというだけで、大市の近くにはあるんだろ?家。なら、憂慮しなくてもいいんじゃないか」

「それはそれで梯子外された気分だけど」


 不服そうなマリアが、束ねて硬質化させた髪で俺の脇腹をつついてくる。痛い痛い、頼むから加減しろ。

 それを見た柚子はくすりと笑ってから、とんでもないことを言い出した。


「…ね、迷惑じゃなければ本当に、間借りさせてもらっても良い?」

「別に迷惑ではない、が」


 何だ?俺の感覚がおかしいのか?普通、知り合って一日目の男の家に泊まらねえだろ。

 嫌、記憶の片隅に放り込んでたどうでもいい記憶を思い出すと、確か師匠も惚れた男の家に初対面で押しかけたとか言ってたな。余りにどうでも良かったから忘れかけてた。なら、やっぱり俺がおかしい?


「正直、心細いしさ。知らない土地で一人きりってしんどかったよ」


 …これにも共感できないのは、流石に俺がおかしいと認めざるを得ないよな。

 だがまあ、理解はできる。空き部屋もあるし、柚子が嫌じゃないなら俺に断る理由はない。


「ブロンズが許さなくても、私が許すよ!」

「お前の中の俺はそこまで冷たい人間になってんのか…?」


 軽く涙ぐんでるマリアに、思わず真顔になる。


「俺も勿論、歓迎するよ。男がいて居心地は悪いだろうが、そこら辺は勘弁してください」

「いやいや、君の家なんだから。お世話になります」


 なんとなく、お互い下手に出たのがおかしくて、二人で笑った。


「それじゃ、改めてよろしくな、柚子」


 そう言って俺は彼女に手を差し出した。


「うん、よろしく。ブロン―」


 彼女が俺の手を握ることは出来なかった。それよりも巨大な出来事が背後で起こっていたから。

 後方で鳴り響いた爆音、振り向いた先で見えたのは光、爆風から視界を手で塞ぎ、収まった後に見えたのは崩壊した家屋、理解できず混乱する人々。


「戦えないやつはこっちだ!地下に潜れ!」


 一人の神が神性だろうか、地面に空間を作り避難誘導している姿も見えた。


「…何今の、怪獣映画?」

「映画だったら良いんだがな」


 絞り出すように言った、柚子の現実逃避染みた発言、同意したくはなるが否定しなくちゃならない。


「何者かの襲撃で間違いないだろ」

「ちょっと待ってよ、さっきの話じゃ」

「さっきの話はスキアーさんの、或いはアイゼンさんたちの威光が通じる相手の話だろ。そうじゃない奴ならあり得る話だ」


 無知蒙昧の生まれ落ちたばかりの神か、或いは天使たち、もしくは理解した上で襲ってきた絶対的強者か。


「今の攻撃、もしかしたらだけどデスペラード、かも」

「マリア、そいつは何者だ?」

「現存する竜の一角。通称【破壊竜】。ラララカーンとかレーヴェルナーノみたいにブレスは吐いてこないけど、それ以上の破壊力を持ってる光線を、絶え間なく放ってくる」


 成る程、絶対的強者の方って訳かよ。だが、待て。マリアにこれ程の知識があるなら、アイゼンさんたちが恐らく一度は邂逅して、生き残っているはずだ。

 俺が怪訝な表情をしていると、マリアが頷いた。


「うん、おかしいよ。だってデスペラードは殺しきってこそいないけど、何度もアイゼンたちが相対して撃退している。アイゼンたちの恐ろしさは充分知っているはずなのに」

「どうやら、裏で何者かと協力しているようだよ」

「スキアーさん」

「アイゼンたちに協力を要請したが、連絡が返ってこない。何者かに妨害されているようだ」

 

 スキアーさんは一人ではない。彼は自らの分体を神領の各所に配置しており、自らの身体に合流することによって情報を共有することができる。こと情報収集という一点においては、彼の右に出る者はいない。


「て、あれ!まずくない!?」


 二発目の光線が放たれる直前に、柚子が叫んだ。マリアの髪が俺と柚子を守るように包む。

 しかし、その光線が大市に届くことはなかった。薄い、闇のような何か、影が大市を包んだから。

 

影の領域(エリア)、ってね」

「こんなの出来るなら、いつでもやっておいて下さいよ…」

「いつも使えれば良いんだけどねえ。分体を殆ど消さないと維持できないから。それに、いつまでも持つわけじゃない。切り札は呼べたが、それまで持ってくれるかどうか…」


 スキアーさんが悲痛そうに漏らした。

 俺が行って勝てる相手なら良かったが、俺の実力で勝てる訳のない相手だということは一番わかってる。時間稼ぎになるなら良いか?嫌、それすらも怪しい。なにせ、相手はあのアイゼンさんと張り合える怪物だ。無駄死ににしかならない。何もせず、助けを待つしかないのか?


(どうやら、お困りのようだな)


 俺が思考の渦に囚われ始めた時、俺の頭の中で響く声があった。


(やあ、久々だな。宿主殿よ)

「フアイ…」


 あの、俺が口にした神が、一年ぶりに俺に話しかけていた。

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