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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

夏の日のラジオ

作者: どんC
掲載日:2022/07/07

主人公の祖母の田舎の設定はほぼ私の祖母まんまです。祖母の家にあった古いラジオから少年探偵団の話が流れていて人の背骨と牛の背骨とを入れ替えてやるって怪人が言っていました。あの話は同じシーンを2回聞いたことがありました。結局そのドラマの結末を知りません。何方か知りませんか?

 祖母が、亡くなった。


 母と俺だけの寂しい葬式だった。

 俺の父親は俺が高校生の時に交通事故で鬼籍に入っている。

 祖母は子宮がんで街の病院に入院していた。

 祖母を看取ったのは母だけで。

 俺は祖母が危篤の知らせを受けて大阪から急いで松山に帰ったが、祖母の死に目に会えなかった。


 祖母の家は高知の県境近くの、うっそうとした山の中にある。

 祖母は1人で暮らしていた。

 子供の頃、母に連れられて、よく祖母の家に遊びに来ていたが。

 中学、高校と部活が忙しく。

 なかなか祖母を訪ねる事が出来なかった。

 俺が入っていた卓球部は地味だが、名門校で強くて、練習がきつい。

 いつもクタクタだったな。

 大阪の大学に行ったからますます疎遠になった。

 それでもたまに電話をかけるぐらいはしたが……


 優しく我慢強い祖母……

 その我慢強さが仇となった。

 子宮がんだと分かった時は、手遅れで。

 入院して直ぐに亡くなった。


 祖母の住んでいた家は茅葺き屋根で、囲炉裏があり。

 寒い日にはパチパチと薪が燃えていたそうだ。

 祖母の家は雪が深いので、俺は夏しか帰らなかったから。

 囲炉裏が使われていた所を見たことは無い。

 祖母の家の思い出はもう一つある。

 祖母のラジオだ。

 古いタンスの上にこれまた古ぼけたラジオが鎮座していて。

 祖母の家に預けられた俺は、祖母が晩御飯を作っている時、暇潰しにラジオを聞いていた。

 祖母のラジオは戦前の古い物で。

 雑音が多く、ブツブツとしか聞こえなかったが。

 それでもたまに連続ドラマ? ホラー? の様な物語が聞こえた。

 雰囲気的には怪人を少年探偵団が追いかけると言うものらしい。


 すまん。


 昔の記憶なんでかなりあやふやだ。

 それでも鮮明に記憶に残っているシーンがある。

 怪人に主人公が捕まり手術台に縛り付けられたシーンだ。

 怪人は言う。


「お前を俺と同じにしてやろう」


 怪人はマスクを脱ぐ。

 怪人は牛男で頭は牛で体が人間だ。

 ギリシャ神話に出てくるミノタウロスの様だ。

 主人公の悲鳴。

 いつもドラマはそこで終わっている。

 毎年祖母の家に行くと、必ずそのドラマが夕方に繰り返し流れていた。

 懐かしい思い出だ。


「そっちは終わった?」


 思い出に浸っていると母が声をかけてきた。


「うん」


 俺はガラクタを箱に放り込む。

 母の手には段ボールが一つ。

 段ボールの中にはアルバムとわずかばかりの祖母の着物があるだけだ。


「それだけ?」


「ええ。後は引っ越し業者に処分してもらうわ」


 母が頼んだ引っ越し業者は中年一人と若いアルバイトだ。

 テキパキと家具やらテレビやらをトラックに運んでいく。

 見る間に家が空っぽになり。

 元々そんなに物は多くなかった。

 祖母が住んでいた家は、祖母のお兄さんの持ち家で。

 祖母が亡くなると早々に家を引き渡すように言われている。

 祖母の兄も奥さんも鬼籍に入っていて、昔よく遊んだ従妹達もこの地を離れ東京で暮らしていた。

  昔よく遊んでもらった。

 従兄弟たちと川で泳いだり、スイカを食べたのはいい思い出だ。

 従妹達は家を早々に手放し、ここには帰るつもりはない様だ。

 従兄妹達の子供もここを訪れる事は無い。


「これ……貰っていいかな?」


 俺はコンセントが千切れたラジオを手に取る。


「そんな古いラジオが欲しいの? ずいぶん前に壊れているのよ」


 母は首をかしげる。


「ばあちゃんとの思い出に欲しい」


「いいわ。欲しいなら持って帰りなさい」


 車の荷台に古びたラジオをそっと置いた。


「最後にお墓参りをするわよ。今度来るってなると……いつになるか分からないから」


 俺は頷いた。

 ご先祖様の墓は山の中にあって。

 冬は雪が多く、春や夏しかこれないのだ。

 祖母の家に来るまでに三坂峠と言う道があるのだが、よく崖崩れを起こしていた。

 母が雇った業者は荷物をトラックに詰め込むとサッサと街に帰って行く。

 祖母の家は空っぽになった。

 山は日が暮れるのが早い。早く山を下りたいのだろう。

 母は祖母の家に鍵を掛けた。

 祖母の家を眺めていた俺を母が急かす。


「山は日が暮れるのが早いわ。早く行きましょう」


 母が花を持ち、俺は水の入ったバケツを持った。

 電気も水道も止められているので、水は沢から汲む。

 けもの道の様な細い道を30分ばかり上ると墓地がある。

 ご先祖様の墓と苔むした数十の墓。

 祖母の墓は町の中に新しく作った。

 母方の祖父はこの村の村長をしていたそうで。

 かなり裕福だったとか。

 若かった頃の祖父はかなりの男前で、祖母は祖父の浮気のせいで別れたのだと言う。

 祖父がいた頃はこの村も栄えていたが。

 今では数件の家しかない。

 限界集落という奴だ。

 俺と母は墓を洗い花を添え、線香を焚いた。

 蝉の声が五月蠅い。

 もう日が暮れる。

 ふと視線を感じて振り返る。

 当たり前だが、誰もいない。

 俺と母は足早に山を下り車に乗り込む。

 町までの道が曲がりくねっているのでスピードが出せない。

 帰りに【おこう饅頭】を買って帰る。

 久万のお饅頭に【おこう饅頭】と【おくま饅頭】があるが。

 俺は昔から【おこう饅頭】が好きで、母に強請っていつも買ってもらっていた。

 大学の皆にお土産として買う。ついでに紙袋を一枚余分にもらいラジオを入れる。


「ほんとあんたはそのお饅頭が好きよね」


 と母が笑う。


「お婆ちゃんも好きだったね」


 ぽたりと母の手に涙が落ちた。

 葬式の時でさえ涙を流さなかった母が泣く。

 母のすすり泣きを聞かないふりをして車を走らせる。

 数時間後に実家についた。

 俺は母を下ろす。

 母の目が赤い。


「一晩泊まっていかないの?」


「泊まっていきたいけど、大学のレポートやバイトがあるんだ」


 祖母の葬式やら後片付けでだいぶ大学を休んでいる。

 仕上げなければならないレポートもだいぶ溜まっている。

 教授達はだいぶ考慮して遅れても良いと言ってくれたが。物には限度があった。


「それより大丈夫?」


「泣いたら少しスッキリしたわ。大阪と名古屋に住んでいる姉さん達に電話いれるわね」


 名古屋と大阪に伯母さん達が住んでいる。

 二人とも旦那が入院していたり、子供の結婚式で葬式に来れなかったり。

 母が兄妹の中で末っ子なのだが。

 祖母の最後は末っ子の母が看取った。

 俺は母と別れるとフェリー乗り場まで車を運転する。

 車ごとフェリーに乗り込むと受付で部屋のカードを貰い、俺は狭い個室に入った。

 ベットと小さな机しかない部屋だが、レポートを纏めるには十分だ。

 俺は鞄からノートパソコンを取り出し幾つかのレポートを仕上げる。

 前もって下調べはすんでいるので、ずいぶん早く終る。

 大阪に着いたらレンタルした車を返して、朝一で教授達にレポートを出さなければならない。

 レポートが終った途端腹の虫が鳴る。


 しまった‼️


 うっかりしていたな。

 もうこの時間は、レストランは閉まっている。

 この船のバイキングは楽しみにしていたのに。

 しかたない。

 自販機にカップラーメンと缶ビールが売っていたな。

 風呂はまだ入れる。

 風呂に入ってからカップラーメンを食べよう。

 風呂はこの時間帯は空いていて、一人占めだ。

 ゆっくりと湯船に浸かる。


 ああ……


 長時間の運転や机に噛りついていたから体がガチガチだ。その疲れがお湯に溶ける。


 いい湯だな~~♪


 何か歌ってしまった。

 そう言えば、祖母はドリフターズが好きだったな。

 湯船から上がり髪を洗う。

 ふと鏡を見ると湯気の中に誰かが立っていた。

 大きな男だ。


 あれ?


 扉が開いた音がしたっけ?

 シャワーで泡を洗い流し、もう一度見たが。


 誰もいない。


 気のせいか。

 俺は体を洗うともう一度湯船に浸かり歌を歌う。

 風呂から上がるとカップラーメンと缶ビールを買って部屋に帰る。

 消灯の時間が来ていたので、辺りは暗かった。

 俺はカップラーメンを食べて缶ビールをあおる。


「かー‼️ 殺人的美味さだ‼️」


 生憎焼き鳥は売り切れて無いが、俺は某勝負師の様な口調で幸せを噛み締める。

 至福の時は終わりを告げ。

 俺は歯を磨き布団に潜り込む。

 そう言えば俺は祖父に似ているらしい。


 解せぬ‼️


 祖父はモテたらしいが、俺の回りに女がいない。

 祖父がふった女の祟りで、俺はモテないんじゃなかろうか?


『お前はおじいちゃんにそっくりね』


 祖母が悲しげに俺の頭を撫でてくれたのは……

 何時だっけ?


 祖父は祖母と別れて行方不明になったと言う。

 若い女と駆け落ちしたらしい。

 結局祖父と浮気相手の女の行方は分からない。

 祖母は娘3人を育て上げた。

 3人とも遠くに嫁に行き。

 祖母は1人であの村に残った。


 祖父の帰りを待っていたのだろうか?


 祖父はまだ生きているのだろうか?


 それとももう亡くなっているのか……

 祖母からも母からも祖父に対する恨み言を聞いた事は無かった。

 伯母さん達からもだ……

 波の音を聞きながら俺は眠りについた。


 ブツブツとラジオの雑音が聞こえる。

 あのラジオの音だ。

 ラジオはまたあの話を流す。

 牛の頭の怪人に捕まった探偵団の少年……


 いや?


 少年にしては野太い声。

 大人の声だ。


『許してくれ‼ 私が悪かった‼ もうその女とは別れる‼』


『あんた‼ 何言っているの‼ 奥さんよりも私を愛しているって言ったじゃないか‼』


 あだっぽい女の声がする。


 女?


 あれ? 女なんてあの話に出ていたっけ?

 俺が聞き逃しただけか?


『頼む‼ その女は好きにしていい‼ でも俺だけは助けてくれ‼』


『あんた‼ このろくでなし‼』


 女は口汚く男を罵る。


 怪人の笑い声。


『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー‼』


 怪人はバリバリと女の顔の皮を剝ぎ、女の両手両足を膝と脛の所で切り落とし女に焼き印を押す。

 女は人犬にされた。


『やめろー‼ やめてくれー‼』


 ーーー お前のその美しい顔だけは残してやろう ーーー


 怪人は男の体を牛の体に挿げ替える。

 まるでくだんの様だ。


「あ……ああ……ああああああ……」


 異形の姿にされた男のすすり泣く声はいつの間にか牛の声に代わる。

 クスクスと笑う子供の声。

 いつの間にか件となった男と人犬になった女を取り囲むように三人の子供と女が立っていた。

 子供と女の笑い声が耳から離れない。





 はっと俺は目覚める。

 頭が重い。

 体のあちこちが痛い。


 筋肉痛か?

 祖母の家を片付けたせいか?

 それとも山の中を歩いて墓参りしたからか?


 あれ?


 俺はしばらくしてここが船の中であることを思い出す。

 携帯の時計を見る。


 やばい‼


 寝過ごした‼ ギリギリだ‼


 俺は慌てて服を着る。

 荷物をバッグに突っ込むと、受付の美人のお姉さんにカードを返して車に飛び乗り下船した。

 そのまま町まで車を走らせるが、車を借りていたレンタル屋はまだ開いていない。

 時間を潰そうと24時間開いているマッグにより、ハンバーガーとポテトとジュースを注文して腹を満たす。

 時間が来たので、レンタルした車を返した。

 おっと、壊れたラジオとお土産を持つ。

 忘れてはいけない、大切な物だ。

 その後はバスに乗り大学に行くと教授達にレポートを提出した。

 もう今日は疲れたのでこのまま家に帰って寝よう。

 明日は居酒屋のバイトの皿洗いがあるし。


「よう‼ 久しぶりじゃん。バーさんの葬式すんだのか?」


 チャラい男が声をかけてきた。

 細い目が意地悪く俺を見る。


 うげぇ~~~‼


 嫌な奴に会った。

 俺はこいつが嫌いだ。

 一応2年年上の先輩(志村)になるが、あまりいい噂を聞かない。

 こいつの入っているテニスサークルに問題があって。

 女子部員に薬の入っている酒を飲ませてやりまくってるって噂されていた。


「おいこれ何や?」


 馴れ馴れしく紙袋に入っているラジオを見る。

 金持ちなのに後輩にカツアゲしているっていう噂もあったな。


 大事なラジオに触るな‼ 思わず叫びそうになるが。


「あ……壊れたラジオです。祖母の形見に貰って来たんですよ」


 一応こんな奴でも先輩だ。丁寧な対応をする。

 変に目を付けられないようにしなければ、うざがらみされても困る。


「もうちょっと金目のものは無かったんか? まあお前ん貧乏人だからしかたないかwwwwww」

 」


 親が政治家で金持ちなのを鼻にかけ、本当にウザイ。

 貧乏人と不細工を馬鹿にする。嫌な奴だ。

 自分達を上級国民だとでも思っているのか?


「壊れているのか?」


 奴はラジオを手に取る。

 そしてわざと落とす。


 ガシャン‼


 ラジオは床に転がる。

 木でできた枠が、三つに割れ、中の機械もグシャグシャだ。


「おっ。わりい。わりい。手が滑った」


 ちっとも悪いなんて思っていない顔で、ニヤニヤ笑い。


「おっ‼ 饅頭か? しけてんな。まあ貰ってやるよ」


 お土産の饅頭の紙袋を勝手にひったくって去っていく。

 おいおい‼ 誰が饅頭をやると言った。

 この男はドロボーだ。

 こいつはいつもそうだ。

 誰かが大事にしている人や物を取っては壊す。

 この間も榊先輩の彼女を寝取って捨てた。

 そうやって次々とトラブルを撒き散らしていく。


「飽きた」


 と言っては棄てる。

 物なら兎も角。

 妊娠したと痴話喧嘩していた榊先輩の元カノもいつの間にかいなくなった。

 噂じゃ流産したとか、父親の権力を使って揉み消したとか。

 殺して木の下に埋めたとかの噂もある。


「大丈夫か?」


 榊先輩が声をかけてくれる。

 本当に榊先輩はいい人だ。


「はい。大丈夫です。元々壊れていたラジオだったから……」


「でも……お婆さんの思い出の品なんだろ」


 俺は眉を下げる。

 どうやら俺達の話を聞いていたようだ。


「これ……直そうか?」


「えっ? 直せるんですか?」


「流石に中の部品は、新しい物に取り換えるけど。直せるよ」


「お願いできますか。かかった費用は出します」


 榊先輩は手先が器用だ。

 おまけにちょっとした電化製品なら直せる。


「うん。中身を変えて、外を直せばそんなに時間はかからない。あれ?」


「どうかしましたか?」


「これ……紙が入っている」


 古ぼけた紙が入っていた。

 画用紙か? 

 小さく折りたたまれている。

 伯母さんか母が悪戯していれたのか?

 俺は紙を受け取ると紙を開いた。

 酷く黒く汚れている。

 三人の着物を着た女の子と牛の絵が書かれていた。

 うん。下手な絵だ。

 この下手さ加減は母が書いたものだろう。

 後で母に電話するか。

 俺は先輩にラジオを預けるとアパートに帰った。



 ブツブツとラジオの声が聞こえる。

 また……男の声だ。

 なんだろう? この声……

 俺の嫌いな志村の声に似ている。

 いや……志村本人だな。


『ここはどこだ‼』


 志村は手術台に縛り付けられているようだ。

 ぎしぎしとベッドが音を立て志村はかなり暴れている。

 あの牛男が志村の傍に立っている。

 志村と牛男を囲む様にして30人程の女が立っていた。


 うん?


 あの女達は何処か見覚えがある。


 あれ?


 テニスサークルに入っていた女達だ。

 そのほとんどが大学を止めたり、行方不明になったりしていた。

 腹の大きな女もいる。

 憎悪の目で志村を見ている。


『はははははははは‼』


 牛男は笑う。


『いいね♡ いいね♡ 君はこんなにたくさんの女達に恨まれている』


「な……なんなんだよ‼ お前は‼ 変な牛のマスクなんか被りやがって‼」


 牛男は志村に顔を近づけると生暖かい息を吹きかけた。


「ひっ‼ 本物‼ 噓や‼️ 有り得へん‼」


『この世には有り得ないなんてことは無いんだよ』


 牛男は嗤う。

 人の様な牛の様な声で嗤う。

 女達はただじっと志村を憎悪の眼差しで見つめる。


『さあ。君に名誉を与えよう』


 いつの間にか黒い牛がいる。

 女達の一人が巨大な鉈を振り上げて牛の頭を切り落とす。

 不思議なことに一滴の血も滴り落ち無い。

 志村の悲鳴が辺りに響く。

 牛男は女から鉈を受け取る。

 女はよく見ると榊先輩の元カノに似ていた。

 顔が腫れていたので気がつかなかった。

 下腹部が膨れている。

 妊娠したと言う噂はあった。

 女達をよく見れば、皆あっちこっちに痣が在ったり手足が変な方向に曲がっていたり、血を流していたり。 肌の色も死人の様だ。


 うん。皆死人なのだ。


 牛男は巨大な鉈を片手で振り上げると志村の首を切り飛ばす。

 ころころと首は転がり女達の足元まで転がる。

 女達は首でサッカーをし始める。

 肺も無いのに志村は悲鳴を上げた。

 ひとしきり蹴飛ばされていた首は最後に牛男の足元に転がる。

 牛男は志村の首をがっと掴むとしげしげと志村の顔を眺めた。


『お前は本当に恨まれているんだな。よしよし』


 牛男は首無しの牛の躰に志村の首をくっつけた。


『件の出来上がり』


 不思議なことに志村の頭と牛の体はくっついた。


「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」


 痛みの為か、驚きの為か志村は悲鳴を上げる。


「ふざけんな! ふざけんな! これは何や‼ 元に戻せ‼ この牛野郎‼」


『失礼な男だね。私には牛頭ごずと言うちゃんとした名前があるのだよ』


「牛頭‼ 地獄の門番か‼」


 牛頭はニンマリと笑う。

 地獄の門を守っているのは牛頭ごず馬頭めずと言われている。

 牛の頭と馬の頭で体は人間の地獄の獄卒だ。


『当たっていると言えるし、違うとも言える。門番をしているのは私の従兄弟でね』


 そこで彼は嗤う。


『私はちょっとばかし違う仕事をしているんだよ』


 それでも悪人を地獄に落とすことには変わりないがねと笑い。

 優しい手つきで志村の牛の首を撫でる。


『言うなれば【件メーカー】とでも言ってくれるかな』


 うん。いい出来だ。

 牛頭は頷くと作品の仕上がりを確認する芸術家のような手つきで件を撫でまわす。


『君には一仕事してもらうよ』


「一仕事?」


『件の仕事は一つしかないだろう』


 牛頭の目が細くなる。


『予言をして死ぬ事だ』


「いやだあぁぁぁぁぁぁぁ‼」


 志村の絶叫が響き渡る。




 変な夢を見た。

 頭がボーっとする。

 大学の授業もなんか頭に入らないし。

 バイトの皿洗いは皿を割りそうになりながらも何とか終える事が出来た。

 皆は祖母が亡くなっている事を知っているから家に帰って休むように言ってくれる。

 俺は皆の忠告を聞いて直ぐにアパートに帰った。

 ベッドに倒れ込む。


 ピロリン


 携帯が鳴る。


 ん?


 俺の銀行口座に金を振り込んだとメールが届く。

 知らない男からだ。

 大金だ。

 一瞬祖母の遺産かな?

 と思ったが、祖母は年金暮らしで借金が無いだけましだと母が言っていた。

 祖母はどうやって母と伯母さん達を育てたんだろう?

 離婚した祖父に慰謝料を貰ったのか?


 送り主の名は……


 総理大臣と同姓同名だ。

 ふざけているのか?

 ただの偶然か?


 おい‼


 まさかやくざの危ない金じゃないだろうな‼

 マネーロンダリングとか言うやつか。


 警察に相談するか?

 だるい……

 今はもういいや……

 俺は眠りについた。





 何時ものように授業を終わり学食でラーメンをすすっていると榊先輩がやって来た。


「直ったよ」


 榊先輩は俺の前に風呂敷を置いた。

 唐草模様だ。

 ドリフターズのコントで泥棒が背中に背負っているやつだ。

 風呂敷をほどくと中からラジオが現れた。

 ラジオは見事に修理されている。


「凄い‼️ 割れた所が分からない‼️ おまけにピカピカだ‼️」


「木を磨いたが、古びた感じに戻す事も出来るよ」


「そんな事も出来るんですね。いえ。これで良いです。本当にありがとうございます」


 俺はニコニコと笑って榊先輩に修理代を払う。


「本当に原価だけでいいんですか? これ立派な商売になりますよ」


「ああ。いいよ。趣味みたいな物だからな」


「おい。志村を見なかったか?」


 三人の志村の取り巻きが俺と榊先輩の所にやって来た。

 志村の腰ぎんちゃくだ。

 シティーボーイを気取っているが、何処か垢ぬけない奴らだ。

 大阪の人間のくせに大阪弁を使わない。

 志村は埼玉出身で、この大学は県外の人間が多いのだ。

 変なプライドがあるんだろうか?


「松山から帰って来た時に見かけたきりだな。二週前にだけど? 志村さんどうしたの?」


 俺の背中に冷たい汗が流れる。

 いやいや偶然だろ。

 夢の話だ。


「二週前から居ないんだよ。マンションにも恋人の所にも……親も探してるし」


「悪事がバレてトンズラしたんじゃないの?」


 ふいに女の声がした。


「何を‼️」


 隣でランチを食べていた女子グループが三人を睨み付ける。


「ヤバい相手に手を出して、今頃はドラム缶に詰められて海の底かもよ」


 女達が嗤う。


「警察が動いているんじゃないの? 」


 黒ぶちメガネの女子がボソリと呟く。


「お前らこそ永森由香を知らないか? 永森の親御さんが探していたんだが……」


 榊先輩が逆に三人に尋ねる。

 永森由香は榊先輩の元カノだ。


「あんた達を見捨ててトンズラしただけだったりして」


 行方不明になっているのは、志村だけじゃないからと付け加えメガネ女が嗤う。


「流石に警察も動くわよ」


 三人の男は真っ青になる。


「俺達は知らない‼️」


「そうだ‼️ 行方不明の女達の事なんて‼️ 志村が勝手にやった事だ」


「そうだ‼️ 関係ない‼️」


 三人に動揺が走りそそくさと立ち去る。


 馬鹿か‼


 自分達も共犯だと白状しているもんだ。

 そんな三人を冷たく見つめる女子グループ。

 気まずいフインキにいたたまれなくなった。

 俺はラーメンをかきこむとラジオを抱き抱えてアパートに帰る。

 今日はアルバイトは休みだ。

 バス停まで歩くと、俺の横に高級な車が止まる。


 車のドアが開き、厳つい男が出てきて。

 俺は車の中に引っ張り込まれた。

 ゴリラのような男達が両脇に座る。

 目を白黒させている俺を眺めて向かいの男が微笑む。


「いやすまない。少し強引だったね。君と少し話がしたくてね。君のお婆様には大変お世話になっていたんだよ。御悔やみを言うよ」


「祖母の知り合いの方だったんですね。でも祖母からは総理大臣の知り合いがいるなんて聞いたこと無かったです。あっ‼️ もしかして俺の銀行口座に振り込まれていたお金は……」


 メールが届いた後、銀行口座を調べると大金が入っていた。


「そう私が振り込んだんだよ。君はとても良い仕事をしてくれた。日本国民に代わって礼を述べるよ」


「いい仕事?」


「代々君の母方の血筋が行っている仕事でね」


 京都のある場所に特別な牛小屋があると老人は語る。

 俺の一族は代々そこに特別な牛を送るのだと言う。

 100年に一回だったり10年ごとだったり。

 時期はまちまちだそうだ。


「今回はとても有益な予言だった。ヨーロッパで戦がある。上手く立ち回れば島を取り戻す事ができる」


 彼は笑う。

 あの牛頭に似た笑い方だなと、ふと思う。


「ああ、志村の父親の件は心配しなくていい。目障りな売国奴だ。奴は隣の国と通じている。こっちで始末するよ」


 俺のアパートの前に着く。

 ふと老人は俺が抱えるラジオの包みに目を止める。


「それが……呪具か?」


 俺は頷く。


「祖母の形見です」


「大切にしなさい」


「はい」


 俺は車から降りた。

 この国の頂点にいる男は軽く頭を下げると運転手に合図を送る。

 車は走り出し、俺はアパートの二階に上がり部屋に入る。

 ワンルームの部屋の中央のテーブルにラジオをそっと置く。

 俺は鞄からボロボロの画用紙を出した。

 黒い汚れは血なのだろう。

 よく見ると三人の女の子とその母親がいる。

 牛の頭は人間だった。

 そして……

 大きな鉈を持った牛男が黒ずんだ汚れの中にいた。

 祖父を件にしたのは祖母と母と伯母さん達だったか。


 件メーカー……


 祖父はどんな予言をしたのだろう?

 道理で皆から祖父に対する恨み言を聞かないはずだ。

 恨みは晴らしたのだから。

 己の手によって……


 気が付くと牛男がテーブルの前であぐらをかいて座っている。

 牛男が座っている座布団は押し入れに入れていたお客さん用の物だ。


「ばあちゃんの家からずっとついて来たのか?」


 牛男は優雅な手つきで茶を入れる。

 夢の中は暗くてよく分からなかったが、こいつ褌一丁なんだよな~~

 優雅に俺に茶を差し出し自分にも茶を注ぐ。


『そうだ』


 道理で山の中や船の風呂の中で気配を感じたはずだ。

 牛頭のストーカーかよ。

 ムキムキの牛男が大鉈持って俺の後ろを付いてくる絵面は果たして恐怖か? お笑いか?


「お前は何だ?」


 俺は茶をすする。


『管狐や犬神つきの様な物だな』


「犬神憑きって、呪術で犬神を使役している家系のことか? 犬を頭だけ出して埋めて餓死寸前で首を刎ね呪術に使うってやつ」


『あの家系は人を呪うのが仕事だ。お前の家系は件を作り出し予言をするのが仕事だよ』


「このラジオが呪具なのか?」


『そうとも言うし、そうでは無いとも言える』


「どっちなんだよ」


『血筋そのものが呪具だ。お前の祖母と母親と叔母達はそのラジオを使った方がやりやすかったんだろう。そのラジオはお前の祖父が買って来たものだから』


「坊主憎けりゃ袈裟まで憎いって奴か」


 思い出の品か……


『そうだな』


「何で志村だったんだ?」


『生贄はお前が出会った、多くの者に恨みを買っている人でなしが自動的に選ばれる』


「死刑囚ではダメなのか?」


『テレビや新聞で知っている程度では贄にならない』


 牛男はため息をつく。


『お前は志村を知っていた。殺された女達を知っていた。志村を恨む友人達を知っていた。お前も志村を嫌っていた。知らない人間じゃ呪術は発動しない』


「そんなもんなのか?」


『そんなもんなんだよ』


「こらからもお前は件を作るのか?」


『それはお前次第だよ』


「そっか」


 俺がお茶を飲み干して牛頭を見ると奴は消えていて。

 テーブルの上には飲み干された湯吞があった。




 後の話になるが。

 志村の腰巾着三人組は警察に捕まった。

 志村の父親もだ。

 行方不明になった30人の女子大生。

 奴らのした事が白日の下にさらされた。

 志村と三人の腰巾着は即座に大学から抹消され。

 志村の父親はヤクザと繋がっていて、志村が飽きた女大生を誘拐して島で売買をさせていたらしい。

 客はサディストで拐われた女性の多くがヤク中になっていたり、殺されていたりした。

 先輩の元カノも殺された一人だった。

 亡骸は島に埋められていて、酷い有様だったと言う。

 志村の父親は政界を追われ、裁判にかけられ死刑を宣告された。

 共謀した中村組のヤクザも大方死刑だ。

 例の三人組は10年ほど刑務所にぶちこまれる事になった。

 君は軽いって思うかい?

 三人組は刑期を終えると行方不明になった。

 例の牛小屋に三頭の件が現れ、また俺の口座に金が振り込まれる。



「先輩~~また修理の注文お願いします」


 俺は榊先輩と会社を起こした。

 会社と言っても小さい物で、俺と榊先輩と事務の女の子しかいない。

 小さな修理屋だ。

 持ち込まれる物は携帯電話から家電や玩具、果てはぬいぐるみまで手広くやっている。

 これがそこそこ繁盛しているのだ。

 どうしても手放せない、思い出の品というものはあって。

 言うなれば俺達は思い出のお医者さんだ。

 今日もDVDデッキや古いゲーム機にシンバルを叩く猿の玩具がやって来た。

 俺は店の裏で修理しているそれらを運ぶ。


 そうそう祖母の古いラジオは俺の机の上に置かれ、流行りの曲が流れている。







                 ~ 完 ~






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  2022/7/10 『小説家になろう』 どんC

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[良い点] とてもわくわくしながら読ませていただきました! 実在する場所が舞台となっているからか、お祖母様のおうちや田舎の様子が丁寧に描写されイメージしやすかったです。 序盤に出て来る謎の番組が、最後…
[良い点] おじいさんのお話だけでなく、続きがあったのですね~。 怪異の元がわかっての大団円、お見事でした。
[良い点] 話の内容がとても面白かったです。 意外性もありました。
2022/07/18 09:19 退会済み
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